#03 まずは拠点づくりだ
佐倉とリルの押し問答は続き、とうとう辺りは夕焼けに包まれ始めた。
と同時にリルが思い出したように悲鳴をあげる。
「ぎゃあああああ! もうこんな時間!」
「今度は何だ⁉ 騒々しいヤツめ! まさか見たい番組の時間とか言うんじゃないだろうな⁉」
「うわぁあああん! ホントだぁああああ……見たい番組の時間をとっくに過ぎてますぅううう」
「テレビがあるのか⁉」
「テレビ? なんですかソレ? ここはご主人の住んでた世界じゃないんですからね? こっちが分かってる体で話すのはやめてください」
「そっくりそのままお返しするわ!」
「そんなことより大変です! 夜になったら魔物が出るんですぅううう」
魔物。
その言葉で佐倉の顔付が変わった。
状況から察するに、これは異世界転生とかいう現象だ。
俺はチュートリアルなるものをすっ飛ばしてここに来た可能性が高い。
知っておくべきことを何も知らない。
目的も、自分自身のことも。
「魔物ってのはどんな奴だ? 強いのか?」
「強いなんてもんじゃないです。形は様々で、肉体強度は数値にして最低でも10000ポルンガあります!」
「まったく伝わって来ねえ!」
「ご主人! ふざけてる場合じゃありません! 本当に死にますよ⁉ 所持品を確認してください! 何か使えるものはないんですか⁉」
「……どうやって確認する?」
「ステータス画面に……」
「はい、却下ぁあああ!」
そんな間にも空は焼けるような橙から、薄桃、紫へと色を変え始めた。
風はその匂いを変え、夜の湿度と冷たさを運んでくる。
佐倉は周囲を見渡し考えを巡らせる。
「まずはとにかく拠点づくりだ。敵の攻撃経路を制限できる場所で火を起こして夜明けを待つぞ」
「うう……こんな
「誤解されるような言い方すんじゃねえ⁉」
限られた時間で拠点に相応しい場所が見つかるわけもなく、佐倉は低い崖の下の窪みで妥協する。
少なくとも風と背後からの奇襲は防げるだろう……
だが前と左右は言わずもがな、頭上からの奇襲も考えに入れなければならない。
「お前も枝ぐらい集めたらどうだ⁉」
薪の束を抱えて往復を繰り返しながら、佐倉は顔にへばりついたリルに言う。
「ぴったり癒着してますからね。非常に残念です。リルの薪集めスキルを発揮できないなんて残念だなああ(棒)」
「この糸さえなければ……」
「なければなんです?」
「殴っていた」
「こわっ⁉ 反社ですか⁉」
「ああ‼ そうだよ‼」
佐倉は祈るような気持ちでポケットに手を入れた。
中にはジッポの感触がする。
「よかった。ジッポは残ってやがる」
手で細かく割いた樹皮に佐倉はジッポの火を移し、積み上げた小枝の中にそっとそれを置いた。
パチパチと小枝が燃える。
しかっりと火が育ってから、佐倉は徐々に太い枝を足していった。
延焼を防ぐために、周りに太い生木を並べて堰を作る。
こうしておけば乾いた生木を燃料に再利用もできる。
「これでとりあえず一息だ」
「焚火ってどうしてお腹が空くんでしょうねえ……」
リルの腹の虫が佐倉のすぐ耳元で大声を出した。
同時に佐倉の腹の虫まで輪唱を始める。
「おい……まさかこの糸……」
「もちろんステータス異常も分けっこです♡」
佐倉は深いため息をつき項垂れた。
それに反してリルは天を仰いで「わあ」と声を出す。
「今度は何だ?」
そう言いながら見上げた夜空には、都会の路地裏からは到底見えない星屑の海が広がっていた。
輝く星々とオーロラのような青雲。
月は無く、ただ星々がその命をあらん限り燃やしている。
「綺麗ですねご主人……」
「ああ。そうだな……」
二人はそれから無言で星空を見上げていたが、いつしか……
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