不細工扱いされていたけど、のっぺらぼうスキルで世界最強
深山 鎮(みやま まもる)
1章 第1話「ルッキズム」
人の印象は「メラビアンの法則」によると、視覚情報(見た目)が55%、聴覚情報(声のトーンなど)が38%、言語情報(話の内容)が7%で決まるらしく、この法則では、初対面の印象が数秒で決まることも示している。
見た目や話し方を整えることが重要だとされている。
この事から分かる通り、ルッキズムが世の中に蔓延る事はこの上なく当然の摂理なのかもしれない。
そして、そのメラビアンの法則やルッキズムからすると僕は例外なく迫害されてしまう。
顔面偏差値は最低、身長も低く、声もダミ声。これはとりわけ営業職にとっては致命的だった。
仕事どころか私生活においては勿論、これが災いしてか学生生活もいじめられる日々で苦痛だった。
ふと腕時計に目をやると時刻は深夜の0時を回ろうと差し迫っている。資料が詰め込まれた段ボールを持ち運びながら腕時計に目をやったのが最後、俺は階段から足を踏み外して転落してしまう。
…なんてツイてないんだ。つくづくそう思う。
頭が熱いけど…寒気もしてきて意識も朦朧とする。身体の感覚が無いが不思議と寒さだけが伝わってくる。寒い…、凄く寒い。このまま死ぬんだと覚悟する。畜生…。
……。
………。
……………?
気付くと見知らぬ森の中に居た。身体を起こそうとするも、どうにも上手く動かせない。いや、それどころか声さえも出ない。
代わりに赤ん坊の泣き声が周囲に響き渡る。どうやら俺は赤ん坊になってしまったようだ。森の奥の開けた場所にある一本木の下に揺り籠ごと産みの親は俺を捨てたらしい。
暫くすると茂みの奥からバキバキと音が鳴り始めて、俺は身構えるも赤ん坊の身一つでは何も出来ない。
「なんだ人の子か」と呟くその声の主が姿を現す。色白で長耳に金髪のその容貌はファンタジー作品に登場するエルフのようであるが、性別までは判別出来ない。見た目はおおよそ20代ぐらいだろうが、もしもエルフであれば年齢は数百歳とくだらないだろう。
エルフの腰には納刀した短剣が提げられている。
エルフは少しづつ揺り籠で揺れてる俺に近づくと、エルフは「…!」と驚嘆したのも束の間、暫く沈黙する。
この反応を俺は何度も感じたことがある。何度も痛いほど経験した容姿を軽蔑する反応だ。どうやら俺は生まれ変わっても容姿に恵まれなかったらしい。
いっそのこと腰に提げているその短剣で刺殺してくれとさえ思う。
エルフは暫く逡巡し、俺の願いとは裏腹に揺り籠ごと拾い上げて歩き出す。一体どこに連れて行くのだろうか、
暫くするとエルフの目的地に到着する。川のせせらぎが、森の奥で細い糸のように響いていた。
透明な水は、底の丸石まで見えるほど澄んでいる。
川岸に寄り添うように伸びる巨木の枝には、いくつもの小さな家が吊るされていた。
木肌をそのまま生かした家々は、まるで森に溶け込む影のようだ。
家と家を結ぶ細い橋が、風に揺れるたび、鈴のような音を立てる。
気配はほとんどない。だが確かに、森は見ていた。
川を渡る風がさざめき、隠れ住むエルフたちの監視の視線を、そっと告げてくる
川は静かに流れていたが、その沈黙にはどこか張り詰めた空気があった。
木々の間に架けられたツリーハウスは、洞のように黒く口を開けている。
どの家にも窓らしいものはなく、代わりに細い横木の隙間から、冷たい視線のような光が漏れていた。
川の流れが反射した揺らめきが、家々の下側を照らし、森全体が脈動しているように見える。
ここは外の者を歓迎しない場所だ。
しかし、誰かが確かにこちらを見ている。見えない気配が、川向こうの木陰で息を潜めていた。
軽い身のこなしでエルフは自分のツリーハウスまでたどり着く。
扉をくぐった瞬間、外よりも一段冷たい空気が肌を撫でた。
内部は思っていたより広く、木の幹そのものをくり抜いて作られた空洞が、柔らかな曲線で奥へと続いている。
壁の至るところに薄く青い光が浮かんでいた。
光源は灯りではなく、樹皮に染み込んだ魔力が脈打つように明滅しているだけだ。
その淡い光が、床に敷かれた白木の節目を照らし、川面のような揺らぎを生み出していた。
家具はほとんど存在しない。
丸い卓と、葉を編んだ敷物、それだけだ。
しかしその質素さが、逆に“外の者を長く滞在させる気はない”という無言の意思を感じさせた。
上部に続く梯子の先から、かすかに人の気配が降りてくる。
建物全体が生き物のように息づいており、風が吹くたびに、どこからともなく軋む音が響いた。
その音は木が悲鳴をあげているのか、あるいは誰かが足音を潜めて歩いているのか、区別がつかない。
奥の壁には、幹の裂け目を利用した細い覗き穴があった。
外の川を見下ろす視界がそこから覗いている。
だが、覗き穴の周囲には特有の磨耗がほとんどなく、日常的に使われている形跡がなかった。
まるで“ここから監視するのは、姿を持たぬ誰か”であるかのように。
微かな甘い香りが漂う。
エルフの魔力草を乾燥させた匂いだが、その香りに混じって、どこか刺すような鋭さがあった。
まるで住人の警戒心そのものが、部屋の空気に溶け込んでいるようだった。
ここは静寂に満ちている。
だがその静けさは、森が息を潜めて獲物を見定めている時のそれだった。
エルフはそっと揺り籠をソファに置くと何やら日曜大工のようにサッと囲い柵付きの赤ん坊の寝床を作ってしまう。
エルフは揺り籠の俺を寝床に移そうとそっと抱きかかえると少し微笑んだ気がした。
きっと気の所為だろう。寝床に移されると俺は不思議と眠気に襲われて瞼を閉じることにした。
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