第8話 修行ー3
◇兵舎
「副団長、どうしたのですか?」
そわそわしながら兵舎の門で待っているジャンヌに声をかける騎士団員たち。
「ん? いや、なに……ははは! なんでもないさ!」
「ノエル様をお待ちになっているんですね?」
「なぁ!?」
顔を赤らめるジャンヌ、騎士団員達は笑った。
「わかりますよ。ノエル様の成長が楽しみで仕方ない気持ちは」
「なんていうか……まるで宝石を磨いているような……間違いなく歴史に残る絵を描いているような……そんな気持ちがありますね」
それを聞いてジャンヌは頷いた。
「正直……初めは、少し面倒だとすら思った。ガイヤ様の息子とはいえ、得てして貴族の嫡男というのは、我がままで傲慢であるものだ。いや……そうあるべきなのだ」
「はい。それが貴族というものですからね」
貴族と平民は違う。身分、階級、経済力、家柄、考え方。上げればキリがないが、そこには大きな隔たりがある。
生まれた時からの支配者階級と、労働階級。しかし、その構造は社会を維持するためにも必要だ。
ジャンヌも、騎士団として多くの貴族と交流し、軍隊としての規律を理解しているからこそ、それがわかる。
しかし。
「ノエル様は、違う。私たちと同じ目線で同じ言葉で語っていただける。貴族としての在り方としては間違いなのかもしれないが、それがなんとも……心地よい。友人……といっては不敬極まりないが、それでも私はノエル様のために戦いたい……そう心から思う」
「……血は争えないってことっすね」
「まさしく。才覚はノエル様の母君……スカーレット様似かもしれんが、その心は確実にガイヤ様から受け継いでいる」
そのときだった。
馬車からノエルが降りてくる。
馬車には大量の荷物が載せられていた。
「おはようございます、ノエル様! その荷物は?」
「ふふふ、ジャンヌ。騎士団のみんなを集めてくれる?」
「?」
◇ノエル
「はい、どうぞ」
「……恐悦至極にございます!!」
「はは、みんな。そんなに畏まらないでよ。あ、使ったら重さとかの感想を素直に教えてね。今後のために調整の練習だってしたいからさ!」
「「御意!!」」
僕のプレゼントで、騎士団のみんなが感激の涙を流しそうになってくれた。
全員分あるので、中々大変だったが僕も楽しかったし、こんなに喜んでもらえると嬉しい。
そして最後。
目の前でジャンヌがおもちゃを買ってもらえる子供の様にそわそわしている。
「はい、終了」
「えぇ!? そんなぁ!?」
「冗談だよ、いつものちょっとだけお返し。で……これもお返し。いつもありがとう、ジャンヌ。ジャンヌのは特別製だよ。いつか魔剣を作れるようになったら魔術刻印してあげるからね!」
そして僕は、ジャンヌに刀を渡した。
古き良き製法、しかも魔鋼を作った魔剣になりえる大業物。
魔刀とでも名付けようか。
「ジャンヌの魔術を聞いて、もうビビっときたよね! もうこれっきゃないって!」
「私の?」
「うん。雷鳴のジャンヌ。ルシアント王国、最速の騎士。だからさ、ジャンヌならこれを使いこなせると思って」
ゆっくりと鞘から刀を抜くレオンハルト。
輝く刀、濡れたような青白い輝きを放つ。
まるで月光をそのまま金属に閉じ込めたような美しさを持つ。
――日本刀だ。
「これほど……美しい剣が……世界にはあるのですか。思わず舐めたくなるほどの……艶!」
「ねぇねぇ! 試し切りして! 試し切り! 試し切り! 全力でだよ!」
「もちろんです!!」
「そうだな……ねぇ、この剣もってて!!」
「剣に向かって試し切りするのですか?」
騎士団員に訓練用の剣……しかし確かに鉄製の剣を握ってもらう。
元の世界ならぶつかり合っても、どっちも刃こぼれして終わりだが、さてさて、どんな結果かな?
「うん! 大丈夫! 僕を信じて思いっきりね!」
「ノエル様に頂いた剣……恥をかかせるわけにはいきません。全力でいきます!」
そしてジャンヌは構えた。直後、体に雷が纏われる。
そう、雷鳴のジャンヌ。
ジャンヌは固有魔術を持っている。それは雷による一時的な爆発的身体強化。
一対一なら条件さえそろえば、父上すら倒せると言うこの王国最速の騎士の実力。みせてもらおう。
バチ……バチバチバチ!!
ピカッ!!
まるで稲妻が落ちたような光、そして轟く雷鳴。
「すげぇ……」
「魔剣ではないのに……ここまでのことができるのですか。私自身……信じられません」
ジャンヌが驚きながら、切ったはずの剣を見る。
一見すると何も起きていないが、よく見ると剣に一筋の赤い線が入っている。
ジャンヌがその剣を掴んで、引っ張ると、簡単に取れた。
まるでバターのように鉄製の剣を一刀両断してしまったようだ。
さすが魔鋼で出来た剣。ジャンヌの魔術と魔力によって、強化もされているのだろう。
これでさらに魔石による魔剣化をすればとんでもない代物になりそうだな。おぉ創作意欲が湧き出てくるぜ。
「良い感じだね!」
「…………ノエル様!!」
するとジャンヌが大きな声で、そして僕の前に跪く。
直後、みんなも同じように跪き。
「「この度は誠にありがとうございます!」」
感謝を述べてくれた。
喜んでくれるかな? 期待はしていた。でもまっすぐと言葉を届けてもらうと、胸の奥が痛いぐらいぎゅっとなった。
嬉しい。多分……初めてだった。
僕が作った刀が、本来の意味で感謝されたのは。
ずっとそうしてあげたかった。刀を、剣を、その目的のために使ってくれる人に使ってほしかった。
そして喜んでほしかった。
「あ、あれ?」
僕は、自然と涙が溢れてきた。
この日、前世も含めて僕は本当の意味で刀鍛冶になれたのかもしれない。
僕は再度思った。
「どういたしまして! これからも一緒に頑張ろうね!」
「「はっ! 喜んで!!」」
鍛冶最高だと。
それからも剣術に勉強、鍛冶と順風満帆な日々を送った。
二年後、八歳の年。
もしも僕の人生を小説にするならば少しばかりのプロローグが終わり、物語が始まる年へ。
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