第18話 入隊、ただし魔王軍。

 その後、担当教員に園内を案内してもらい、各自の教室へ移動。

 この後自己紹介があって、その後は各自解散の流れ。

 保護者は別棟で歓談中。


「なんだか大事になってしまいましたね。リリアさんのご家族は大丈夫でしょうか?」


 ユーフィリア殿下とリリアちゃんは同じクラスになった。

 権力にものをいわせてそうですね。

 僕はリリアちゃんの理解者がいてくれて助かるけど。


「だいじょうぶ。きょうはるすばん。入学式にはメイさんしかつれてきてない」

「まぁ、さすがリリアさん。でしたら安心ですね」


 そもそも問題を起こさないでほしいけれど、リリアちゃんくらい有名になるとやっかみ、ねたみ、そねみは避けられない。


  ◇  ◇  ◇


「それでは、出席番号1番エイダさんから自己紹介をお願いします」


 僕たちの担任になった先生が、教室手前、窓側の席に顔を向ける。


「はい! エイダ・アボットです! アボット男爵家の長女です!」


 背筋をピンと伸ばし、緊張気味にしゃべり始めたのは赤毛の女の子。


「お父様からは、ペンデュラム家と仲良くしなさいと言われております! 魔王軍所属を希望いたします! 以上です!」


 魔王軍て。


「ふふ、魔王軍ですってリリアさん。でしたら私は、さしづめ、魔王軍参謀でしょうか?」


 教室がにわかにざわついた。


 ――やべぇよあいつ。王女殿下を支配下に置いてやがる。

 ――これ、魔王軍所属を希望しないと粛清されるんじゃ?


 その様子を、ユーフィリア殿下は「いかようにもできます、我が君」とばかりにリリアちゃんに微笑みかけている。

 こわい。


「うーん、リリア、そういうのよくわかんないからユフィちゃんに全部まかせるよ」

「よろしいのですか?」

「うん! なんかいい感じにしといてよ!」

「はい。承知いたしました」


 ――やべえよやべえよ。

 ――ガチで王女殿下を操ってるじゃん。

 ――魔王様だ。

 ――きゃーっ♡ その胆力、ステキですリリアさまーっ♡


 最後のはたぶん縦ロールちゃんことミストレスさんだな。


「え、えーと……ユニークな自己紹介をありがとうエイダさん。それじゃあ次、ジョルジュ・ブラックくん」

「はい! 自分はジョルジュ・ブラックであります! 父は宮廷画家で、ユーフィリア殿下派閥であります! 自分も魔王軍所属を希望いたします!」

「う、うん。ありがとうね。それじゃあ次は……」


 ――魔王軍希望です!

 ――魔王軍に加えていただきたく……

 ――必ずや魔王軍として活躍を約束……


「私はミストレス・ジャッカルボルトですわーっ♡ 当然、魔王軍、いえリリアさまに忠誠を誓いますわーっ♡ ですからなにとぞ、今後ともジャッカルボルト商会をよろしくお願いいたしますわーっ♡」

「だぁ! どいつもこいつも! 魔王軍魔王軍って、このクラスは根性なしの集まりかよ!」


 縦ロールちゃんことミストレスさんの次はヴィルヘルム・ライプニッツくんの番だ。


「ヴィルヘルム・ライプニッツ。俺はてめぇら保身のことしか考えてないやつらとは違う。俺は戦う。勇者軍として。覚悟しろよリリア」

「おやぁ? ヴィルくんは~♡ わたしのことなんかきにしてないんじゃなかったの~? 照れ隠しだったのかなぁ♡」

「う、うぬぼれんな! 俺はただ、雪辱を果たしたいだけだ」

「まえはぼこぼこだったもんねー♡」

「る、るせぇ!」


 ――マジかよあいつ。

 ――魔王様に立ち向かったのか?

 ――ボコボコにされて、なお立ち上がるのか。

 ――なんという鋼のメンタル。

 ――勇者だ。


「じゃあなにできめる? まえみたいに~♡ 魔法決闘できめよっか♡」

「やるか! 誰がお前と魔法で戦うもんか!」

「えー♡」


 ヴィルくんは付け加えた。「『彼我の実力差を知れ。無謀と勇気をはき違えるな』。うちの家訓だ。勝算の無い戦いを挑むつもりはねえよ」と。


 ちなみに、勝算とか考えずに相手を煽って、スペック差で圧倒してしまうのがリリアちゃんです。

 それは増長もするしメスガキにもなるわ。


 うーん、一回失敗を経験した方がいいんだろうけど。

 この年まで失敗らしい失敗を経験してこなかったからね、一度の失敗で立ち直れなくなるくらい心に傷を負うんじゃないかと不安になる。

 大学入るまでは常に成績トップだったのに、大学に入ると平凡で腐ったエピソードなんて珍しくないからね。

 ……甘やかしすぎたかなぁ。


 いや。

 ここまできたなら、むしろ、人生でただの一度も敗北しなかったという伝説を打ち立ててやる。


  ◇  ◇  ◇


「リリア・ペンデュラムだよーっ♡ みんなとなかよくできたらうれしいなーっ♡ よろしくねー♡」


 自称魔王軍たちが、掛け声も合わせずに一糸乱れぬ敬礼をしめした。

 これが……カリスマ……!


  ◇  ◇  ◇


「ユーフィリア・フォン・セイファート。魔王軍参謀をつとめております。以後お見知りおきを」


 さわやかな笑顔だ。

 腹の内は読めない。たぶん真っ黒。

 リリアちゃんが無邪気で純粋な分、そういう腹芸を担当してくださるユーフィリア殿下には本当に頭が上がらない。


 というか、互いに唯一無二の存在だよなぁ。


 リリアちゃんはスペックが高くても、人の心に寄り添えないし、個人で完成してるから人を使うのが下手。

 その点ユーフィリア殿下は根回しがうまいし、人材を適所に配置するリソース管理能力にたけている。


 あながち、魔王と参謀の力関係が大外れじゃないの笑う。


  ◇  ◇  ◇


 さて。自己紹介も終了したので、今日は解散だ。

 授業が始まるのは明日から。

 別棟で歓談中の保護者と合流し、帰宅、あるいは遠くから来ている子は寮へと向かう。


「今後ともよろしくお願い申し上げます」

「ぜひ我が子爵家にもますますの親交を……」

「夜会にご興味がおありでしたら……」


 すごいな、貴族社会。

 リリアちゃんにいろんな人が一声かけてから去っていく。

 それだけ、一目置かれる存在になってるってことか。

 頭が高いリリアちゃん。鼻が高い僕。

 似た者兄弟だねー。


《もー、同じような話ばっかでつまんないー! リリアもうおうちかえるー!》


 おっと。リリアちゃんがぐずり始めた。


(メイさんが帰りの馬車を取りに行ってくれてるからもう少しだけがまんしよ? ね? できる?)

《……うん。がんばる》

(よーしよしよし。えらいぞー、リリアちゃん)


 内心で「メイさん早く来てくれー」と祈りながら、リリアちゃんをなだめ続けていると、しばらくして、ようやくメイさんが現れた。


「申し訳ございません、リリアお嬢様。馬車の車輪が壊れており、修理しようにも部品が足らず――」

「えー!?」


 困った。


(ユーフィリア殿下――は人脈作りで忙しそうだな)


 大事な政務だってわかるし、声をかけるのは気が引ける。


《やだやだー! おうちかえるー!》

(うーんと、うーんと)


 どうしたものか。


「失礼、もし足にお困りでしたら、我が伯爵家の馬車でご一緒いかがですか?」

「え? いいの!?」


 涙を堪えていたリリアちゃんが、一転。

 パッと笑顔を見せる。


「もちろんですとも」

「わーい! よろしくお願いしますー!」


 うーん?

 グランヴェール伯爵って、セドリック殿下寄りの中立じゃなかったっけ?

 ユーフィリア殿下派閥に乗り換えたのかな?


  ◇  ◇  ◇


「おおー」


 車内。リリアちゃんが感嘆のため息を漏らす。


「素晴らしいでしょう? ボードと駒が磁力で引き合い、馬車のように揺れる車内でも遊べるボードゲームです」


 要はチェスとか将棋とか、そういう類のゲームが、車内に設置されている。


「リリア嬢はボードゲームはお得意ですかな?」

「やったことないけど、強いと思うよ?」

「ほぅ」


 グランヴェール伯爵が目を細める。


「息子のフランツもなかなかの腕でしてな。よければ一局、ご指導願えませんかな?」

「うん! やろうやろう!」


「では。フランツ」

「はい、父上」


 フランツくんはたぶん上級生。

 5歳くらい年上なんじゃないかな?


  ◇  ◇  ◇


「おやぁ? そんなタダ捨てでいいの~? リリア、取っちゃうよ~♡」

「あっ、しまったなぁ。でも、対局に待ったは無しですから。どうぞお取りください」

「あはっ♡ しょしんしゃのリリアに押されててなっさけな~い♡ そのていどでとくいって言ってはずかしくないの~♡」

「はは、面目次第もございません」


 試合は終始、リリアちゃん有利で展開されている。

 もはや接待のレベルである。

 いや、そういうことなのかな。

 リリアちゃんに協力的な体制をとる準備ができてますよーってメッセージだったりする?


「リリア子爵。もしこの不利な盤面から私が逆転出来たらどうなさいます?」

「えー♡ そんなことできるの~?」

「もしも、ですよ。はは」

「うーん♡ なんでも言うこと聞いてあげるよ♡ ま♡ もしかてるならだけど♡」

「おっしゃりましたね?」


 ターン――ッ!


 すさまじい勢いで駒が動かされ、リリアちゃんの大駒が狙われる。

 どちらかを生かせばどちらかを失う。

 そんな両取りの一手。


(しま――っ!)


 いままでのは、演技!

 リリアちゃんをおだてて、有利な条件を引き出すための盤外戦術!


「では、私が勝ったら、リリア子爵にはユーフィリア様と縁を切り、セドリック殿下の派閥にご加入いただきます」

「……」


 リリアちゃんがなうろーでぃんぐモードに……!


「やだやだ! リリアまけないもん!」


 あっ、リリアちゃん、その手は……。


「いいえ。この勝負、勝たせていただきます」


 やばいやばいやばい。

 さっきまでリリアちゃんガン有利だったはずなのに、もうひっくりかえされてないか!?


《おにいぢゃぁぁぁぁん! だずげでぇぇぇぇ!》

(ええっ!?)


 ここから逆転しろと!?


 そんな無茶な!?




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄◥

   あとがき

◣_________

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