君に触れた日

和よらぎ ゆらね

君に触れた日

「アンタに化粧けしょうされてみたい」

かがみまえ指先ゆびさきほほてながら

冗談じょうだんめかしてわら

ぼくはそのたび「絶対ぜったいごめんだ」

ってそっぽをいた


でも、今日きょうでそのやりとりもわりにしよう

しずかにじてきみをじっとながめる


きみはだしろいから、すこいろせようか

ゆっくり、丁寧ていねい

指先ゆびさきほほでると、まだ温度おんどのこっているようながして、むねおくがひどくきし

これが最後さいごの“距離きょり”だとおもうたびに、呼吸こきゅうがうまくできなくなる

 

いつもはあわいろばかりこのんでいたけれど、

今日きょうきみは、すこしだけ大人おとなびた

雰囲気ふんいきをまとわせたい

まるでよるふかさをめたみたいな

しずかな影色かげいろ


くちびるには、きみがよくながめていたべに

たなおくねむっていたちいさなガラスびん

「これってぼくにも似合にあうかな?」

れくさそうにそっとわらったきみこえよみがえ


——————————



ねぇ、てよ

ほら、綺麗きれいになったよ

ぼくのなんて不器用ぶきよう

うまくできるか心配しんぱいだったけど——

きみは、どんないろせても

似合にあってしまうんだね


だからさ、一回いっかいだけでいい

けて、てよ

ぼくの、きみの。“最初さいしょ最後さいごのお化粧けしょう”を


……ねぇ、目覚めさましてよ



きみかみをそっとみみにかけながら、ぼくはわら

きみがよくやっていた仕草しぐさを、真似まねして

きみせたかった

きみとなりつときのぼくでいたかった


ねぇ

こえる?

だから“御免ごめん”だったんだ

こうなるのがこわかったから


だって——きみ化粧けしょうしたら、

ぼくの“メイク”が全部ぜんぶくずれてしまうじゃないか


なみだでにじむ視界しかいこう、

きみあいわらずしずかで、ひどく綺麗きれいだった。

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君に触れた日 和よらぎ ゆらね @yurayurane

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