追放された転生鍛冶師、固有魔術『魔剣之王』で領地を爆速開拓し、最強の騎士国家を作ってしまう。〜魔剣で始める美少女騎士達との南国リゾートスローライフ〜
KAZU
第1話 魔剣と異世界ー1
現代最高の鍛冶師。
大層な名前だが、所詮時代に取り残された男だ。
カッカッカッ。カッカッカッ。
それでも俺は、槌を叩く。
カッカッカッ。カッカッカッ。
刀鍛冶など時代錯誤だ。
それでもこの心地よい音色がやめられない。
鋼と鋼がぶつかる金属音が狭い鍛冶場に響き渡って、火花が顔を熱くする。
何度も何度も折り返し、鍛え、熱して、叩いて、鍛えて、熱して、叩いて。
現代では、もはや本来の意味を失った仕事だ。
それでも鍛冶が……刀が……好きだった。
「もう少し……もう少しで完成する」
そして俺は渾身の一振りを完成させようとしていた。
確信すらあった。
この一振りは、俺の生涯の集大成といってもいい出来だ。
だからこそ……虚しくもあった。
これほど優れた刀に本当の意味を持たせてやれないことが悔しい。
別に誰かを切れなんて言わないが……ただこの最上の刀に鑑賞用という無様な役割以外を与えてあげたかった。
ただ……申し訳なかった。
それでも俺は槌を打つ。俺は刀鍛冶だからだ。
トンカッカッカッ。トンカッカッガツ!?
そのとき、槌がずれた。いや、ズレたのは俺の体だった。
「あ、あれ?」
耐え難い吐き気、頭痛、めまい、重心がぶれて天地がひっくり返ってきた。
顔面から地面にぶつかり、激痛。時計が落ちてきた。アラームが鳴っていた。
こうならないようにアラームをつけていたのに……集中しすぎて……聞こえなかった。
朝から飲まず食わずでただでさえ燃え滾るような鍛冶場で作業していたことを考えれば。
熱中症だ。
俺は作りかけの刀に手を伸ばす。
「…………くそ。もう……少しなのに」
人生最後の一振りが……こんな中途半端な状態なんて。
あぁ、くそ。もっと作りたかった。
至高の一振りを……この手………………で……。
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バッ!!
「はぁはぁはぁ……い、今のは? なに?」
汗だくで起き上がった僕。
目が覚めるとやけに、フカフカのベッドで目が覚めた。
どこだ、ここは。
今のは……夢? だろうか。熱中症で倒れて……よくわからない。
よっと。
そして僕は、ベッドから降りた。
……………………僕?
なんだこの違和感は、記憶がこんがらがってよくわからない。
僕は誰だ? 僕は、ノエル・ヴァン・レイデン。
リベルティア王国――レイデン辺境伯家の長男で年は五歳だ。
そうだ。僕はそうだ。
しかし、今僕の中には確かに、日本在住――大槌はじめ。35歳の刀鍛冶の記憶がある。
変な感じだ。例えるなら大槌はじめの人生を追体験してきた。みたいな感じ。
体験しただけなので、主人核は僕だ。
しかし、確かに大槌はじめの記憶がある。
「い、意味が分からない。なんだ? 僕は呪われてしまったのか? どうして二つの人間の記憶が確かにあるんだ?」
考えても仕方ないので、一旦保留するかと思った時だった。
バン! っと扉が開いた。
「ノエル様!!!!」
「ん? うぉ!?」
突然開いた扉から飛び出してきたのは、メイド姿の女の子だった。
「大丈夫ですか? もうお熱はありませんか? えーっと、うん! お熱は下がりました!!」
「えーっと、うん。大丈夫。ありがとう、ミレイ」
僕のおでこにおでこをくっつけてニコっと笑うこの子は……ミレイ。
そう、僕の御付きの専属メイド。少しドジっ子のミレイだ。年はまだ中学生ぐらいだろうか。
赤髪で少しそばかすが可愛い、おさげの女の子だ。
「三日三晩、高熱で! ミレイはもう寝ることもできなくて、ずっと心配だったのですよ! あーん、もう! ノエル様!」
「そ、そっか。心配かけたね。もう大丈夫だよ……もう大丈夫だよ?」
「嫌です。三日分、ぎゅーっとします! ミレイはほんとにほんとに心配したのですよ!」
「そうだ、こんな奴だった……ねぇ、お腹すいたんだけど」
「おっぱい飲みますか?」
「でないだろ」
僕はベッドから降りた。
このメイド、僕をダメにさせることが目的なんじゃないかと思うほど溺愛である。
あとたまにちょっとヤンデレっぽい。
ミレイが涎垂らしながら僕の服を持ってきたので、もう一人で着れるからと部屋の片づけをさせた。
しかし、今思うとミレイは犯罪スレスレのスキンシップである。
「おぉ……貴族っぽい」
「ふふ、面白いことを言いますね。お貴族様なんですから当然ですのに」
「うん、まぁ……そうだね。父上はもう食卓?」
「はい! 参りましょう!」
そして僕は部屋を出る。
真っ赤な絨毯、意味の分からない絵画と壺が並ぶ廊下。
多分芸術品なのだろう、悪いけど僕は剣ぐらいにしか目利きは効かない。
…………ん?
「ミレイ! ミレイ!! これなに!!」
「ん? あぁ、そちらは魔剣フェザー。御父上――ガイヤ辺境伯様が陛下から賜ったAランク上位に位置する魔剣ですよ」
「魔剣!? なにそれ!! ねぇ! 触ってもいい! ねぇ!! お願い!」
ショーケースに入った見事というしかない一振りの刀……ではなく剣。
しかし、これは間違いなく剣だ。刀ではないが、剣だ。
鍛冶で生み出された剣だ!! うっひょーー!
僕は夢中でそのショーケースに張り付いた。
が、引っぺがされる。
「旦那様の許可が要りますし、まだノエル様には早すぎます。魔術が暴発したらどうするんですか」
「魔術!? 魔剣を触ったら魔術が発動するの!? あ! ミレイ! 待って! もう少し見たい!! あぁぁ!! 魔剣ちゃーーん!!」
「なんだか人が変わられたようですの。はいはい、ノエル様。先に朝食ですよ」
そして僕は、抱えられて食卓へと連れていかれた。
最愛の人と引きはがされた気分である。
食卓。長すぎるテーブルの端に厳格な父が座っている。整えられた髭と鷹の眼のような鋭い眼と武人の佇まい。
父は、辺境伯でありながら武人である。戦で、大活躍して今の地位まで上り詰めたとか。
名をガイヤ・ヴァン・レイデン。
そして僕の母はいない。
戦で、亡くなったと聞いている。僕がまだ赤ちゃんだったので顔も知らない。
僕は向かい合うように座る。しかし長い。
10メートルぐらい先の父の表情はよく見えない。
「体調はどうだ。ノエル」
「は、はい! 元気です!」
「…………そうか、ならいい」
静かな食卓、少しだけ気まずい。
こんな距離があっては会話も碌にできはしないな。
なので僕は席を降りた。
「ノエル様?」
そして席を運んで、父上の隣に席を置いた。
驚く父。悪いが可愛い息子ではなく、ちょっと打算的な息子である。
「隣でもいいですか?」
「…………か、構わん」
なんだかちょっと照れてるような気がしないでもないが、父上に限ってそれはないか。
それから食事が運ばれてきた。僕は食べながら会話することにした。
少しだけ話しながらわかったことがある。今まで怖いなと思っていた父は、ただ寡黙なだけだった。
まぁこちとら五歳だったので、ただ怖いだけだったのだがもう一つの記憶があるせいか、色々感じ取ることができる。
つまりは。
「ごほん。ノエル……それでなにか欲しいものとかはないか?」
「何かくれるんですか!!」
「構わん。お前が寝込んでいる間に、五つの誕生日を迎えたからな。その……プレゼント……だ。その……構わん!」
簡単にいえばツンデレである。構わんしか言わないが。
おっさんのツンデレに需要なんかないぞと思いながらも、父のことが少しだけわかってきた僕は嬉しかった。
「魔剣フェザー!」
「それはだめだ。あれは殿下に賜りし宝剣。お前が触れていいものではない」
普通にだめだった。
ちっ! さすがに五歳時に魔剣を渡す親はいないか。
「だが……魔剣に興味があるのか?」
「はい! 魔剣に興味があります!! すごくあります!!」
「なら、教師をつけてやろう。魔剣について学ぶことは良いことだ」
お! パパ上! 話がわかるじゃないか!
そうです、魔剣について知りたかったんです!
すると、食事が終わると父上が立ちあがった。
「ついてこい」
「はい!」
スタスタと歩く父上、ちょ! はやい! 僕五歳なんですけど! 足短いんですけど!
はぁはぁと息を切らしながら頑張ってついていくと父上が振り返る。
眉間に皺を寄せて僕を見ると。
「す、すみません。すぐに――!?」
「構わん」
ひょいっと持ち上げてくれた。
肩に乗せられる。たくましい腕、筋肉質な体。
安定感ばっちりで、なんだか少し気恥ずかしいが、嬉しいとも思った。
それから父は廊下にでて、魔剣フェザーをショーケースから取り出した。
まさかくれるのか? と思ったがそのまま一緒に庭に出た。庭ひっろ……。漫画でしか見たことない花畑だ。
というか屋敷もでか! 花沢君の屋敷ぐらいデカい。
「魔剣について学ぶなら、お前は知る必要がある。魔剣の力も責任も」
父が魔剣を握る。
直後、魔剣に何か緑色の光と共に風が纏われる。
父は庭に会った大岩の前に立つ。
そして。
「はっ!!」
岩を切った。それはもう一刀両断だ。
これでも刀鍛冶だ。人が刀で岩を切るなどできるはずがないと知っている。
人の力もそうだが、刀自体もそこまで頑丈ではない。刃こぼれして弾かれるのがオチだ。
だが……その魔剣は、大岩を一刀両断してしまった。
バターを切ったような鋭い断面。
「す、すげぇぇぇ! 父上! すごいです! 父上はすごいんですね!」
「…………か、構わん」
僕はわくわくした。こんな剣があるんだ。こんなすごい剣が存在するんだ。
絶対に作ってやる。絶対に魔剣を作ってやる!
そしていずれ。
「至高の一振りを……きっと……この手で」
僕のこの世界での目標が決まった。
あとがき
お久しぶりです。KAZUです。
新作です。面白いのでぜひ。
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