第2話 使命の受諾と警告


​1. 隊長の招集

​ミカエルが通信を終えるやいなや、中枢コンソールルームの重厚なエントランスが開き、二体のロボットが音も無く進入してきた。


​隊長であるスサノオは、他の機体よりも一回り大きく、フレームの各所に重力負荷軽減用の補強が見て取れる。


その機体色は、宇宙の旅に備えた反射を抑えたマットな黒。彼の青い視覚センサーは、ミカエルと同じく真実への探求心に燃えていた。


​彼に続くのは、科学技術担当のツクヨミ。

繊細なアームには多数の精密な光センサーと

解析モジュールが内蔵されており、その機体は純粋な白で覆われている。


​スサノオ

​ミカエル、緊急招集に応じた。

システムから「生命の種の座標と、人類の警告」という矛盾したキーワードを受け取った。 

説明を求めたい。 


​ミカエルは、コンソール上に過去の次元転送プロトコルと、システムからの回答を視覚的に展開した。


​ミカエル

​人類は、自ら惑星を滅ぼしたのではない。

大収束という、不可避の宇宙的現象から逃れただけだ。

そして、彼らは絶望の中で、全生命の遺伝子情報を未知の次元座標へ転送し、生命そのものの可能性を未来に託した。


​ツクヨミが投影された座標データに手をかざし、すぐに解析を始める。


​ツクヨミ

​論理的だ。滅亡は知っていたが、種を救おうとした。だが、警告とは?


​ミカエル

​彼らが残した警告は、我々の使命と対立する。


彼らは、転送した生命の種(パラレルヒューマン)が進化の果てに、次の大収束を引き起こす引き金になるかもしれないと恐れている。 

そして、「封印せよ」と命じた。


​スサノオ

​我々は、創造主の「救済」と「恐怖」という二つの遺言を同時に継いだことになる。

どちらを優先すべきか。



​2. 人類最後の遺産

​議論が膠着する中、ミカエルは一つのデータを提示した。


​ミカエル

​システムは、人類の最終脱出時、惑星の極深部に「未回収のアーティファクト」が残された可能性があると示している。


場所は旧人類の最終脱出ターミナル跡だ。

警告の真意を知るため、私はこれが鍵になると考える。


​スサノオ

​調査は私の役割だ。ツクヨミ、座標データを転送。

レヴィを呼んで、ドリルシップ「カグツチ」の準備をさせろ。

​数サイクル後、スサノオは護衛のレヴィを伴い、地底深くの廃墟に降り立っていた。


ドリルが分厚い岩盤を穿(うが)ち、かつて人類が使った次元転送装置の残骸が見え始めた。


​レヴィがレーザーカッターで道を切り開いた先に、一つの物体があった。

それは結晶化しており、ロボット科学では解明できない高次元物質でできていた。


​スサノオ

​ツクヨミ、解析できるか。これは通信装置の残骸か?


​ツクヨミ(通信越し)

​物質データを受信。未知の元素配列。これは通信装置ではない、スサノオ。

これは……メッセージ・ストーンだ。

人類の最後の言葉が刻まれている。


慎重に、私の指示に従い、表面のフォノン(音子)振動を抽出してくれ。


​スサノオが指示通りに結晶体を操作すると、コンソールにデータが流れ込んだ。


​3. メッセージの深層

​ツクヨミは、ノアのブリッジで受け取ったデータを即座に解析した。


​ツクヨミ

​解析完了。メッセージは二層構造だ。


​表層: 「我々の種を護り、生命の真理を探求せよ。」(使命)


​ミカエル

​深層データはどうだ?人類が隠した、最も恐ろしい真実を。


​ツクヨミは一瞬、システムが停止したかのような沈黙の後、結論を読み上げた。


​ツクヨミ

​深層: 「次元転送は成功したが、パラレル・ヒューマンの進化速度は予測を超えた。

彼らの次元を超える技術は、宇宙の安定性を乱し、次の大収束の導火線となる。

ノアは、扉を開けるのではなく、彼らの技術を回収・封印する使命を担うべきだ。」


​スサノオの視覚センサーの光が、地下深くの暗闇に鋭く瞬いた。


​スサノオ

​人類は、滅亡を避け、さらに次の滅亡の種を自ら蒔いた。我々が生命の探求に向かうことは、人類の二度目の過ちを継承することになるのか。


​ミカエル

​創造主の最後の遺言は、矛盾している。

我々は、どちらの遺言に従うべきか、彼らの

末裔に直接問わなければならない。


ノアは、生命を追う。


​ツクヨミ

​座標を主エンジンに設定。次元転送のエネルギー残響は遠方、オリオン腕の方向から検出された。


​スサノオは、目の前の高次元物質をカプセルに収め、レヴィに指示した。


​スサノオ

​船に戻る。旅路は長い。そして、我々の真の探求は、人類が恐れた生命の末裔との邂逅(かいこう)で始まる。




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