立ち読み★アカシックレコード

地崎守 晶 

立ち読み★アカシックレコード

 ああ、序盤の数ページを流し読みしただけでもう分かる。これもありきたりな、『人間』を名乗る支配的知能生物の、そこそこの文明の産物の使い方を間違えた果ての滅亡モノだ。暗鬱な気分で最後のほうのページを適当に開く。ほらやっぱりだ、核融合発電のいろはも覚えない内に惑星の中で終末戦争をおっぱじめた。


「どいつもこいつも、結末は一緒じゃないか、知能を獲得する生物が決まるまでの小手先のバリエーションばかり増やして、その後は判を押したようにその生物の愚かさ故に互いに滅ぼし合って草の一本も生えない大地になりましたとさ、ときた。もうテンプレ通りの人間愚か系滅亡モノは飽き飽きしてるんだよこっちは」


 吐き捨てて、手にしていたそれを――ワールド・ナンバーN-72942のアカシックレコードを閉じて陳列棚に戻す。


「そんなこと言ってもねえお客サン、最初から最後まで記述したヤツなんてたいてい最後は終末するしかないんスし、そんな長くても誰も付き合いたくないでしょ」


 やる気のなさそうな店主――ぼさぼさ頭にちかちかと点滅するヘイローをいただく中年の爬虫類系種族の外見を取っている――が、棚にハタキをかけながら宥めるように口にする。


「だとしてもだ、せめて恒星間絶滅戦争に至るまでは努力して欲しいんだよ。

協調するのがイージーな惑星にこもっている内にそれすら実現せず同じ種族同士でなんて、創るほうの怠慢を疑われても仕方ないだろう。最近の創造主はレベルが落ちたな」

「はあ、そんなにいうならお客サンならさぞすんばらしー世界と人間をお創りになれるんで」

「バカ言っちゃいけない、僕だって世界の一つ二つ創って管理したさ。この棚に並んでるアカシックレコードほんを束にしても叶わないくらい独創的な世界と人間だぞ、少なくとも銀河全域のエネルギー供給網にワープ技術は実現してた」

「ほほう、それはそれは」

「けど、どこぞの世界の創造主がふざけ半分で自分の世界と強引にくっつけたせいでそのショックで二つとも弾け飛んだ」

「あらら、それはまた」

「だから、当分は世界を創るのも回すのも御免だね、少なくともこんなマンネリな世界しか出てこない内はさ……もっとあっと驚くようなものを見せてくれないと」

「はあ、さいですか……ほんじゃあ、ウチじゃなんにもお求めにならんってことでいいですかね?」

「もう三軒も回ったのに同じようなものばっかりだ。この棚で最後にするよ……」

「はあ、まあウチは立ち読み自由なんでまあごゆっくり……」


 だるそうに言い置くと、店主はすごすごとカウンターの奥に戻っていった。


 僕はため息をつくと、棚に残った最後の……ワールド・ナンバーN-72943のアカシックレコードを手に取り、失望を確認するためだけに適当なページをめくる。


「ん?」


 コイツ、何をやってるんだ?

 意味のなさそうな戯れをしているようでいて、その行為の全てでありきたりなシナリオがどんどん書き換わっていく。何千もの世界を鑑賞してきたこの僕に、まるでその先が予測できない。


 そして極めつけ、目が釘付けになったのが――その女のセリフ。


『これを読んでるそこのアンタ、人間の可能性、なめとんとちゃうで?』


 それ自体はありきたりなセリフなのに、コイツが言うと何か予想だにしない、とんでもないことをやらかしてくれるんじゃないかと。

 ゆきつく先の終末も、その過程も、見たこともない興味深いものになるに違いないと。

 理屈抜きに、そう思えた。


「お、おい!」


 僕はそれを掴んだままカウンターに向かっていた。


「おや、どうしました?」

「これだ!

僕はこの世界がもっと見たい、もっと読みたい、この世界が欲しい!」


 大儀そうにこちらを見上げた店主の口角が上がった。


「いい顔してますね、お客サン……じゃあ、じっくりお楽しみくださいな。

そしてよろしければ、アナタの創ったものも見せに来てくれると嬉しいですね」

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立ち読み★アカシックレコード 地崎守 晶  @kararu11

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