第30話 閑話 ウロボロス


 男は地下にいた。


 はるか神話の時代より残っているとされる古い地下施設。その雰囲気から『神殿』と呼んだ方がいいかもしれない。


 ……いいや、まさしく神殿である。


 なぜならば、この場所で彼ら『ウロボロス』は魔王を召喚・・するのだから。


 ……数日前に実行したときは何も起こらなかった。


 だからこそ、今度こそは失敗するわけにはいかなかった。五年前に大神殿から盗んだ召喚素材は残り一つしかないのだから。


 すでに召喚の準備は終わっている。

 だが、男はもう一度召喚手順の確認をさせていた。失敗を恐れているが故に。


 そんな中。部下の一人がとある報告を持ってきた。冒険者として商都に忍び込ませていた四人組が、公爵家の騎士団に捕まったというのだ。


「……まさか、ウロボロスの一員であると露見したのか?」


「おそらくは」


「バカな。アイツらには『時』が来るまで普通の冒険者として行動させていたはずだ。露見するはずがないだろう?」


「それについてなのですが……どうにも『ハイエルフ』が出たようで」


「ハイエルフ、だと?」


 男もハイエルフに関する噂ならいくつか知っている。今は失われたポーションを製造する技術があり、人を遥かに超える魔力を持ち、神話の時代から生きているという……。


 ポーション。そして神話の時代から生きていることから、神話の時代より幾度となく復活してきた魔王との関連性を指摘する研究者もいるが……馬鹿馬鹿しいと男は思う。たったそれだけの共通点で同一視するなど、『二足歩行している』という理由で人間とエルフを同一視するようなものではないかと。


 魔王との関連性はとにかく、ここはどう動くべきかと男は悩む。


 この神殿は商都近くの森の中にある。

 あの冒険者たちはしょせん使い捨てなので神殿の場所は教えていない。が、今までのやり取りから森の中に『何か』があると察している可能性はゼロとは言えなかった。


 できることなら早急に処分したい。


「……暗殺者を送り込むことはできるか?」


「試すことはできますが、確実に実行できるかは……。囚われているのが騎士団の本部ですので」


「うぅむ……」


 暗殺者は気配を消してこそ。しかし、戦闘訓練を積み続けている騎士であれば気配を察してしまう可能性がある。そんな騎士が常に複数詰めかけている騎士団本部であれば尚更だ。


 万が一暗殺者が捕まった場合、あの冒険者共とは比べものにならないほどの情報漏洩があるだろう。ここは無理をせずに召喚の準備を進めてしまうのが――


「――いや、あの手があったか」


 その結論に至った男は部下に指示を飛ばした。


「あの冒険者共の『刻印』を暴走させろ」


「刻印を、ですか?」


「うむ。刻印は体内の血管と深く結びついている。刻印を暴走させれば死に至るはずだ」


 体内の魔力は血管を伝って全身をめぐっているので、理屈の上ではそうなるだろう。そしてあの刻印は特殊なのでこちらから暴走させることもできるかもしれない。


 が、それはあくまで理屈の上だ。


「そのようなことは試したことがないので、どのような結果になるか分かりませんが……」


「かまわん。失敗したとしてもこちらが不利になるわけでもなかろう。むしろ良い実験になるではないか」


「……はっ。それでは、すぐに暴走させます」


 そもそも、治療によって足が繋がっていれば効果はあるが、そのまま放置されていたら何の意味もない。そして、ウロボロス関係者であろう人間の足をわざわざ繋げるとも思えないのだが。


 そんな指摘をしたい部下だったが、やめた。上司を不機嫌にさせる必要もないからだ。


「では、失礼いたします」


 部下の男は深々と頭を下げたあと、常識外の指示をこなすために部屋をあとにしたのだった。



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