蝙蝠は太陽に恋をする

鈴懸

第1話 出会い


 この世界は大きく四つの大陸に分かれ、各大陸を力のある魔性が支配していた。

 人と人外と魔性、ケモノや多種多様な生き物が混在する世界。

 力のあるものが支配する弱肉強食の世界がそこにあった。


 ここは東の大陸。

 王の天昇てんしょうが治めている大きな石城の一番東側の奥に王宮があった。


 


 夜明け、空が白み始めたころになると、琴里ことりは王宮の中庭の一つにやってきた。


 琴里ことり天昇てんしょうの使い魔の一人で、背中に小さな羽を持った見た目は十六、七歳の女の子だった。見た目は若いが、すでにウン百年と生きている魔性で、王の天昇てんしょうにもお小言を言えるぐらいの根性があった。

 天昇てんしょうの身の回りの世話をしたり、雑用全般も行っていた。

 黙って立っていれば、ホワンとした感じの可愛かわいい女の子だった。


 毎朝、琴里ことりは中庭を回り、花を摘んで天昇てんしょうの部屋に飾っていた。




 その朝も琴里ことりは花を摘みに中庭にやってきた。

 まだ、辺りは薄暗く、ひんやりとした空気が肌に冷たく感じられた。


「う~ん。まだ、朝は寒いな。昼間は温かくなって丁度いいんだけどな」


 琴里ことりは庭を歩きながら、よさげな花を探した。



 琴里ことりは王宮の一番古い塔の近くにある花壇を物色し始めた。

 そして、塔の下のこんもりとした茂みから小さな足が二本出ているのを見つけた。

 

 「…足?」


 琴里ことりはその足をマジマジと見て首をかしげた。

 こんな時間に、こんな所に、足??

 琴里ことりはその足をつかみ、ズリズリと引きずり出した。


 その足の正体は六、七歳ぐらいの男の子だった。

 黒髪で全身黒づくめの服を着ていた。



「ねえ、大丈夫?」


 琴里ことりが声をかけるが男の子は微動だにしない。

 クカ~と寝息をたてている。


「えっと… まさか、ここで寝ているの?どうして???」


 琴里ことりはどうしたものかと思案したが、まだ朝は寒い。

 この寒空の下、万が一、凍死でもされたらたまったものではない。

 目覚めが悪くなるではないか!


 琴里ことりはそのままにしてはおけないと、仕方なしに部屋に連れて行くことにした。

 が、琴里ことりは魔性だが力仕事は苦手だった。

 元々、小鳥の一族で飛ぶのは得意だが、非力だった。体型もお子様に近かった。


 寝転ねころがっているのは六、七歳ぐらいの子供だが、

 琴里ことりは男の子を抱えることも出来ず、そのまま足を持って引きずることにした。



「よいしょっ! …重っ…、ちょっと、重いんだけど…」


 琴里ことりは両足を持ち上げただけで、両腕と腹筋に力が入って困惑した。


「こんなに重たいもの、持ったことないわよ!」


 琴里ことりは無理やり足を引っ張った。


 ちょっとずつ、ズリズリと男の子の体が動いていく。

 だが、男の子は引きずられても起きることはなかった。

 時々、クカ~と息をし、気持ちよさそうに寝息をたてていた。


 琴里ことりの部屋は王宮の二階にあり、階段もそのまま引きずって行くしかなかった。


 琴里ことりは後ろ向きに階段を一段、一段あがり、その度に男の子は頭をゴンゴンと打ち付けていたが起きることはなかった。


 琴里ことりは男の子をやっとの思いで部屋に連れ帰って、そのままゆかに放置した。

 とりあえず、部屋にあった毛布をかけてやった。


 琴里ことりは朝一番の大仕事にグッタリした。

 一日の仕事をすべて終わらせた以上の労働だった。



「どこの子よ? 王宮に、こんな子、いたっけ?

 こんな扱いされて起きないなんて…。どういう神経してんのよ⁉」


 琴里ことりはブツブツと文句を言った。

 そして、この図太い神経の持ち主に対してイラッとしていた。


「ちょっと、こんな時間!やだ~朝ごはん食べる時間がなくなっちゃったじゃない!もう!間に合わない!」



 朝の予期せぬ出来事のせいで、天昇てんしょうの部屋に行く時間が迫っていた。


 琴里ことりは男の子をほって慌てて自分の仕事の準備を始めた。













 






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