第14話 撃破! さらにM&A.
敵アジトの最深部で見つけた、旧時代の遺物感丸出しのゴーレム軍団(非活性)。
確かに、邪教徒に囲まれているこの状況を打開するのに十分な戦力だ。
問題は、これを自在に操れるのかという点だが……。
(ふむ)
僕たちをここに攫ってきたお姉さんは、僕のジャミングの影響を受け、慣れない操作方法の中でどうにか体を動かしているように見える。
まるで手足の動かし方をまだ把握できていない赤ちゃんだ。
逆説的に、ゴーレムの動かし方は「進め」とか「戦え」みたいな単純な命令ではなく、もっと厳密なのではないだろうか。
それこそ、人間が自らの手足を動かすのと同じように、ゴーレムにも厳密な操作指令が必要なのではないかと予想できる。
(リリアちゃん。ゴーレムの周囲をぐるっと回って、全体像を把握できる?)
《あいあいさ》
3Dモデリングの仕方に、カメラをたくさん用意して、写真から作成するフォトグラメトリという方法がある。
いまやっているのはそれと同じだ。
《まわったよー》
(オーケー)
リリアちゃんの絶対記憶をあてに、ゴーレムの精密なボディイメージを脳内に作成。
そして、それを動かすイメージを、魔力に乗せて照射!
「わーい! うごいたうごいたーっ!」
「ハァ!?」
ズゴゴゴゴ、と地鳴りを上げて、ゴーレムの一体が起動する。被っていた埃をはらはらと零しながら、首から上がギュンと回り、僕たちを誘拐したお姉さんの方を向く。
「ちょ、ちょっと!? どうして動いているの……いえ、そもそも、どうしてワタシを敵だと認識しているの!? 戦うべき相手はあの子!」
「おやぁ? おねーさん♡ まだわからないの~?」
邪教徒のお姉さんが、まなじりが裂ける勢いで目をかっぴらく。
「このごーれむを動かしてるのはぁ♡ リリアだよ♡」
「っ!?」
「ほーら、ぺっちゃんこになっちゃうぞぉ♡ にげろにげろ♡」
「じょ、冗談じゃないわよっ!」
リリアちゃんの脳が柔軟なのかな。もう操作に慣れてきた。思考リソースを分散させて、複数体同時起動もできそう。
(複数体同時に動かしちゃう?)
《やっちゃおやっちゃお!》
(オッケー)
立ち並ぶゴーレムたちをさらに追加で起動。ざっと9体くらい追加投入。
しかも、コツを掴んだので先ほどみたいにズゴゴゴという重装兵士のような鈍重な動きではない。
一流アスリートのような軽快な動きだ。
「なんなの……これは、悪夢?」
邪教徒のお姉さんも、顔を引きつらせて、全身を硬直させてしまっている。
「ばいばい♡」
ゴーレムたちをけしかけて、タコ殴りにする。
これはリリアちゃんを誘拐した分。
これはリリアちゃんに嘘を吐いた分。
これはリリアちゃんを傷つけた分。
これはリリアちゃんに殺害予告をした分。
そしてこれは、リリアちゃん以外を崇め奉った分!
「うっ、あっ、あぅ……」
邪教徒のお姉さんは、もはや原型がわからないくらいにあちこちが凹んでしまっていた。
それでも意識があるのは、たぶん、体のほとんどをゴーレムかしているから。
「どう? まだやる?」
「ひぃっ」
邪教徒のお姉さんが、首から上がちぎれそうな勢いでぶんぶんと否定する。
「じゃ、言おっか♡ せかいでいちばんかわいいのはだぁれ♡」
「あ、あなた様です」
「おやぁ? わたしの名前もしらないのぉ~? リ・リ・アだよ♡ もっかい言ってみよっか♡ せかいでいちばんかわいいのはだぁれ?」
「リリアさまです……!」
「せかいでいちばんとうといのはだぁれ?」
「リリアさまです!」
「あなたが真につかえるべきごしゅじんさまはだぁれ?」
「リリアさまですッ!!」
「よくできまちた♡ えらいえらいでちゅよー♡」
「は、はひっ、お褒めいただき光栄です……!」
「あーはっはははは♡ きもちいい♡ ねえねえ♡ いまどんなきもち? 年下にこばかにされて言い返せないってどんなきもち? わたしにぜひとも教えてちょ♡」
「はひぃ! 光栄です!」
(ああ、ダメだ。睡眠薬で意識が漫然としてるところをハイテンションで誤魔化してるから、リリアちゃん、徹夜明けみたいな状態になっちゃってる)
たぶん、本人ですらもう何言ってるか理解できてないんじゃないかな?
さて、忘れてしまっているかもしれないけれど、この教団の人員は彼女だけじゃない。
「や、やべぇよ……」
「姐さんが、懐柔されちまった!」
「ど、どうする!?」
「どうもこうもない! あれとまともに戦う気か!?」
祭壇部屋から、リリアちゃんの蹂躙劇を傍観していた残党たちが一人残らず恐れおののいている。
「冗談じゃない……! あれは、人の皮を被った魔王だ! 俺は抜けさせてもらう!」
「ま、待て! 抜け駆けはズルいぞ!」
とうとう、耐え切れなくなった団員が、我先にと逃げおおせようとし始めた。
「おやぁ? なににげようとしているのかな♡」
リリアちゃんが逃がさないで、というのでゴーレムを派遣して祭壇部屋の出口でスクラムを組ませた。
逃げ場を失った団員たちが、身を寄せ合いながら――というより、他の団員の陰に隠れようとしながら、一か所に集まっていく。
「じゃ♡ 改宗しよっか♡ おにーさんおねーさんたちはきょうからリリア教徒だよ♡ ほかの人を好きになったらめっだからね♡」
「ひ、ひぃっ」
「おやぁ? おにーさんおねーさんたちはぁ、リリアよりもたぁっくさん生きてるのに返事もできないの~? なっさけな~い♡ ほら、へ・ん・じ♡」
「は、はい! 我々一同、リリアさまに命を捧げることを誓います!」
「よし♡」
しばらく、洞窟内部にはリリアちゃんの高笑いが反響していた。途中で目を覚ましたユーフィリア殿下に「魔王……?」とつぶやかれていた。
眠いところを頑張って耐えてたんです。ぜひねぎらってあげてください、お願いします。
◇ ◇ ◇
記憶を頼りに下山して、馬車へと向かっていると、道中で捜索隊と鉢合わせた。
「ゴ、ゴーレム!?」
「馬鹿な、なぜこんな山奥に……!」
「姫様を誘拐した悪党どもの尖兵やもしれぬ。全員、心して掛かれい!」
「ハッ!」
と、茂みの陰で奇襲のタイミングをはかっているので、リリアちゃん経由でユーフィリア殿下に連絡する。
「お待ちなさい。このゴーレムはあなた方の敵ではありません」
茂みに向かって殿下が声をかけたことで、緊張は一瞬で解除された。一拍おいたのち、護衛騎士たちがわらわらと駆け寄ってくる。
「ユーフィリア殿下! よくぞご無事で……!」
「この度は我々がおそばについておりながら、危険な目に遭わせてしまい誠に申し訳ございませんでした!」
「この非礼は我々の首をもって償わせていただきます……! ですので、なにとぞ、なにとぞ家族だけは……!」
「面をお上げください」
頭を垂れ、非礼を詫びる護衛騎士たちをユーフィリア殿下が肯定なさる。
「今回は、私がもっとも信を置く姫騎士様が守り抜いてくださいました。よって、あなたたちが首を斬って償う必要はございません」
ユーフィリア殿下が「このゴーレムも、彼女が操作してくださっているのですわ」と付け加える。
その、姫騎士ことゴーレムを操作しているはずのリリアちゃんは疲れ果てて夢うつつ。気力でなんとか起きてる。きゃわわ。
「ですが、あなたたちはそれでは納得しないでしょう。よって、罰を与えます」
ユーフィリア殿下が、来た道を振り返る。
「私たちが下山してきた方向に洞窟があります。そこに、邪教徒によって連れ去られた子どもたちがいます。彼らを、無事に救出してきてください。できますか?」
「……ハッ! 必ずや、ご期待にそって御覧に入れます!」
「はい、期待しています」
◇ ◇ ◇
それから、馬車を捕まえて、どうにか王都入り。
ふぅ、なんだかひどく長い道のりだったように感じる。
洞窟の中に5日くらい閉じ込められていた気がしてくる。
そんなはずないのにね。
「リリア……!」
「よかった、無事だったのね……!」
「おとーさん! おかーさん! えへへ、ただいま」
「よかった、本当によかった……!」
別便で王都入りしていた両親とも合流。
……うん。
やっぱり両親と一緒にいるときのリリアちゃんが一番楽しそうだ。
この天使の笑顔をみんなに知ってもらえたらいいな。
がんばるぞー。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄◥
あとがき
◣_________
3話位で終わらせるつもりだった邪教編も気づけば5話くらいやってますよ、巻き巻き!
以下カットされた背景↓(読まなくていいです)
あのお方=ゴーレムマスター。
脱法ゴーレム製作が趣味の人です。
7話にて書いた【なまえをつけられない】、【ぶきをもてない】、【けっこんできない】の呪いを破る方法を探して実験してます。(名前をつけられない→名前のついた生物のゴーレム化。武器を持てない→睡眠薬噴霧器の取り付け。などなど)
子どもを誘拐させていたのは、余命の長くかつ脆い子どもの寿命を啜って生き長らえていたから。
リリアちゃんに教団員を引き抜かれたことで、新たな贄の供給ルートが断たれ、寿命を迎えると思われます。
で、ここからが超大事な話なんですが、
カクヨムコンテスト11参戦中!
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