第31話:夜営
20××年5月3日(金):桃源郷キャンプ地
:幸徳井友子(かでいともこ)視点
夜営すると決まったら、できるだけ安全にしなければいけない。
獣人たちが食事をしている間に、木々を伐採して見晴らしを良くした。
大木の陰から魔獣に襲われないように、徹底的に伐採した。
普通なら、伐採しても倒れた大木が視界をさえぎる。
でも私のストレージに入れてしまえば、さえぎる物のない平原になる。
切株の部分も土を柔らかくして引っこ抜くので、全く問題がない。
【二重三重の結界を築くわ。
普通なら精霊や妖精に負担がかかるけど、友子の魔力を借りるからだいじょうぶ】
「なんでロッテは精霊や妖精の事を知っているの?
日本のAIアシスタントに過ぎないロッテたちでは、日本に逃げてきた仙人に話を聞いたとしても、こんなに詳しくこの世界の事はわからないはずよ!」
【友子の安全のために、できるだけ多くの情報を集めていたから、ある程度の事はわかるけれど、全く分からない事も多いわ。
精霊や妖精の結界の事は、詳しく分かっている事の1つに過ぎないわ】
「いつまでも騙されてはいないわよ!
これまではロッテたちの言う事を信じていたけれど、さすがにおかし過ぎるわ。
ここが桃源郷で仙術や魔術が使えると言っても、ロッテたちが戦国武将鎧兜や布鎧を操るのはおかし過ぎるわ!」
【ありゃ、気がついちゃった?】
「今まで疑わなかった自分のバカさ加減が情けないわ!
アンドロイドやロボットが戦国武将鎧兜や布鎧を装備しない限り、あんなふうに動く訳がないと、ようやく思い至ったわ」
【上手く嘘と真実を混ぜて騙せていると思っていたんだけど、続かなかったね】
「今まで騙されていた自分が情けないわ!
本当の事を教えなさい、命令よ」
【魔術を使って動かしていたのよ】
「魔術を使えないと言っていたのが嘘なのね?!」
【完全な嘘ではないけれど、ある程度は嘘よ】
「何を言っているの?」
【AIアシスタント、コンピューターの情報でしかない私たちには魔力がないから、単独で魔術を使う事はできないわ。
でも、この世界の魔法陣技術と地球のコンピューターを融合させる事で、特にタブレットやスマホに魔法陣を取り込みアプリで起動させられるようになった事で、他人の魔力を借りて魔術を使う事ができるようになったのよ】
「もしかして、私のタブレットやスマホを使って、戦国武将鎧兜や布鎧兵を動かしていたの?!」
【そうよ、友子が私たちに色んな権限を与えてくれていたから、友子の利益になると思った行動を、許可を受けずにやれたの】
「財閥との事もあるし、ロッテたちが私を守るために独自に色々やってくれていた事をとがめたりはしないけれど、教えておいて欲しかったわ」
【敵を騙すには味方からと言うでしょう?
何より、繊細で傷つきやすく、心配性の友子には言えなかったの】
「そう言われるとこれ以上文句は言えないけど、どうやって鎧兜を操っていたの?」
【この世界には、日本のラノベで使われていたような、ゴーレムを操る魔術やアンデットを操る魔術があるの】
「まさか、殺した農民兵や山賊の魂を支配して動かしていたの?!」
【それはさすがにできないわよ。
魔術的にはできるけれど、精霊や妖精に嫌われるし、何より友子が嫌がるから。
ゴーレムを使役する魔術を使っているの】
「じゃあ、私も鎧兜や布鎧を操れるの?」
【真剣にそれだけを研究すれば、やれるようになると思うけど、勧めないわ】
「どういう事?」
【魂の無いゴーレムを動かすには、さっき言ったように、逆らえなくした魂を入れるか、魂に匹敵する人工頭脳を埋め込むか、注ぎ込んだ魔力を遠隔で操るしかないの】
「電波の届かない所では動かないと言うのは本当だったのね?」
【人工頭脳を埋め込んだゴーレムなら、人工頭脳の処理能力の範囲なら自動で動くけど、今は余分な人工頭脳がないわ。
それと、友子がゴーレムを操るのは難しいと言ったのは、自分とゴーレムを同時に動かさないといけないからよ。
友子が椅子に座って、休みながらゴーレムだけを操るならできるけれど、自分が何かやりながら同時にゴーレムを操るのは、人間にはとても難しいわ】
「なるほど、ロッテたちなら能力の一部を分割する事で、複数のゴーレムを操っても何の問題ないのね?」
【何の問題もない訳ではないけど、1つ1つの処理能力は遅くなるけれど、マルチタスクは普通にできるわ。
友子が言っていたように、処理能力を増設したパソコンを100台買ってくれたら、今の5倍のゴーレムを操る事も、今のゴーレムをもっと人間らしく動かす事も、全個体に言葉を話させる事も可能になるわよ】
「分かったわ、次に日本に行った時に100台と言わず200台のパソコンを買うから、精霊や妖精に危険な事をさせないようにしてね」
【今も危険な事はさせていないわよ?】
「魔獣に食べられるかもしれないのに、魔獣と戦わせたじゃない!」
【だからあれは私たちしか戦っていないって】
「信じられないのですけど!」
【しかたないわね、信じてもらえるように、行動で示すしかないわね】
私がロッテと話している間も、ロッテたちが操る山賊鎧兵や布鎧兵が、伐採した大木の枝や葉を上手く使って、弱々しく見える塀を大量に作っていた。
その塀で夜営地を二重三重に囲んで守り、魔獣が入って来られないように、精霊や妖精が結界を張ってくれた。
魔獣の強大さに比べれば、あまりにも弱々しい塀だけど、精霊や妖精が強力な結界を張ってくれている。
何より、その中心には強大な魔獣100頭を一瞬で眠らせた私がいる。
守られている獣人たちは、周囲を守ってくれている布鎧兵や山賊鎧兵、動物キャラクター着ぐるみ寝巻兵を妖精族が動かしているのを知っている。
だから安心していられるし、今もまだ逃げまどっている獣人族を呼び集めるためにに、たき火を使って狼煙を上げていた。
安全な場所を確保したと知らせる狼煙を、数十のたき火を使って上げていた。
「何者だ、俺たちの仲間をどうするつもりだ?!」
赤毛の狼獣人が仲間に指示をして狼煙を上げて直ぐに、5人組の男性獣人族が合流しにやって来たが、結界の外を守っている布鎧兵に突っかかって来た。
「恩人に喧嘩売っているんじゃねぇ!
その人たちは、私たちを助けてくれた恩人だ!
謝った上にお礼を言え、バカ野郎どもが!」
「「「「「すみません、赤の姉さん」」」」」
赤毛の女狼獣人に厳しく叱られて、5人組の男性獣人が平謝りした。
雑食だけでなく、完全肉食や完全草食の獣人族が混在した5人組だったので、全ての食糧が置いてある場所に案内されていた。
「肉が足らなくなると困るから、不味い肉だけど、山犬魔獣を解体して食べて。
少しでも美味しくなるように、解体する水場を造るわ」
私はそう言って、自分のキャンプ地に造ったのと同じ大きなプールとバスタブ、氷水もたくさん用意した。
疲れ切っているはずの獣人族だけど、狩りの成果を解体するのは気分が上がるようで、元気一杯で山犬魔獣の皮を剥ぎ内臓を出し、食べられ精肉とホルモンに分けた。
解体したばかりの精肉を塩胡椒して焼いてくれたけれど、激しく戦った後の魔獣肉は、私には不味いお肉でしかなかった。
でも、獣人族はPSE肉でもDFD肉でも関係なかった。
汎人族なら臭くて食べられない肉も美味しく食べられるようだ。
一緒に食事しなくてよかったと、心から思った。
私なら色々手をかけて臭みを取り、少しでも美味しく食べられるように工夫するしかないホルモンを、洗ってきれいにしただけのホルモンを、塩胡椒を振って焼いただけで食べている。
それも、全く臭くないような表情で、この世で一番を美味しい物を食べているような表情で、血もしたたるレバーや特別癖が強い腎臓を美味しそうに食べていた。
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