第29話:獣人救出行

20××年5月3日(金):桃源郷キャンプ地

            :幸徳井友子(かでいともこ)視点


 私たちが助けたのは、女と幼い子供が中心のグループだった。


「これだけの援軍がいれば、魔獣が相手でも勝てると思います」


 そのリーダーが、逃げるのではなく反撃すると素早く決断した。

 直ぐに他の獣人たちを助けに行きたかったけれど、問題は眠らせて捕らえた山賊たちをどうするかだった。


【心配はいらないわ、殺した連中は服や装備を剥ぎって妖精に動かしてもらうわ。

 眠っている山賊は、妖精族が操る農民兵に見張らせるわ】


「ここで見張ってもらうの?」


【ええ、キャンプ地まで移動させたとしても、また汎人族の街まで運ばないといけないし、キャンプ地を汎人族に知られたくないわ】


「分かった、だったらこのまま残りの人を助けに行こう」


 ロッテの提案に従って二手に分かれる事にした

 妖精族が魔獣に食べられる心配はあったけれど、私たちが通った場所に魔獣はいなかったし、これから行く先に魔獣がいたとしても、私たちが退治すればいい。


 汎人族に襲われるのは心配だけど、先の戦いぶりを見たら、少々の敵が相手でもだいじょうぶだと思えた。


【少し急ぐから、ストレージへの収納はできる範囲でいいわ】


「分かったわ」


 これまでは、ロッテの操る農民兵や妖精族が操る着ぐるみ寝巻が、刈ったり伐採したり掘り起こしたりした資材は全部私のストレージに収納していた。

 キャンプ地を整える資材にしようとして収納していた。


 でも、これまで以上の速さで助けに行くとなると、収納しきれなくなるかもしれないので、前もって優先順位を確認した。


 単に急ぐからだけではなく、獣人族のお母さんや、自分で歩けないような幼い子を、乗用車やトラックに乗せる事になったのもある。


 何度も乗用車とトラックを停車や発車すると、獣人たちが車に酔ってしまう。

 だから車を運転しながら収納で斬り資材だけストレージに保管した。

 資材の事よりも、助けた獣人族に神経を使う事になった。


 ついさっきまで、子供を守りながら不眠不休の命懸けで逃げていたお母さんたちだ、家族を助けに戻るとは言っても、体力も気力も限界だ。


 乗用車は、ロッテたちの自動運転とは言え、さすがに運転席に獣人族を乗せる訳には行かないので、助手席と後部座席に子供を抱いたお母さんを乗せる事になった。


 6人乗り2トントラックは、運転は私がしないといけないので、前列に2人と後列に3人のお母さん、お母さんに抱かれた幼い子供5人が乗る事になった。


 他にも、乗用車が牽引している軽トレーラーに腰掛ける母子がいる。

 トラックの荷台もできるだけかたずけて、母子が腰掛けられるようにした。

 こんな事になるのなら、トラック用の軽トレーラーも買えばよかった。


 最初に助けた子供たちは、元気いっぱい歩いている。

 知り合いのお母さんや幼い子供とうれしそうに話している。


 私たちは地形に合わせて移動した。

 私がその気になれば、地形すら変えられるとロッテは言う。

 でも、そんな事をしても何の意味もない。


 私が助けたいのは、地形に合わせて逃げてくる獣人たちだ。

 助けたお母さんたちがたどってきたルートを逆行するのが一番確かだ。


「先に行って探してくる!」

「私も!」


 赤い狼っ子と銀の狼っ子は休んで元気だから、自分たちだけでも先に行って、お母さんやお父さんを助けたいのだろう。

 

〖ダメよ! せっかく助けたのに、目の届かない所に行かせて、魔獣や汎人族に襲われて、死なせる訳にはいかないわ!〗


 ヴィアが厳しく2人をたしなめる。

 

「この人の言う通りよ、貴方たちだけ先に行くのは危険過ぎるわ。

 少し休んだら私たちも戦えるようになるから、それまでは我慢しなさい!」


 合流した獣人族のお母さんたちにたしなめられて、2人も渋々乗用車とトラックの間を歩くことに納得した。


 ただ、私やロッテもこんな亀の歩みで良いと思っている訳ではない。

 これまでは、逃げてきた道順を教えられるのが、命からがら逃げていた子供たちの証言だけだったので、頭から信じることができなかった。


 だから、ドローンを飛ばすだけでなく、ロッテたちが操る農民兵や山賊を四方八方に派遣して、獣人族がいないか探しながら移動していた。


 でも、今回は信用できる獣人族のお母さんたちの証言がある。

 彼女たちの指示に従って、獣人族の村に向かった。

 進む速さがほんの少しだけど早くなった。


 同時に、獣人族が一時的に避難集合する場所にも、着ぐるみ寝巻に入った妖精族に行ってもらって、仲間を待っている獣人族がいないか確かめてもらう。


 妖精族が魔獣や汎人族に襲われないか心配だったけれど、この辺りに隠れ住んでいた精霊や妖精が、だいじょうぶだと言ってくれたので、完全に不安がなくなったわけではないけれど、偵察に行ってもらう事にした。


 獣人族が逃げてきた道順には、河川敷がとても狭い場所がある。

 魔術で山側を削らないのなら、何度も川を左右に渡らなければいけない。

 だけど川を渡るとなると、パソコンが水に濡れるのが恐怖だった。


 見た目の水深が浅いようでも、実際に渡ったら思っていた以上に深い事が、私の川遊び経験ではあった。


「少々の増水では壊れない、丈夫な橋を造って、お願い!」


 私の不安と恐怖、心からのお願が精霊や妖精に届いたのだと思う。

 精霊や妖精が、私の不安と恐怖の分だけじょうぶに造ってくれたのだと思う。


「な、信じられない、貴女様は神様なのですか?!」


 小説の資料用動画で見た石造りの沈下橋が、とんでもない道幅と岩の量で再現されていて、ドラック4台が並んで通れるような橋になっていた。


「ああ、女神様、私たち獣人族を御救いください!」


「私は女神様ではありません」


 そんな橋が、私たちが川を渡るたびに造られるのだから、合流した獣人族のお母さんたちが驚くのも仕方がないと、やった私自身が心底思っている。


 丘陵地帯を蛇行しながら流れる川を遡り、右手に現れた森に道路を造りながら獣人族の村を目指したけど、日暮れが近い時間になってしまった。


 このままライトを使って眠らずに獣人族の村を目指すのか、止まって夜営するのか、決断しなければいけないと思った時。


【誰かが来るわ、魔獣と思われる群れに追われている人たちが逃げて来るわ!】


 先行して偵察してくれていた、ドローンと着ぐるみ寝巻からの映像や音声から判断して、ロッテが私に教えてくれる。


「先行させられる戦力を全て出して、全員助けて」


【やれるだけの事をするわ】


 獣人族だけでなく、妖精族も被害がないように、心から祈る。

 お父さんが死んでから神様は信じなくなったけれど、この世界には精霊や妖精がいるので、日本の神様は祈る気になれないけれど、この世界の神様には祈る。


【だいじょうぶよ、山賊と農民兵を100ずつ送ったわ。

 ドローンと妖精族が確認した範囲では、死ぬようなケガ人はいないわ】


 ジリジリとした時間がとても長い。

 ロッテの言う事は信じているのだけど、不安と恐怖は無くならない。

 信じている事と、訳の分からない理不尽な不安と恐怖は別物だ。


【獣人族の盾となって壊される山賊と農民兵の布鎧はあるけれど、中に入っている私たちや妖精族は全員無事だから安心して。

 もう直ぐ獣人族が現れるわ、自分の目で無事を確かめられるわよ】


〖こっちよ、こっちに獣人族の仲間が助けに来ているわ〗


 私にもスピーカーから流れるヴィアの声が聞こえて来た。

 着ぐるみ寝巻や戦国武将鎧兜の中には、私や周りの人間と話せるように、スピーカーを仕込んだ個体がある。


「お母さんだ!」


 トラックから離れて乗用車の前を歩いていた、リスッ子の声が聞こえて来た。

 声の中に隠しきれない喜びが見えた。


 助けた母子の中に自分のお母さんや弟妹がいない事で、凄く落ち込んでいた。

 できるだけ表に出さないようにしていたけれど、隠しきれないでいた。

 その反動なのか、満面の笑みを浮かべて喜んでいる。


「私のお母さんだ!」


 ウサギっ子が喜びに飛び跳ねている。


「おかあさん、おかあさん、おかあさん、わぁああああん!」


 お母さんを見つけたリスっ子は、我慢できずに泣き出した。


「ぼくのお母さんがいない、ぼくのお母さんがいないよ!」

「僕のお母さんがいない!」

「私のお母さんもいない!」


 2人の狼っ子とパンダっ子のお母さんがいないようだ。


【まだです、戦えるお母さんは後ろを守りながら逃げています】


 そんな期待せせるような事を言ってだいじょうぶなの?

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る