ステータスボードが硬すぎる!~役立たずのユニークスキル、盾に使えば最硬でした~

TOWA

第1章 ステータスボードの覚醒

第1話 プロローグは絶望の味、覚醒を添えて


「ハッ、ハッ、ハアッ!」


 朝焼ダンジョン第5階層。

 初心者が集まる簡単なダンジョンの中腹、俺は走っていた。

 死なないために、逃げるために。


「ハアッ!ハアッ!ハアッ!!」


 毎日毎日潜ってきたダンジョンの構造くらい頭に入っている。

 分かっている。

 この先は行き止まりだ、それでも足を止めてはいけない。走る、走る。


 最初、一撃を避けきれずに受け止めてしまった両腕は多少動かせるものの戦闘にはつかえないだろう。

 戦闘になったとしても勝てるわけではないが。

 腕をダラリと垂らしながら走る。


「ルォォォオオ!!!」


 叫び。口はないはずだというのに、やつは叫んでいる。

 自らの場所を伝えるように、逃げろ逃げろと急かすように。


「嫌だ...嫌だ嫌だ嫌だ...!」


 まだ、まだ生きていたい、死にたくない。まだ約束も果たせていないのに、こんなとk…


「ルォゥ!」


 振動、そしてやつは声と共に何かを投げた。

 見えずともわかる、風を切る音が、嫌な感覚が。


「おい、おいおいおい!」


 バガァン!


「ガッ…!」


 クソが、アイツを投げやがった。


 衝撃だけで吹き飛ばされた俺は振動で目を覚ます。

 一瞬気絶していたらしい。

 目の前には極太で金属製の柱が二本。やつ、アイアンゴーレムの足だ。

 本来Bランクのモンスターであるやつが、強くともDランクのモンスターしか出てこないはずの朝焼ダンジョンにいる異常事態。

 それが俺を追い詰めていた。

 壁へと追い込まれ、両腕は...もう使えそうにない。

 策もなければ気力もない、そもそも立ち上がらせてくれるほど相手は待ってくれない。


「オルルゥゥ...。」


(ああ...嫌だ...。死にたくない...何か、何かないのか?)


 目の前にそびえ立つ鉄の巨人は鉄塊そのものといえる拳を振り上げた。

 落ちるのに時間はそうかからないだろう。


 …ああ、そういえばまだ試していないスキルがあった。

 死ぬと覚悟したうえでも醜く回り続ける思考は、この土壇場である力を思い出させた。過去には嘆いたその力を、俺だけのスキルを。


 (今まで役立たずだっただろ?せめて、最後に、)


 念じる、手をかざす。何か奇跡が起きればと、降りかかる鉄塊に俺は叫んだ。


 (...応えてくれ、応えろよ!)


「『ステータスボード・オープン』!!!」


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 Lv.12 狭谷健二

 状態 骨折部位あり 出血あり

 ユニークスキル

 ステータスボード

 スキル

 剣術 身体強化 走力強化


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ...やっぱりか。

 現れたのは無機質な文字の羅列ばかり。

 見窄らしい俺自身を映し出す鏡。

 シジ、と中に浮かぶ青のホログラムは、死刑宣告に等しかった。

 そして、鉄の拳は振り下ろされた。






 キィィィィンンンンン!!!!!


「ルオォォ!?」


「...え?」


 斯くして腑抜けた声と甲高い金属音と共にプロローグは終わりを告げた。冒険譚の幕は上がる。ユニークスキル『ステータスボード』は、静かにその姿を消した。





==========

暇つぶしにどうぞ。

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