静かな語り口の中に、時代の空気と個人史が丁寧に織り込まれていて、読み進めるほどに厚みが増していく作品だと感じました。
派手な事件や誇張された感情表現に頼らず、仕事、家族、人との距離感といった要素を淡々と積み重ねていくことで、主人公の輪郭が自然に立ち上がってきます。
特に印象的なのは、固有名詞や風景描写の使い方が過剰にならず、「その時代を生きていた感覚」を読者に委ねてくる点です。説明されるのではなく、思い出を隣で聞いているような読後感がありました。
人生の節目や選択が描かれているにもかかわらず、どこか抑制が効いていて、感情を押しつけてこない。その距離感が心地よく、先の展開も自然に追いたくなります。
これから主人公がどんな違和感や決断に向き合っていくのか、続きを楽しみにしています。