くっころ女騎士を妻に迎えた

緑茶

第1話 動物ファッションショー

「くっ、殺せ!」


「いや、これ模擬戦だから。ほんとに殺さないから」


 ある日、二人の騎士が剣を交わし合った。一人は金髪碧眼のイカにもなイケメン。もう一人は黒髪黒目の、目つきが鋭い美少女。


「でも、約束は守ってもらうよぉ〜?」


 ニヤつきながら、男は女に突きつけていた剣を引いた。


 約束、というのは、この模擬戦が始まる前のこと。


『負けた方が、勝った方のいうことをなんでも聞く。それでいいか?』


『ああいいだろう! まぁ、私が負けるわけないがなっ! あっはっは!』


 そしてこのザマである。


 戦いは、僅差で男の勝利に終わった。


「それじゃあ俺のお願い聞いてもらおうかなぁ〜!」


「ぐっ……ぐぐぐ……だが、約束は約束だ。さぁ! なんでも言え! 私にできることならなぁ!!」


「それじゃあ、俺の妻になって☆」


「…………は?」


 こうして、二人の結婚生活が、幕を開けた。


◇◆◇


「……おい、バルツ」


「なぁに、レイナ」


「『なぁに』、では、なぁぁぁい!! なんだこの格好は!?!?」


「何って、正真正銘立派なメイド服ではないか」


 黒髪の女改めレイナは今、金髪の男改めバルツの前に、『メイド服姿』で立たされていた。


 全体的には、レイナに合わせた黒色の服。白いエプロンがついていて、白いフリルがふんだんに使われている。髪は三つ編み。紙を結んでいる紐まで赤いリボンがついている可愛らしいもの。


 スカートはツヤツヤな太ももがバッチリと見える短い丈で、その太ももにはレッグストラップが食い込んでいる。


 靴下は黒い靴が映える白。そして靴下にはフリルがついている。


 さらに胸元には赤いリボンがデカデカとあしらわれており、さらにさらに、頭には黒い猫耳付きメイドカチューシャをしている。


「なっ、ななな、なんで私がこんなことをしなければならないんだ!! 貴様の望みは妻になることだろう!?」


「勝負に負けたから。誰も一回だけなんて言ってないぞー」


「なっ……!!」


 歯を食いしばり、悔しそうに黙り込むレイナ。赤面猫耳メイドが目の前にいて、絶景である。


「そんじゃ、次のお願いな」


「ま、まだ何かあるのか」


 赤面と困惑が入り混じりながらもこちらを睨む目つきは、『氷の女騎士』と呼ばれるだけの力を感じる。


「んじゃ、次はこのセリフを読み上げてくれ」


「読むだけか? そんなの、この服に比べれば造作もな——っ!?」


 レイナは渡した紙をみた途端に、震え始める。


「きっ、貴様!! どれだけ私を侮辱すれば——」


「はい、早くやる」


「くっ……」


 レイナは覚悟を決めたように拳を握りしめた後、まるで猫のように手を作り、尻を突き出して前屈みになる。そして、精一杯の猫撫で声で言うのだ。


「お……おかえりなさいませ、だにゃん! ご主人さまぁ……」


 顔を真っ赤に、美人猫耳メイド(しかも普段はクール)がセリフを言う姿は、ギャップがすごい。思わず口元が緩む。


「笑うなぁ!! 変なポーズの指示までするとは信じられん!! これでいいだろう!!」


 紙にはセリフだけでなくポーズの指定も書いていた。よかった、ちゃんと指示通りやってくれて。


「も……もういいだろう? 着替えるぞ」


「うんもういいよ。猫耳メイド服は」


「……ちょっとまて。なんだ、その含みが入った言い方は」


 バルツはニヤッと笑うと、ソファを立って歩き出す。


 やがてレイナの横を通り抜けると、目の前のクローゼットを開け放った。


「……っ!?」


 そこには、輝かしいばかりの、バニー服が!!


「次はこれです☆」


「できるかぁ!!」


「勝負に負けたレイナさん?」


「うっ……」


 一瞬威勢がよくなったが、勝負のことを思い出すと弱気になる。


 そして……


「うーん、絶景かな」


 そこには、バニーガールとなったレイナがいた。


 服は黒く、胸元は大胆に開けていて、レイナの程よいサイズが映える。


 ウサ耳とふわふわな尻尾は白く、胸元に小さくあしらわれたリボンは、今度は青色。


 髪はレイナの長いストレートヘアをそのまま生かして、前髪を流してそこに可愛らしいウサギのヘアピンと、ニンジンのヘアピンを。


 足には網タイツが履かれ、靴は黒くてシンプルなハイヒール。


「そんな舐め回すように見るな変態がぁ!!」


「怒った顔もかぁわいい」


「貴様っ! 私を舐めてるだろう!!」


 こちらに指をさされて、顔を背けた。


「チッ、もう脱ぐぞ!」


「おう。いいぞ」


「な、なんだ、やけに素直じゃないか」


 その素直さに、レイナは肩透かしを食らう。


(まぁ、そっちの方が私には都合がいいが)


 安心した顔で靴を脱ぎ、靴下を脱ごうとしたときだ。


「おい、着替えるから出て行け」


 先ほどから、レイナはバルツの異様な視線を感じていた。


「なんで?」


「なんで、だと?」


「俺はレイナの夫なわけでぇ、夫なら妻の裸を見ることはおかしいことでもなんでもないわけ」


「……はぁ!?」


 レイナは取り乱す。


「ばっ、ば、ば、馬鹿なこと言ってないで出てけぇ!!」


「俺は真剣だぞ」


 真顔でそう言うバルツに、羞恥心を超えてもはや恐怖を覚えるレイナ。


「だっ、ダメだ! それだけはダメだ殺せぇ!!」


 脱ぎ捨てた網タイツで顔を覆いながら転がるレイナに、バルツは息をついた。


「殺さないよ。まぁ、裸は流石に早かったか。俺としてもレイナに嫌われたくはない」


「……それは、もう手遅れだと思うぞ」


「ということで、俺は出て行く」


 レイナの発言を聞かなかったフリをして、部屋の扉へと向かう。


「ただ、一つ。代わりに願いを聞いてくれないか」


「な、なんだ、そんな改まって。……まぁ、勝負に負けたのは私だからな。なんでも言ってくれ。裸以外ならな」


 その回答を聞いたバルツはフッと笑い、レイナに振り向いた。


「じゃあ、頼む……」


 そう言って、息を思い切り吸って言った。まるで自分の魂を、そこに乗せるように。


「レイナ……」


 レイナは息を飲んだ。何を言われるのか。なぜ、そんな深刻な空気を纏っているのか。


 そんな疑問をよそに、バルツはついに言葉を発したのだ。


「パンツ見せてくれッ!!」


「…………ふはは」


 刹那、レイナは裸足で床を駆けてバルツに向かう。


 そして手を振り上げたと思えばその拳はバルツの脳天に直撃した。


「こんっの、変態野郎がぁぁぁぁぁ!!」


 こうして、バルツとレイナのある日の一日は、バルツの気絶で終わった。

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