第4話 国王への気持ち(勇者視点)

 シリアとガルドの酒飲み対決から、少し経ち。ガルドも起き上がってリャーシュと飲みなおしている。


 それを視界の端に収めながら、僕はシリアと話していた。


「そういえば、アルス様。今朝、国王陛下とお会いしてお散歩に誘われたと聞いたのですが、本当ですか?」


 うっ! バレてる。誰にも話していなかったのに。シリアは陛下と話す機会はなかったはず。だれかが見ていたのか。


「そ、そうだったかな~」


「誤魔化さないでください! うぅ、私もご一緒したかった……」


 実はシリアは陛下の大ファンなのだ。と言っても王妃殿下と箱押しだとか言っている。


 よくわからないが、あの二人は尊い存在らしい。まぁ、国王だし尊いのは当たり前だが、シリアの言う尊いとは違う感じがする。


「うらやましいです。アルス様だけ。……仕方がありません、話した内容全部聞かせてもらいます!」


 シリアに迫られて、白状するように話を始める。話しているうちに僕も楽しくなってきてしまい、話が脱線してしまった。


「そうなんだよ、陛下にオーラがあるって褒められて。あの陛下に褒められるなんて信じられないよ」


「まあ、そんなことが。私も褒められたい!」


「シリアの事も褒めてたよ。優しい人なんだねって。それに国民を助けてくれて感謝もしてた」


「本当ですか! あぁ、なんとありがたいお言葉。天にも昇る気持ちです……」


 うっとりとした目をして、手を胸の前で合わせる。そんな彼女の意識が長い間戻ってこないだろうと感じた僕は陛下の事を考えていた。


 初めてお会いしたのは、魔王討伐の旅だちの日。


 勇者という重圧に潰されそうになりながら、あの『ケン王』に会えるなんてと少し心躍らせていた。


 兵士の言葉とともに扉が開き、広間に入ったあの時。広間を支配するかのような圧を感じた。あれが王のオーラというものだろう。ガルドもそれなりだが、陛下は別格だった。


 膝をつき、陛下の声とともに顔を上げる。目に入ってきたのはこの国の支配者。


 僕は勇者だ。人より色々と優れているところがあるのは否定しない。その中でも自信があるのが目だ。僕は観察眼に自信があった。


 今思えば不敬だが、陛下の事を観察した。化粧を濃く塗り、隠そうしているのだろう黒く深い隈。よく見れば、身体もボロボロだと分かる。


 魔王という危機に対応するべく身を粉にしているのだろうと容易に想像がついた。


 そして何よりも、陛下はこの国の頂点。かかる重圧は相当な物だろう。魔王が現れて数年が経った。その間、ずっと耐えていたのだ。そしてこれからも。


 どれ程辛いものなのだろう。あの時の僕には想像も出来なかった。勇者の意味を真に理解できていなかったあの時の僕には、陛下の辛さなど分かるはずもなかった。


 でも、唯一分かったことがある。陛下の目は死んでいなかった。そればかりか、あの時は目をギラギラとさせ闘争心に溢れているようにも見えた。


 考えられなかった。国王なんて勇者と同じく替えの聞かない存在。その重圧にありながらもあんな目をすることが出来るなんて。


 そのことを理解したとき僕は陛下に心酔していた。心の底から。


 魔王討伐という長く厳しい戦いを続けられてのは仲間と陛下の存在のおかげ。


 あの目を思い出せばいくらでも頑張れた。僕も諦められないと。


 魔王を討伐し久しぶり会えた陛下は、旅たちの日よりも隈を濃くさせていた。しかし、あの時感じた圧がなく放心状態だった。


 気が抜けてしまったのだろう。何年も苦しめられてきた魔王がついにいなくなったのだ、仕方がない。


 もう少し陛下を見ていたかったが、今朝お供できたので良しとしよう。


 シリアに秘密にしていたのは絶対詰められるからだ。彼女の陛下たちへの思いも相当なものなので、よく旅の途中で今のように話に花を咲かせていた。


「はっ! それで他にどのような会話をしたのです!」


 遠くに思いを馳せていたシリアが戻ってきた。また、詰めるように顔を近づけ内容を聞かれる。


「ああ、それでね」


 この祭りに来てよかった。こんなに楽しいのはいつぶりだろうか。視界の端ではリャーシュがガルドに酒飲み対決を仕掛け、速攻で負けていた。


 楽しい夜はまだまだ続きそうだ。



    ◇



 ぐわああああ!


 勇者の事について気になり過ぎて、公務に集中できん。散歩の効果があったと信じるしかないと分かっておるが、気になってしまう。


 勇者たちのおかげで魔王は死に。儂のところに回ってくる書類の内容も復興などの明るいものになった。それはいい事じゃ。しかし、グローリ王国が完全に復興する前に儂が死んでしまうかもと考えると手も止まってしまう。


 どうすればいいんじゃー!


「陛下、新たに目を通していただきたい書類です」


 宰相が儂に新たな仕事を振ってくる。

 こいつとの関係も長いものじゃな。


「陛下、私の顔に何かついていますか?」


「いや、お前とも長いなと思ってな」


「そうですね、学園時代からの付き合いですし。もう何十年も前の事でしょう。……そんなことは置いといて、仕事をしてください」


 ふんっ、冷たい奴じゃ。儂がもの思いにふけっておるというのに。まあ、いい。早く仕事を終わらせて、ゆっくりするとするかの。


「うん?」


 これは、被害報告か。町が一つ壊滅……魔王が居なくなってもこういったものがなくなるわけではない。しかし、妙じゃな


「おい、これについて知っておるか?」


「はい? ……これは、魔物による被害というわけではないようですね。しかし、人によるものでもない?」


 そうじゃ。魔物の被害にしては被害が大きすぎる。もし、それほどの魔物が出現すればすぐに報告が来る。しかし、報告がないばかりか、被害の町には魔物がいた痕跡が一つもなかったらしい。


 証拠を残さない程の知性を魔物は持ち合わせてはいない。ならば人によるものかと考えたが、金目のものは残っていたようだ。


「怪しいな」


「ええ、調べる必要があるかと」


 ふむ。では騎士団の方で調査をさせるか。


「騎士団に調査を要請する。本格的に動くのは調査結果が出てからじゃ」


「かしこましました、騎士団の方へ伝えておきます」


 せっかく平和になったというのに物騒な事じゃ。

 まあ、今できることはない。残りの書類をかたずけるかの。



    ◇



 終わった、やっと終わった。

 窓の外はもう暗くなり始めておる。


「朝からやっておったんじゃがな」


「お疲れ様です」


 宰相がねぎらいの言葉をかけてくる。


 と言っても、いつもよりは早く終わった。内容が重くないので判断するのもいつもより楽じゃな。


 少し身体を伸ばしながら一息つく。


 せっかく早く終わったのじゃ──


「おい、この後一緒に飲まんか?」


「私とですか?」


「お前以外に誰がいる。せっかく早く終わったんじゃいいじゃろ」


「分かりました。私は書類を届けなくてはいけないので先に待っていてください」


 そういうと、書類の束を持ち出ていった。

 

 書類運びくらい他の者に任せればいいのにと思うが昔からじゃ。顔を合わせることも大事だと言って最後の書類に関しては自分で運んでいく。


「律儀な奴じゃ」

 

 さて、儂も準備をするとするかの。

 せっかくじゃから、いいワインを出そう。何かつまめるものがあった方がいいかの?


 あれこれ考えた後、使用人に持ってくるように伝える。自分で行くのは面倒くさいからの。それに国王が取りに行くはダメじゃからな。


 ……前にやったら、凄い勢いで止められた。ちょっとした悪戯のつもりだったんじゃが。


 なんて、言い訳をしながら儂は宰相との出会いを思い出していた。




 

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