コミック書評:『レイショナル・サイクロメトリック・フォーミュラ』(1000夜連続8夜目)

sue1000

『レイショナル・サイクロメトリック・フォーミュラ』

――状況を率直に分析し、起こりうる最悪の事態を見極める。


地球規模で深刻化する温暖化とそれに伴う酷暑。私たちはエアコンの恩恵を当たり前のように享受しているが、その基礎を築いた“エアコンの父”ウィリス・キャリアの名を知る人は少ない。『レイショナル・サイクロメトリック・フォーミュラ』は、そんな隠れた偉人の生涯をドラマチックに描き出す意欲作だ。第1巻では、まだ学生だった彼が、自らの哲学としての「魔法の公式」を発見し、のちに炎のごとき熱意で空気調和(空調)技術の扉を開くまでの“序章”を紡いでいる。


物語は1885年、ニューヨーク州の小さな町で育った少年ウィリスが、父の営む工場の蒸し暑さに危機感を抱く場面から始まる。やがてコーネル大学に進学した彼は、物理と数学にのめり込みながら、自分の人生を「空気を制すること」に捧げようと決意する。第1話のクライマックス──夜半の実験室で彼が紙面に記した三行の「魔法の公式」は、この物語の心臓部だ。

(※ウィリスキャリアの魔法の公式とは、「1,状況を率直に分析し、起こりうる最悪の事態を見極める。」「2,やむを得ない場合はそれを受け入れる覚悟をする。」「3,事態を好転させるために時間とエネルギーを集中させる。」で、のちにD.カーネギーの著書でも紹介されている。)


第1巻のラストでは、さらに1911年にアメリカ機械工学会年次会合で発表された論文『Rational Psychrometric Formulae』への伏線が巧みに張られる。相対湿度、絶対湿度、露点温度を結びつけるその画期的な公式が、いかに空調装置の設計を飛躍的に合理化したか──発明家としての鋭い洞察はもちろん、起業家としての大胆さ、そしてロマンチストらしい詩的なビジョンまで、1巻にして彼の多面的な魅力を描き出している。試験管に滴る水滴を見つめる横顔や、星座の神話を数式に重ねるモノローグは、技術者の冷静さと詩人の情熱が交錯する鮮烈なシーンだ。


無名の青年だったキャリアが、三行の公式と一篇の論文で世界を変える軌跡は、まさに“クーラーという魔法”を日常にもたらした奇跡の物語である。暑さに苦しむ人類を陰で支え続けた偉大な先駆者へのオマージュが胸に響く一冊。次巻以降の、彼が商用エアコンを世に問う冒険譚が待ち遠しい。

何より、クーラーを発明してくれてありがとう――そんな気持ちを新たにさせてくれる傑作だ。








というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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