第4話 底辺高校で新入生が無双した

不敗のアンデット貝原』――

 それは入学早々につけられた、私の汚名ニックネームだった。

 そう、文字通り汚名。

 だって、厨二感全開で恥ずかしいじゃないか。赤顔ものだ。


 全ての原因は、三ヶ月前。

 私たち一年生がこの学校の洗礼を受けた時だった。



「キャハハハ! 入学おめでとう」


 入学式が終わり、教室で先生せんこうのクッソ長い話を聞いてたときだった。

 教室に上級生たちが入ってきたのだ。

 黒い特攻服に身を包んだその姿は、まさにレディース。

 それを見た先生は、そそくさと教室から去って行く。

 その顔はかなり真っ青。先生すらビビる上級生って……。


「おい、おまえら」

 上級生の中から目立つやつが出てきた。

 青い短髪の女。

 その手には大きな洋刀……サーベルが握られていた。ちょ、銃刀法!


 女は言う。

「あたしはサーベルのサキ。総長からおまらの教育を任された。今日からおまえらは私たちの奴隷だ!」

 シャッ!

 女ことサキはサーベルを抜き、掲げて見せる。

「おぉッ」クラスの中から怯えに似た声が上がった。


「おい、おまえ」サキは私を指さした。

「おまえ、たしか理事長の孫なんだってな」

「まぁ、はい」そう答えると。


 バシッ!

 頬にするどい痛覚がはしる。

 殴られたことに気がついたのはすぐだった。

 えっ、いきなり……。


「なんだその口の利き方? 理事長の孫だからって調子に乗るなよ」

 こちらをメンチを切りながら、顔を近づけてくる。

 ……ったく。

 思わず、ため息が出てしまう。

 あぁ、もう入学早々にからまれてしまうなんて。


「おい、聞いてんのか? 理事長の孫がよぉ!」

 ……はいはい、もう飽きた。

 私は一歩を踏み込んで。

 ゴツン!

 頭突き。彼女の鼻が綺麗に折れる。


「おい、この野郎……」

 サキは鼻血を出しながら、床に尻もちをつく。


「あの、先輩。私の名前は『理事長の孫』じゃなくて貝原サクヤなんで」

「うるせぇ!」

 サキかがサーベルを私に振り落とす。だから、銃刀法!

 しかし、刃が私に当たった瞬間。バキッという音とともに折れてしまった。

 なんだ、模造刀か?


「あ、あたしのサーベルが」

 サキが顔を青くして、折れたサーベルを見つめる。

 その隙に顔面に拳を一撃。

「あぁぁぁれぇぇ」とサキは飛んでいって、壁に激突。

 その場にバタッと倒れた。


「さ、サキさんがやられた!」

 焦り出す上級生たち。

 その中の一人がこんなことを言った。

「ほ、他の幹部を呼んでこよう!」

 そうして、私と幹部の連戦が始まってしまった。


「我が名はチョップの柿崎。ふっ、サキは幹部のなかでは最弱。ヤツに勝ったぐらいで……」

 ボカッ!


「やぁやぁ、僕はダンサーのマイ。僕の戦い方はまるでダンスみたいって……」

 ボカッ!


「拙者の名前はくノ一のなでしこ! 拙者の秘伝の忍術で……」

 ボカッ!


「ふっ、俺は副総長の竜城りゅうじょう恵子けいこ。略してドラケ……」

 ボカッ!


 ……唐突に沈黙が場を支配する。

 コツンコツンと足音が教室に入ってきた。


「ふふっ、幹部を全て倒してしまうとは」


 そこにいたのは、背の高い女。

 長い茶髪。青い瞳は鋭く、こちらを睨んでいる。

 思わず、寒気がした。

 この圧迫感。こいつただ者じゃねぇ……。


「貝原サクヤ。キミを認めよう。私は総長の荒井あらい皇帝カイザー。私を倒せる者なんて、ひとりも……」

 ボカッ!


 楽勝でした☆


 こうして、私はこの学校の幹部たちをボコボコに打ちのめしてやった。

 サーベルで斬られても、クナイで刺されても、傷一つつかない私を見て、クラスメイトは言った。

「あいつは、不死者アンデットだ……。不敗のアンデット貝原だ!」

 それが瞬く間に広まり、(不名誉なことに)私の二つ名になったのだった。

 本当にやめて欲しい。私はゾンビじゃないのに……。

 

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