第17話 防衛拠点ー1
やることが多い。
まずは生活基盤が全然整っていない。
水だって毎日ギルフォードがバカでかい壺に近くの川まで汲みに行って何度も往復するという普通の人なら1往復で丸一日かかる作業をとんでもない速度で行って成り立っている。
それでも生活用水というには、不衛生だし、伝染病では発生したら一発だ。
そもそも服も不衛生で臭いのである。
風呂だって入っていないので臭いのである。
かといってそんなことに力を割いていたら魔物が襲ってくるのである。
食糧事情だってやばい。
今は海から魚を取ってなんとか過ごしているが、釣りがメインなので食えない日も多い。
海の魔物に襲われる可能性もあり、沖にはでれないのだ。
まだ物資が届いていたころの蓄えの小麦が底を尽きたのでまじでそろそろやばい。
二月分の食料はもってきたが、それは僕たち20人分の食料なので全然足りない。
というか家と呼べる状態ではない。よくこれで人間が生活できたな。
「うーん……どうしたものか」
ということで、今はギルフォードの家の一部屋を借りて僕は唸っている。
常夏の日差しが熱いぜ。屋根? ここはテラスだ。そう思うことにした。
「アレン達がいる一月の間になんとかしないとなぁ。戦える騎士は、ギルフォード、ジャンヌ。あとは6人の騎士団員」
ギルフォード達なら何とかするだろうが、しかし、それは属人化という奴だ。
もしギルフォードが病で倒れたら? 怪我をしたら? 考えたくないが命を落としたら?
一瞬で村の防衛力は落ちる。そこにゴブリンジェネラルが二体とか現れてみろ。
村は終わりだ。
そう思うと誰でも使えるような防衛兵器を作るのがいいんじゃないか? そもそも城壁を強化したほうが。
「うーん…………何から手を付けようか」
既にこの村に到着して、夕暮れ。
夜は夜で危険であるが、さすがに今からとれる対処はないので今日のところはギルフォード達に期待するしかない。
だが、明日からは動く必要があるだろう。
その中で自分ができることは。
「鍛冶場があればなぁ……」
「ありますよ!!」
「ん?」
ひょこっとドアから顔を出して、部屋に入ってきたのはルナだった。
相変わらずの美少女である。まるでどこかのお姫様みたいだが、陽キャラな感じだ。距離を詰めるのが早い感じ。
そして僕の隣に遠慮なく座った。おいなんだその距離感は、懐いちゃうぞ。我八歳だからな! 綺麗なお姉ちゃんは大好きだ……ってそれよりも。
「鍛冶場あるの!?」
「はい! もう誰も使ってないけど……最初期に作られた鍛冶場がありますよ! 特に魔物の襲撃も受けていませんから」
「連れてってもらってもいい?」
「もちろんです!!」
村の端っこ、そこには鍛冶場があった。
建物としてはボロボロで吹きさらし状態だが、しっかり炉もあって鍛冶ができる設備が整っている。
おぉ! これはアヴァルディが喜ぶぞ! 僕もだけど!
しかも……。
「魔鋼!? こんなに!?」
「そうですよ、でも全然使えなくて……計画性ないですよねー」
「…………そうだねー」
どうやら開拓村が出来たころは、ここで家事を行いながら武器や農具をメンテナンスする予定だったらしい。
まぁちょっと壊れたぐらいで船で毎回運ぶのも大変だしな。
「でも……これなら、うまくいきそうだ」
「ノエル様って、すごく大人びてますよねぇ。ほんとに八歳ですか?」
「はは、エドガーのスパルタ教育受ければみんなこうなるよ。あとジャンヌの体罰上等訓練も」
「だからあんなに剣術もすごいんですね。正直、ゴブリンを切り伏せるの……すごく…………かっこよかったですよ」
「え、そ、そう?」
そういって僕に腕を絡めてくるルナ。
なんだ、なんだ? これは脈ありか?
ノエル君、八歳にして遂にモテるか? 常夏で一夏の思い出が出来ちゃうのか?
まぁ、僕も領主だしね! 側室の一人や二人。それぐらいの甲斐性はあります!
「ふふ、お父さんからはノエル様のお世話してあげてって言われてますから。だから遠慮なく何でも言ってくださいね」
「あ、そうなんだ。うん、助かるよ」
「なんでもだよ……なんでも……ね?」
そういって僕の耳元でささやいた。
「お貴族様だもん、エッチなことでも……ね?」
「うん、ありが……ありが!?」
「ふふ……じゃあ、失礼しまーす! またね、ノエル様!」
そういってルナは、少しだけ舌を出して悪そうな小悪魔笑顔をしながら帰ってしまった。
おいおい、どういう教育をしてるんだ、ギルフォード。とんでもない娘さんを育てましたね!!
この世界の貴族は、前の世界の常識と異なり早々と結婚するのが普通である。
八歳ともなれば許嫁画いてもおかしくはない年齢だ。
だけどもね? エッチなことは、まだ僕八歳だからね?
ルナは14歳だからそういうこともする年なのかもしれないが、前世的にはアウトです! オネショタ的にはアリですが!
いや、だめでしょ。成人指定されるわ。しかし、ちょっと今の顔はドキっとしちゃったな。
「ま、まぁ気を取り直して……これだけ魔鋼があるなら……よし! あれを作れるか、アヴァルディと相談だ!」
そして僕はアヴァルディ達、職人たちを呼びに行った。
アヴァルディ達もまた屋根のないボロ家でたむろっていた。
彼らにはお酒と食事を渡している。宴会中だった。こんなとこまでついてきてくれた彼らだ、せめてこれぐらいは優遇してあげなきゃ。
それに今後どうするか、まだ何も話せてないからな。
「お疲れ、アヴァルディ!」
「あぁ、坊ちゃん。お疲れ様です」
「「ノエル様、お疲れ様です!!」」
「とりあえずなんだけどね。防衛力強化のために、こんなのが欲しくって!」
僕は持ってきた紙とペンに作りたいものを書きなぐった。
そう。作りたいのはバリスタである。
「バリスタですかい……まぁ原理は知ってやすから、ここにいるメンバーなら作れやすが……正直、おすすめはしませんがね」
「なんで?」
「坊ちゃんなら知ってると思いますが、上位の魔物ってのは、魔力障壁をもってやす。だから魔剣や魔力を纏った攻撃しか聞かねぇんですよ。あのギルフォードとか言う騎士も魔術は封じられても、魔力自体がその剣を通じていたからゴブリンジェネラルにダメージを与えられましたがね。かと言って下位の魔物のためのバリスタなんて費用対効果が薄いですから」
魔力障壁。
魔物……つまり魔力を持つ生命体には、少なからずこれがある。人間にもだ。
この障壁が厄介で、この世界で銃などが全く発展しない理由なのだが、簡単にいえば魔力が伴わない物理攻撃を軽減するのである。
これが上位の魔物であればあるほど、顕著で弓などは全く効果が期待できない。ゆえに、遠距離武器が発展せずに魔術や騎士が主流になった……とエドガーが教えてくれた。
しかし、逆を言えば魔力さえこもっていれば問題ないのである。
「わかってる。だから、魔剣をバリスタで打ち出してやろうと思ってる」
「――!? 正気ですかい? そりゃ、確かにそれなら上位の魔物にも効くとは思いやすが……聞いたこともねぇですぜ? 魔剣なんて高価なもんを使い捨てにするなんて」
「戦闘が終わったら拾いに行けばいいし、幸い、魔石は昨日大量に手に入った。しかも鍛冶場がある! 魔鋼も結構な量があったよ!」
「鍛冶場に魔鋼が? そりゃ……いいですね。そういうことなら……いっちょやってみますか」
「うん! お願い!! 楽しんでるところ悪いけど、安全は何よりも優先されるからさ」
「もちろんっすよ。おし、てめぇら。宴会は終わりだ。仕事の時間だぞ」
「「おぉぉ!」」
さて、バリスタの作成はアヴァルディに頑張ってもらうとして。
ふぅ……三年ぶりだな。
「魔剣を作るのは」
ちょっと緊張するけど、やっとこの時がきた。
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