あたしの親友がvtuberのはずがない。

佐藤ゆう

第1話 はっぴぃ?


 ナンバー1vtuberになるのが……死んだ妹との約束だった……。


 あと少しで……ナンバー1になれたのに……悔しいぃ………。


 ◆


「 はぴぃはぴぃ♡ はっぴぃぃ♡ 」


 パソコン画面に映るピンク娘が明るい声を響かせた。


「愛と幸せのキューピット、【愛ノ原はっぴぃ】ちゃんだよぉ♪ みんな、ハッピータイムの時間だよぉー♡」


 この天使衣装のピンク娘は、vtuber【愛ノ原 はっぴぃ】


 あたしの宿敵だ……!


 ◆


「……さあ、お楽しみの時間よぉ。あなた達の『ご主人様』で『下僕』の黒条 切華(こくじょうきりか)が ご褒美を あ・げ・る☠」


 これがあたし、ナンバー2vtuber『黒条 切華』。


 ドМでドSの女王様系vtuberという設定。

 黒ゴスロリに黒眼帯。


 中二病 丸出しだが、ドMでドSで、黒ゴスロリで黒眼帯の女王様という、詰め込みすぎで 逆にいない斬新な設定のおかげで 一躍人気vtuberになった。


 けど、ある人物の登場によって、あたしの人生計画は破綻する事になる。


 ◆


「愛ノ原 はっぴぃだよぉ♪ みんな、はっぴぃー?」


 ◆はぴぃイエース!◆


 『コメント欄』が瞬時に埋め尽くされた。


 超新星 天使系vtuberとして、あたしの人気を一気に追い抜き、あたしのすべてを奪った。

 『人気』も『約束』も。


 妹との誓いを守るため、必ず追い抜いてみせる。


 どんな努力をしても。どんなコラボを使っても。どんなキタナイ手を使ってでも……。


 ◆


  ピ ピ ピ ピ ピ ピ ピ ピ ――。

 

 目覚まし時計の音で、あたしはベッドの上で目を覚ました。


「う〜〜ん」


 眠い目をこすり、部屋を出て リビングのドアを開ける。


「おはよう、智花」


「……おはよう……ママぁ……」


 ボサボサの頭をかいて大きなあくびをする。


 vtuber【黒条切華】の中の人『幸ノ鳥 智花(こうのとり ちか)』は、十六歳。華の高校生である。 


 東京の進学校【聖黒薔薇マリアンヌ女学院】に在籍。

 美術に秀でた高校で、あたしも とある倶楽部を目的に ここに入学した。


「ふあ〜〜」


「また徹夜? 大丈夫なの、智花?」


 2度目のあくびに、ママが心配そうに聞いてきた。


「は〜〜い」


 適当に返事をして、牛乳をグビグビと飲んだ。

 テレビを付けると、朝の雑談番組の司会がゲストと何か話をしている。


「それにしても、いま流行りのなんでしたっけ? vtuber? すごい勢いですよね。その中でも、『愛ノ原 はっぴぃ』さん。彼女、とても人気がありますよね? 娘の話題でもよく出てくるんですよ。私も流行に遅れないように見ようかと思っているんです」

 

 ピンク女の話題にイライラして、テレビをプツンと消した。


「愛ノ原 はっぴぃちゃんの話題、職場でもよく出るわね?」


 ママの嫌な話題の追撃に、眉をひそめる。


「ママ……。あたしの敵の話をしないでくれる?」


 そう 彼女は敵なのだ。

 倒すべき敵。

 追い落とす敵。

 あたしからすべてを奪った敵。


 だからあたしは、どんな努力をしても、どんな手を使っても、必ず勝ってみせる。

 妹のために――。


 ◆◆◆


「ママ。あたしは将来、漫画家になりたい」


 それが幼い頃のあたしの『夢』。


「お姉ちゃん。わたしはvtuberになりたい」


 それがいなくった妹の『夢』。

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