第35話 人選、ただし争奪戦。

 セドリック殿下との決闘(団体戦)の日程が決まった。

 ということで、ユーフィリア王女殿下とともに諸先輩方の勧誘に来ている。


「アルテアせんぱ~い♡」

「リリアさん、こんにちは。ユーフィリア殿下につきましては、わざわざ私のもとへお越しいただき、身に余る光栄です」


 身分としてはアルテア先輩よりユーフィリア殿下の方が上。本来はユーフィリア殿下のお声がけがあってからアルテア先輩が答えるのが正しい順序なんだけど、リリアちゃんにだけ挨拶を返して王女に挨拶しないのも無礼なので挨拶した形。

 正解は知らないけど、ユーフィリア殿下はこういうことで目くじらを立てるタイプじゃないし心配は無用。


「ごきげんよう、アルテア・フォートライン先輩。本日は先輩にお願い事があり、こうしてご訪問させていただきました」

「団体決闘のことでしょうか?」


 おや、とユーフィリア殿下が目を大きくする。


「耳が早いですね、どなたからお伺いになられましたか?」

「対戦相手のセドリック殿下から」


 ユーフィリア殿下の目がすっと細められる。

 たぶん、セドリック殿下の姑息さにささくれだった感情を抑えている目。

 なんだかんだ長い付き合いだから僕は正確に心情を把握できたけど、そうでないアルテア先輩は非難されてると思ったのか慌てて弁明を始めた。


「勘違いなさらないでくださいね? もちろん、お断り申し上げました。主に剣を向けることはできませんので」


 アルテア先輩いわく、セドリック殿下が彼のもとを訪ねて来たのはちょうどリリアちゃんが馬を駆る練習をしていたころ。


  ◇  ◇  ◇


「アルテア・フォートラインだな?」


 アルテアが剣の鍛練を中断し、声の主のいる方に振り向く。そこにいたのは国の第一王子、セドリック・フォン・セイファートである。


「セドリック殿下、本日はこのような場所まで足をお運びいただきましたこと恐悦至極に存じます」

「うむ。今日は貴様に素晴らしい提案を持ってきた」


 アルテアが話を聞けば、セドリックは「リリア・ペンデュラムと団体決闘する」、「貴様の剣の腕は私も一目置いている」、「私が王位を継いだ暁には、将来的に騎士団長の座を約束しよう」と口にした。


「どうだ、悪くない提案だろう?」


 アルテアの答えは決まっていた。


「お断りさせていただきます」

「な、何故だ!?」

「私の剣は、ユーフィリア殿下に捧げると誓っております。主君に刃を向けるなど、到底できません」

「ぐっ、貴様……! いつのまに愚妹の派閥に!」


 セドリックは内心で悪態を吐いた。

 というのも、彼を勧誘するのはこれが一度目ではないからだ。

 妹が頭角を現すようになってからというもの、中立派閥の人間には積極的に声掛けをしている。


 だが、その際、セドリックは遠回しに断られている。


 ――騎士の剣は王に捧げます。

 ――セドリック殿下が王となる日が来れば、その時、改めてこの生涯を捧げると誓いましょう。


 アルテアの返答に「まあ、妹に取り込まれないならいいか」と受け入れた過ぎし日を思い返しながら、セドリックは思った。話が違うじゃないか。


「くそ、何故だ……! 何故、誰も彼も私から離れていく……!」


 そういうところだぞ。

 とは口が裂けても言えないアルテアは、これまた遠回しに答えた。


「殿下、魚は餌で釣れます。しかし、人は必ずしもそうとは限りません」

「だがリリア・ペンデュラムは……!」


 セドリックは歯噛みした。

 認めるのは癪だが、彼女の功績は大きい。

 彼女の恩恵にあずかった貴族たちはすさまじい速度で発展していっている。


 もちろん、それも一つの人心掌握術だ。

 ケチな餌ではケチな魚しか釣れない。

 大きい獲物を釣るためには相応の餌がいる。


 だが、いくら立派な餌を用意しても、逃げられては意味がない。


「本当に、リリアさんが問題ですか?」

「どういうことだ?」


 リリア・ペンデュラムがもたらした知識は、確かにすさまじい餌だ。

 しかし餌だけで釣りは成立しない。

 食いつかせたうえで、逃げられないようにして、初めて人材の確保は成功する。


 であれば、いま政界で勢力図を拡大しているユーフィリア・フォン・セイファートの、釣り人は誰か。

 言うまでもない、ユーフィリア本人である。


 アルテアはその事情を理解している。


 セドリックとユーフィリア。

 二人の王族の違いは武器そのものではない。


 セドリックは己が頂点に君臨することに意義を見出している。

 ユーフィリアは人心に寄り添う仁に意義を見出している。

 この姿勢こそが、二者の間にある決定的な差なのだ。


 セドリック本人に向かってそれを指摘すれば癇癪を起すことは目に見えているので、直接的な表現をすることはできないが。


「これは兄としての意見ですが、妹に目を向けるのも良いものですよ。ときおり成長にハッとさせられます」


 アルテア・フォートラインはそう付け加えた。


  ◇  ◇  ◇


 そんな経緯があって、アルテアはそろそろユーフィリア殿下が尋ねてくるかもしれないと構えていた。

 話してみて、改めて思う。

 やはり、王座に就くのはこのお方だろう、と。


 でなければ、自由奔放が人の形をしたような女傑、リリア・ペンデュラムを手札に加えておくことなどできない。


 二人は魔王と参謀の関係性をうたってはいるが、広い盤面で見れば立場は真逆。

 リリア・ペンデュラムというワイルドジョーカーを手に、盤面を支配する天才ディーラーがユーフィリア・フォン・セイファートだ。


 もちろん、盤上で動く駒からすれば、リリア・ペンデュラムという嵐こそが脅威であることに変わりはない。

 しかし、広い盤面で見れば、その災害を御しているユーフィリアの神算鬼謀こそやはり恐ろしい。

 二人はまさしく最強最悪の組み合わせだ。

 互いの足りない部分を補い合っている。


「このアルテア・フォートライン。ユーフィリア殿下の剣として勝利を掴むことを約束いたしましょう」


 アルテアに富谷名誉に対する拘泥はない。

 しかし、二人の築く新時代は見てみたいと、強く思うのだった。

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