第27話:道中

20××年5月3日(金):桃源郷キャンプ地から獣人村へ

            :幸徳井友子(かでいともこ)視点


「出発するよ、5人は私の車に乗って」


「「「「「うん!」」」」」


 私たちは、軽トレーラーを牽引する自動運転3レベルの乗用車と6人乗り2トントラックに分乗して、獣人の村に向かった。


 一刻を争う緊急状態なんだけど、速度は人の歩みと変わらない。

 桃源郷でも人が来ない辺境中の辺境なので、人が使う道など1つも無く、獣道しかないから、道を造りながらの行軍となる。


 ロッテたちが開拓してくれたキャンプ地は、かなりの広さになっている。

 自動車教習所が何十個も入るくらい広大だ。


 だけどそこからでると、まだススキの生い茂る原野だったり、縄文杉よりも太く高い大木が林立する大森林だったり、大きな石がゴロゴロする荒野だったりする。


 そんな所を車で行くなんて、普通は考えられない。

 だけど、ロッテたちがいなければ、私は何もできないから、自宅サーバーとなっているタワーパソコン6台を稼働させながら移動しないといけない。


 心配性なので、最初に言っていたより2台も増やしてしまった。

 2台の車の天井と荷台に太陽光パネルを設置し、予備も含めて6セット運ばないと、不安で獣人族を助けに行けない。


 食料や武器なんかは、私のストレージに入れておけばいいけれど、パソコンは稼働させて電波を送り続けないと、ロッテたちが動けない。


 タワーパソコンと太陽光パネルと蓄電池は常時外に出しておかないと、不意にロッテたちが動かなくなったら、不安で泣き叫んでしまうと思う。


 ただ、パソコンは凄く繊細な所があると聞いているから、私では安全に移動も設置もできないので、ロッテたちが危険の無いように設置してくれた。


 パソコンを運べるようになって、ロッテたちと一緒に行ける事になっても、そもそも車が通れる道がないとどうしようもない。


「すごい、すごい、すごい」

「草刈りが早い!」

「あっという間に大木が切り倒されていく!」


 だから、私は精霊や妖精にお願して道を造ってもらった。

 地面が安全な場所は、車の底を壊さない程度の凹凸の場所は、動物キャラクター着ぐるみ寝巻を装備した妖精たちが、草を刈り木々を伐採してくれた。


「こんな大木があったら、すごい家が建てられる」

「こんなに材木があったら、冬も温かく暮らせるのに」

「切り株を薪に使ったら、大木を全部家に使えるよ」


 伐採した大木を簡単に移動させるのにも驚いたけど、何より驚いたのは、まだ根が生きている切株を軽々と引っこ抜いた事だ。


 私だけでなく、子供たちも驚いて車の中ではしゃいでいる。

 とはいえ、先頭は自動車レベルの乗用車が走っているので、後続のトラックからは左右しか見えないけれど、それでも獣人族の子供たちは大はしゃぎだ。


「すごい、とんでもない、こんな事ができるんだ!」

「こんな大きな岩があったら、魔獣に入られない壁が造れるのに」


 何十トンもあるような、半ば以上が地面に埋まっている大岩を、土を柔らかくして掘り起こし移動させるような、とんでもない事を軽々とやってのける。


 精霊と妖精が手を組んで、魔術と身体を駆使して道を造ってくれた。

 地面が危険な場所、凹凸が激しい場所は、精霊と妖精が均して平らにしてくれるので、車の底をぶつける事も無い。


【便利になるけど、その分敵も押し寄せて来るわよ】


「覚悟しているわ、と言っても、精霊や妖精が守ってくれるのでしょう?

 何よりロッテたちがいてくれるわ」


【そう言ってくれるのはうれしいけれど、何万もの軍勢が押し寄せてきて、その全てを殺す事になったら、友子の心がもたないでしょう?】


「そうね、ロッテたちならどんな敵で叩きのめしてくれると思うけど、私の心はそれほど強くないと思う」


【そうは言っても、せっかく造った道を、元の原野や森林に戻すのは馬鹿らしいから、これまでのような塀ではなく、城壁を造ったらいいわ】

 

「敵意を持ったモノを通さないだけなら、簡単な塀でも十分なのよね?」


【ええ、鹿型の大型魔獣を通さないくらい強固な結界になっているわ】


「それをわざわざ城壁にする意味は何?」


【1番の理由は、心配性の友子が不安に思わないようにするためよ。

 2番目の理由は、汎人族が愚かだからよ。

 塀のような簡単なものだと、何か入れる方法がないか、何時までも探し続けるけれど、とんでもなく高く頑丈な城壁だと、あっさりあきらめるわ】


「現実的には、城壁を造るのと、簡単な塀を何十も重ねるのと、どちらの方が強固な結界になるの?」


【友子の魔力がある間は、簡単な塀を何十も重ねる方が強固ね。

 友子の魔力がなくなっても、精霊や妖精が助けてくれている間は、塀の方が強固だけど、友子も精霊も妖精もいなくなったら、後に残るのはただのススキ塀よ。

 いえ、ススキ塀も直ぐに朽ちてなくなってしまうわ】


「もし、私が日本に戻ってしまったら、どうなるの?」


【友子を慕って集まっていた精霊や妖精が散り散りになり、汎人族や魔獣に襲われて死に絶えてしまうかもしれないわ】


「そんな事言われたら、日本に戻れないじゃない!」


【ちょっと日本に戻るくらいなんでも無いわよ。

 二度と桃源郷に来なくなったらそうなるけど、定期的に来れば問題ないわ】


「定期的ってどれくらいなの?」


【そうね、最近はやっている二拠点生活?

 平日は都心で働いて、週末は環境の良い郊外で暮らす、みたいな】


「簡単に言ってくれるわね」


【友子は日本に、特に都内に住みたいの?】


「住みたい訳じゃないわ、ただ、もう食品の開発ができないと思っただけ」


【小説の執筆では情熱が続かない?】


「そんな事ないわよ、とても楽しくて、ずっと続けていたいわ。

 ただ、今買ってくれている人たちは、純粋に私の小説が好きなのではなく、不幸な私を支援するために買ってくれているだけだから……」


【誰かがレビューで激賞してくれたり、サイトがピックアップに取り上げてくれたりしたら、一時的に読者は増えるけど、小説が面白くないと去っていくよね?】


「ええ、そうね、いなくなっちゃうね」


【今回の支援買いも同じよ、人は移ろい易いから、読みもしない小説を長くは買ってくれないわ。

 でも、友子の小説を読んで面白いと思ってくれた人は、この後も友子の書いた小説を読んでくれるし買ってくれるわ。

 ファンが離れる事には慣れているよね?】


「言い難い厳しい事を、はっきりと言ってくれるわね!

 そうよ、スコッパーさんが取り上げてくれて、物凄く読者さんが増えた小説も、私が自分の世界に入り込み過ぎたせいで、見事に沈没しちゃったわよ!」


【それでも、挫けずに書き続けているのは、創作が好きだからでしょう?】


「ええ、そうね、好きだから続けられてると思うわ」


【なら今回も同じよ、少し規模と金額が大きくなっただけよ】


「軽く億を超える印税を少しなんて言えないわよ!

 でも、どれほど落ち込む事になっても、少々時間が掛かるかもしれないけど、必ず再開するわ、書くのを止める事はできないと思うわ」


【だったら、創作の拠点なんて日本でなくてもいいじゃない。

 友子はECサイトの電子書籍しか出していないから、出版社や書店と付き合う事もないし、買い出しする時だけ日本に行けばいいじゃない】


「確かに、桃源郷も悪くないし、卵、野菜、果物はもう自給自足できるし。

 米や麦も作れるんだよね?」


【まかせなさい、1年かけて作るなら私たちだけで十分だし、明日直ぐ新米を食べたいと言うなら、精霊や妖精が促成栽培してくれるわ】


「お肉は魔獣肉が十分美味しかったし、鶏肉も覚悟を決めたらあるし」


【鳥肉が食べたいのなら、無理に鶏をしめなくても、野鳥や魔鳥がいるよ】


「後は魚ね」


【魚も、鮒や鯉、モロコやウグイのような川魚で良ければ、右側に流れている川にいるけど、獲ってこようか?】


「今はいい、獣人族を助けてから、ゆっくりこの世界の食材を試す」


【友子のお爺さんやお婆さんは川魚が好きだったから、友子も川魚独特の臭みも気にならないと思うよ】


「だったら良いんだけど」


【もし苦手だったら、日本に戻った時に、比較的川魚の臭みがない、鮎、岩魚、山女、虹鱒、鰻、鯰、鰍、公魚、桜鱒、鯎の稚魚を買ってきて養殖する?】


「そんな事ができるの?」


【精霊や妖精に手伝ってもらったら、大きな池を造るくらい簡単だし、何なら川から水を引き込んで三日月湖を造る手もあるわよ】


「真剣に考えてみる」


【おしゃべりは終わりよ、また獣人族が追われているわ!】



 


 

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