収益化したら国民的人気アイドルから赤スパを投げられ続けた件

九戸政景

収益化したら国民的人気アイドルから赤スパを投げ続けられた件

 静かな文芸部の部室。幽霊部員ばかりのこの部室にいるのは、今日も俺、降幡ふりはた安司あんじと後輩の白雪凛だけだ。

 長い黒髪で目元が隠れがち、いわゆるメカクレの凛はいつも向かいに座って本を読んでいる。その真剣さは運動部という気にはならなかったので文芸部を選んだ俺とは対照的だ。


「先輩、今日も配信はするんですか?」

「ああ。ようやく収益化が通ったからな。記念配信って感じで少しだけやろうかな」

「楽しみにしていますね」


 黒いヴェールの向こうに笑顔が見える。いつも通りの静かな部活を終えて帰宅した後、俺は準備をして配信をつけた。いつものゲーム実況じゃなく軽い雑談にしようかと思っていたその時だった。


『¥10,000:収益化おめでとうございます! 今日も素敵でした!』

「いや、今日もってどういう事だ!? というか、いきなり赤スパ!?」


 赤スパは配信者への応援として投げられる投げ銭機能であるスーパーチャットの一つ。その中でも1万円以上の高額なものを示すためにメッセージが赤く染まる事から赤スパと呼ばれている。

 だけど、それはポンポン投げられるものではないし、配信をつけてすぐに投げられたからこそより驚いたのだ。


『ガチ勢の推し活、始まったな』

『収益化通ったからこそ本気出してきた感じだな』

『最古参な上に息をするようにコメントするからな』


 ウチのチャンネルによく来てくれる人達はもう慣れた様子だった。そして赤スパを投げているのは初期の頃から応援してくれるレイさん。積極的にコメントをしてくれるとてもありがたい人だ。


「えーと、赤スパありがとうございます。けど、無理はしないでくださいね?」


 その瞬間、赤が舞った。


『¥10,000:推しが心配してくれた……!?』

『¥10,000:嬉しい……!』

「いやいや! 無理はするなって言ったんだけど!? というか、どうやってスパチャって止めればいいんだ!?」


 混乱する俺の目の前で次々にコメントが流れる。


『うん、ありがたく受け取ろう』

『財布ツヨイナー』

『これは切り抜き師が湧く神回だな』


 みんなはこのカオスを楽しむことに決めたようだった。もっとも、俺は頭を抱えていたが。その後もレイさんの赤スパは度々飛ぶ中で配信は終わり、結局上限である5万まで到達していた。


「はあ……軽く雑談程度、なんて考えてたけど、スゴいことになったな」


 突然の赤スパに困りながらも内心は照れていた。ここまで応援してくれている人がいるのは何だかんだで嬉しかったから。


「とりあえず配信の評判でも……って、は!?」


 評判を見ようとSNSを開いた時、目に飛び込んできたのはある投稿だった。それは俺の配信の視聴画面を写した画像に興奮気味の感想を添えたものだ。けど、その投稿をしていたのが。


「ゆ、雪城ゆきしろれい……!?」


 テレビでも見ない日はないと言われるほどの国民的アイドルだ。その可愛らしい外見と博識な一面、時折見せる天然な言動が人気だと聞いたことがあるけど、そんなアイドルが配信の視聴者だとは思わなかった。


「な、なんで……え、もしかしてレイさんって雪城さんなのか……!?」


 パソコンの画面を前に俺は困惑するしかなかった。



「先輩、今日もかっこよかった……」


 私は配信のアーカイブを観ていた。興奮のあまり、雪城鈴のアカウントで配信の感想を投稿しちゃったけれどそれは仕方ない。これでも事務所から許可はもらっているから。


「赤スパを投げた時、先輩困ってたけど、ちょっと可愛かったかも。メンバーシップ開設したらすぐに入らないと」


 ふとアーカイブのコメント欄に目を向ける。


『嬉しさのあまりの開幕赤スパはエグい』

『このガチ勢の財布さんは過労死せんの?』


 ありがたいことに雪城鈴が人気な事でお金は家にいれてもまだまだたっぷりある。だからもっと先輩を応援出来る。


「ふふ、次の配信も楽しみだなあ」


 次はどんな赤スパを送ろうか。私の赤スパは、先輩への愛は止まらない。

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収益化したら国民的人気アイドルから赤スパを投げられ続けた件 九戸政景 @2012712

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