第11話:KAGUYA計画 ― 服部章 ―

夜明けの廊下は静まり返り、遠くでサイレンの余韻だけが残っていた。

服部は医療室の入り口で立ち止まり、ベッドの上で眠るカナタを見下ろす。


昨夜の戦闘での光景が脳裏をよぎった。

――あの力……普通じゃない。

瓦礫を浮かせ、裂け目を安定させ、民間人の傷を瞬時に癒す。 あの力は、他の月神子では理解し難いものだった。


カナタは目を覚ます。微かに目を開け、窓越しに朝の光を見つめる。

「……守らなきゃ」


服部はその小さな声に、責任感と孤独が混じった響きを感じ取った。


拳を軽く握る。

――俺が受け止める。

カナタの背負うものを、俺が受け止めてやる。


静かな医療区の廊下に、電子音が遠くで響く。

カナタの病室を出た服部は、足を止め、その音に耳を澄ませた。


神殿の監視室と繋がる通信が、完全には遮断されていない。

表向きは体調管理の名目でも、実際にはカナタの力の異質さを探る視線が、そこから送られている。


「……あの出力値は、通常の月神子の範囲を超過……確実に異常だ」

別の職員が慎重に答える。

「月島監査官には報告済みです。ですが、我々にはこの力が理解できません。」


服部はその意味を察しつつ、少し眉を寄せる。

月島監査官?カナタの母親、霧子さん?


――霧子さんは分かっているのか?あの光は、確実に体に負担をかけている。限界を越えたら、どうなるんだ?


先程のカナタの表情には少年らしい穏やかさが残っていた。

だが服部は、資料室のモニターに一瞬見えたKAGUYAという赤ん坊の映像を思い出す。


――上層部の監視命令の理由は、……あれか?

服部の疑問は渦巻き、思いを巡らせ目を閉じる。


――

「この間は本当に助かったぞ、カナタ」

返事は小さく、しかし力強い。

「こちらこそ……皆さんが無事でなによりです」


「今日は無理せず、しっかり休めよ」

服部は優しく微笑むと、しばしカナタを見つめてから静かに部屋を後にした。


外の街はまだ混乱の渦中だが、廊下に立つ服部の視線には決意が宿っていた。

――次に何が起ころうと、俺はカナタの側にいる。 そしていつか、彼の正体に気づく日が来るのだろう。


監視室のモニターは再び赤く点滅し、職員たちの視線が画面に集まる。

――この子は……ただの月神子ではない。 データの不完全さ、力の異質さ。


神殿に残された、かすかな記録の断片――

それは、KAGUYAと名付けられた存在へと繋がっていた。

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