聖女逃走
僕はただ寝ていただけなんだ。
大都市の片隅の家でお母様とお父様と静かに暮らしていた。
将来の為の習い事を教えてもらいながら、ただただ楽しい日々を過ごしていたんだよ。
あの夜まではね。
「予言の魔術師を殺せ! 我等に災いをもたらすであろう魔術師達を皆殺せえぇ!!」
「全てを壊せ! 全てを殺せ! 全てを破壊し蹂躙せよぉ!」
「「「オオオオォ!!」」」
静かだった夜に突然、アイツ等がやって来たんだ。
全てを壊しながら。このランサルの都市を壊し始めた。
僕はお母様とお父様に家の地下へと隠れている様に言われたんだ。
そして、夜が明けた次の日の朝、そこは僕が知るランサルとは違う。
絶望の世界が広がっていた。
「何これ? みんな壊れてる……お母様とお父様は? どこ?……なんでこんなに事に?」
「あん? 見ろよ! あんな所に生き残りのガキが居るぜ!」
「ん? マジかよ! やったな! 追いかけ回して」
「黒い化物?……あれはお父様が言ってた……魔人?!」
◇
「待てや! ゴラァ! クソガキ!!」
「どこに逃げても助けてくれる奴なんて、どこにも居ねえぞ。俺達が焼きつくしたまったからなぁ!」
追われてる追われてる追われてる……僕は今、怖い人達に追われている。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
「誰か! 助けて下さい! 怖い魔人達に追われているです! 助けて下さい!」
「ハハハハハハ!! 一生懸命逃げてやがるぜ!」
「クソガキ! そっちに行って良いのかよ? そっちは俺達。バルテュス国軍の駐屯地だぜ?」
「助けて下さい! お願いします。助けて下さい! 誰かいませんか? お母様! お父様! どこに居るんですか! 居たら返事をして下さい!!」
僕は一心不乱に逃げた。一生懸命になって怖くな居場所を目指したんだ。
「助けて下さ……があぁ?!」
何か硬い物にぶつかった。岩よりは硬くなかったからもしかして……
「あ、あの! 助けて下さい。今、僕は怖い人達に追われてい……て?」
「ん?……何故、ここに人が居る? 昨晩のうちに全滅させた筈だが。なあ? ウル」
「へあ?……鎧の化物?」
金と銀の鎧姿の化物が僕を見下ろしていた。怖い怖い怖い怖い。
「ああ、しかしこの子供。我等の軍に最後まで抵抗した。魔術師夫婦にそっくりではないか? 小僧顔を見せろ。俺とラグドが持つ魔術師夫婦の顔と見比べるのでな」
「見比べ……る? あれ? その顔……僕のお母様とお父様……なんでお顔しかないの?」
顔しかない。僕の大切なお母様とお父様の身体がない? なんで?なんで?なんで?なんで? 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 会いたい!会いたい!会いたい!
それなのになんでお母様とお父様の身体無いんだよぉ!!
「……その睨んだ顔。ラグド、コイツはこの魔術師夫婦の子供に間違いな……」
「ウル。どうした? 何故、最後まで喋らな……」
「お、おい! ウル様とラグド様の身体が消えたぞ! あのクソガキ。何しやがった?」
「……分からねえ。ただあのガキ。さっきと雰囲気違くねえか? おい!クソガキ。お前、あの方達に何しやがった?」
僕はさっきから喋る
「お母様。お父様。僕だけ生き残ってごめんなさい。僕だけ無傷でごめんなさい。僕だけが残ってごめんなさい。僕の命を助けてくれてありがとうございます。お母様。お父様」
僕はお母様とお父様を抱き抱えながらひたすら謝り感謝する。深く深く感謝します。僕を救ってくれてありがとう。
「なんだアイツ? 背中から、なんで光の鎖見てえなのが出て来てんだ?」
「……あのクソガキが動き出す前に殺そう。嫌な予感がす……」
「な?! ゼリクトなんで顔が消えてんだ?」
「許さない許さない許さない……僕はお前達魔人を絶対に許さない……エルキド」
「なんだ? その武器は? クソガキィィ!」
ドスッ!
◇
蛮族共を狩って狩って狩りつく……それが僕からお母様とお父様を奪ったコイツ等への復讐だ。
「ハハハ!! なんだ? あのデタラメ強さは? 魔人共を、一方的に殺しまくってじゃねえか」
「……笑い事じゃありませんよ。オルストス隊長……早く止めないと。捕虜にする魔人も殺されちゃいます」
「良いんじゃねえか。その方が。浄化前で後方で待機させてる軍の奴等の戦力も温存できるしよう。無駄になるのも兵糧だけで済むじゃねえか」
「そんな……何を他人事みたいに言ってるんですか?」
「あん? 他人事だろう? 俺は所詮は雇われの隊長だからな」
「…………そうですか」
「それにもう手遅れだろう。魔人共……おれらが話し合ってる間に狩り尽くされちまったみたいだぜ。それと来るぜ! 光鎖の坊主が」
「そんな? まさ……か?」
魔人達を全滅させたら、話しかけようしていた人族。1人は大人にもう1人は子供。
「誰ですか? アナタ達は? 僕の敵? 味方?」
「ハハハ! 敵に決まってんだろう。ルシアンのガキ! お前を捕まえに来たんだぜ」
「は? ちょっと待って下さい。オルストス隊長! 貴方はいったい何を?」
「そうなら始末す……」
僕はなんの躊躇いもなく大人の方を刺そうと鎖を振り上げた。
「良いのか逃げなくて? テメエの聖痕なんて俺は消し飛ばせるんだぜ。シルレア・トリスメギストス」
「トリスメギストス?……こんな小さい子が? 魔術師なんです……か?……光の鎖が私に絡み付いて。は、離しなさい。ボクちゃん」
大人の方へと振り上げようとした鎖を、子供の方へと飛ばして捕まえた。
「ボクちゃんじゃない。シルレア……この娘は僕の人質に貰うから。それとこの娘の荷物も」
「ん~? 好きにしなをその為に連れてきたんだかな。聖女候補ちゃんだぜ。大切にして仲良くやりな」
「は? はぁ? 何ですかそれ? オルストス隊長!!」
「あばよ。聖女候補ちゃん……アンタはとりあえず。戦死した事にしておくからよう。花嫁修業しながら頑張ってくれや」
「ちょっと待って下さい! それはどういう事ですか! オルストス!」
「ここから逃げるよ。聖女候補さん」
「ま、待ちなさい! 意味が分かりません。オルストス! これはお父様に報告しますからね。覚えていなさい!!」
僕は光の鎖を遠くへと伸ばし、光の鎖が掴んだ何かへと向かい始めた。
「おお! すげえな。聖痕の力……いや~! これから楽しみだな。ルシアン、お前の息子の成り上がりがよう! ハハハ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます