第2話 保健室にお嬢様がお見舞いしにきた

 目を覚ましたら、白い天井。

 そして、白いパーティションに白いベッド。

 保健室だ。


 えっと、私、たしか。

 先ほどの失態が脳裏に浮かぶ。


「最悪だ」


 あの転校生、本当になんなんだよ。

 おでこをくっつけてくるとか、一体どんな神経してるんだ。


 でも、あの距離。あの息遣い。

 思い出しただけで、胸が高鳴ってしまう。

 どうしちゃったんだよ私。


「吉川櫻子。……恐ろしいヤツ」

「あら、およびしましたか?」


 ギョッとした。

 パーティションの向こうから、転校生が現れた。

 いや、現れなくていいから。


「なにしにきたんだよ?」

「お熱が心配で。体調大丈夫ですか?」

「誰のせいだと思ってるんだ」


 ふと、彼女の手になにか握られているのが、目に入る。

 それは小さな紙パックのりんごジュースだった。


「……買ってきたのかそれ?」

「えぇ。熱にはりんごジュースが一番かと」


 あ、やばい。変に嬉しい。


「嫌ならいいですけど」

「だ、誰がいらないって言った!」


 半ば強引にジュースを受け取った。

 顔が熱いのは、激しく動いたからだろうか。


「あら、顔が真っ赤。まだ、お熱があるのでは」

 転校生がまたおでこを近づけてくる。おいおい。


「違ぇから!」

 私は全力でそれを阻止した。

 またさっきのようになるのは勘弁だ。


「てか、わざわざ見舞いなんかこなくてもいいのに」

「いえいえ、理事長のお孫さんの一大事。誰だって心配しますわ」

「えっ、どこでそれを?」

 思わず、声音が変わる。

 そう。私の祖父はこの貝原学院女子高等学校の理事長だ。

「そりゃあもう、私のおじいさまと貝原さんのおじいさまが親友でして」


 えっ、そうだったの?

 唐突に出た新情報に困惑する。


「じゃあ、ここに転校してきたのは、その関係で?」

「それもありますが……」


 彼女がジッと私を見つめる。

 その表情はどこか神妙だった。

 まるで、これから重大なことを打ち明けるかのように。


「ありますが?」

 思わず、唾を呑み込む。

 その雰囲気に、背筋が伸びてしまう。


「やっぱり、内緒にしておきますわ」


 無邪気な感じで、微笑む転校生。

 その笑顔は、暖かくて、柔らかい。でもどこか挑発的。

 一言で言えば、反則だった。


「ビビらすなよバーカ!」


 口ではそう言えるのに。

 なんでだよ。

 なんで胸の奥が、すっげぇうるさくなるんだよぉ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る