#12 奴の再来!
小柄な人影はゆっくりとローブのフードを持ち上げた。
佐倉とリルは緊張の面持ちでそれを見つめて固まっている。
まずい……健太郎がいない今、こいつが敵で、かつ俺より強いと何も出来ねえ……
「まずいですぅ……ご主人はハッキリ言って雑魚……この人がご主人より強い敵だったら、手も足も出ません……」
「てめえのは声に出てんだよ! それに雑魚は余計だ!」
そんな中、人影はフードを脱いで森の暗がりから前に進み出てきた。
それは意外な人物だった。
「ふぇふぇふぇ! よくもあたしを殺してくれたね?」
「あ、アイテムババア⁉ 生きてたのか⁉ よかった……俺の無実を証言してくれ。追われてるんだ……!」
佐倉がそう言って表情を緩めると、アイテム婆は〝G〟でも見るような目で佐倉を睨んで言った。
「何が無実を証言白だ⁉ 死んだわこのボケナス! お前さんの寄越したタバコの毒でな! お前さんは人殺しだよ‼」
「なるほど……万引きというか、強盗殺人……毒殺となれば、これはもう計画的ですね……」
「入れてねえわ! だいたいてめえはどっちの味方だ⁉ ババア! 適当なこと言ってんじゃねえぞ⁉」
「適当なもんかい! 実際死んじまって、SSSRアイテムの蘇生の宝珠をパアにしちまった! 弁償しな!」
「言いがかりだな。てめえが勝手に吸って、勝手に死んだ。俺はお前が寄越せと言ったものをくれてやっただけだ!」
「お黙り! いいのかえ? アイテム婆を殺すってのは重罪だよ⁉ エヴェンティルラン全域でお尋ね者になるよ? そうなったらお前さんたち、警備兵や拷問官だけじゃなく、
「くっ……じゃあいくらだ? その蘇生の宝珠とかいうアイテムは?」
佐倉はババアの凄みに圧され、拷問官の強さを思い出し、自分の無力さを痛感しながら言葉を捻り出した。
屈辱だった。
最凶で通ってきた日陰者の矜持が粉微塵だ。
それでも、この世界では前世の知識や強さは意味を成さないのは、もう身に染みている。
「うひょひょひょ! 素直でよろしい! キッチリ
「い、一億⁉ おい、一億ババンガってどんな規模感だ⁉」
そう言って佐倉はリルに顔を向けた。
リルは泡を吹いて痙攣しながら言った。
「初期装備の財布に入る限度額の1000倍ですぅううう……」
「つまり? どういうことだ? ヤバい額か⁉」
「魔人クラスの討伐を273周くらいしたら払いきれる感じさね」
「魔人クラス⁉ 分かるように言えや⁉」
雲行きの怪しさに佐倉は半ギレで叫んだ。
そんな佐倉を嘲笑うようにババアが言う。
「この森で最強の健太郎っすは変態獣クラス。魔人クラスはその数百倍の強さのモンスターだよ! うひひひひ!」
「な……⁉」
「雑魚でちまちま稼いでたら人生が何回あっても足りやしない! 漢なら逝けよ⁉ 魔人クラス!」
ババアの白く濁った眼がギラリと光った気がした。
最悪な状況にも関わらず、佐倉の中で何かが燻ぶり、小さな熱を帯びる。
「すまねえなガキんちょ。何か火ぃ着いちまったみてえだ。ちょっくら付き合ってくれ」
「どどど……⁉ どういう理由ですか⁉ マゾ⁉ マゾなんですかご主人⁉ ここでこのババアを殺っちまいやしょうぜ⁉ へへへ。誰にもバレやしねえでゲス」
「賢いガキは嫌いじゃないよ? うひゃひゃひゃひゃ! でもあたしゃ殺せないからお勧めしない」
「だが条件がある。この世界のことを詳しく教えろ! 俺は女神のチュートリアルの記憶がねえ!」
「健忘症かえ……? 気の毒に……気持ちは分かるよ……」
「一緒にすんじゃねええええ!」
こうして佐倉に新たな目標が産まれた。
借金返済。
運命の歯車がクソしょうもない理由で静かに回り始めた瞬間だった。
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