第13話:教習所と農業

20××年4月24日(木):桃源郷

            :幸徳井友子視点


《オーライ、オーライ、オーライ、ストップ!》


 シュールだわ、キンキラの家康君甲冑が車の誘導をしてくれている。

 桃源郷を出て、廃村から近場の街に行くまでの悪路で事故らないように、雑草を刈った場所に印をつけて、運転の練習をしている。


 財閥の刺客を見つける為に買ったと思っていた、小型のカメラやモニターは、6人乗り2トントラックに付けて背後や左右を確認するための物だった。

 私が少しでも安全に運転できるように、トラックの各所に付けてくれた。


 私には、カメラやモニターをトラックに付ける知識も技術もないけれど、ロッテたちが甲冑を操って取り付けてくれた。

 徳川家康レプリカの等身大金陀美具足が万能過ぎて笑っちゃう!


 今も、私が運転の練習をしている合間に、草刈りや土作りをしてくれている。

 私の運転が上手くなったら、道の駅に作った農作物を卸すそうだ。


「ロッテ、別に農作物を売りに街に行かなくてもいいんじゃない?」


【そうね、無理に売らなくてもお金には困らないわね】


「だったら、運転の練習時間を減らしても良い?」


【いいわよ、小説を書きたいの?】


「うん、支援の為とはいえ、私の小説を買ってくれる人がいるんだもの。

 少しでも読んでもらえるなら、新しい小説を書いて出したいと思うのよ」


【そうよね、作り手だったら、そう思うわよね。

 でも、何かあれば、裁判所に出頭を命じられるわ。

 その時に、荒れた道路を怖がらずに運転できるように、1日1時間は運転の練習した方が良いわよ】


「教習所みたいに?」


【そうね、教習所みたいだね。

 でも、実際の運転だと、教習所くらいの技術では不足だわ。

 自動車部のフィギア部門のような、運転免許試験場の難所をさらに狭く難しくしたコースを、限りなく速く正確に運転できないと困るわよ】


「うっへぇ、やりたくないよぉ~」


【分かっているわ、自動運転3レベルの中古車を買うまでよ。

 1度廃村と悪路を抜けたら、後は狭いだけのきれいな道路になるわ。

 自動運転3レベルの中古車を買ったら、私たちが運転してあげる】


「分かった、やりたくないけどがんばる」


【次は種まきをしてもらうわ】


「えええええ、小説を書いて良いって言ったじゃない?」


【桃源郷で農業を体験したら、これまでは空想でしかなかった創作が、実体験を伴った創作になるわよ】


「……そうね、これまで空想でしかなかった、とんでもないチートが、実体験できるんだものね、やってみるわ」


 私はロッテの助言したがって、野菜の種だけでなく、果樹の種も植えた。


【ああ、そうだ、買った種や苗から直接収穫した物は売れるけれど、登録品種の種苗は、勝手に種芋にしたり接ぎ木して売ったら、違法になるわよ】


「だから売らないって、そんな面倒な事はしないよ、自分が食べる分で十分だから」


 そんな事を言い合いながら、水やりが便利な池の近くに畝を作って野菜の種をまき、その外側に果樹の種も植えていった。


 桃栗三年柿八年、梅はすいすい十三年、柚子の大馬鹿十八年、林檎にこにこ二十五年、銀杏のきちがい三十年、女房の不作は六十年、亭主の不作はこれまた一生。


 昔覚えた、果樹が収穫できるまでの年数を思い出した。

 どこまで本当かは分からないし、他のバージョンもたくさんあった。


 確かなのは、野菜と違って収穫まで数年、長い果樹で数十年かかる事だ。

 ロッテは裁判で必ず勝てると言っていたけれど、安全になるとは言っていない。


 専務や会長を実刑にできたとしても、高齢の会長が獄中死したとしても、逆恨みした財閥の連中が、しつこく狙ってくるのは間違いない。


 私はここで、桃源郷で暮らしていくことになるのだろう。

 小説を投稿する時と、桃源郷で手に入らない物を買う時だけ、日本に戻るのだ。

 ああ、忘れちゃいけない、父と祖父母のお墓参りは行きたい。


20××年4月25日(金):桃源郷

            :幸徳井友子視点


「何よこれ?!」


【昨日植えた野菜と果樹よ】


「どうして1日で実ってるのよ?!」


【ライトノベルのチートなら、良くある話じゃない。

 チートを体験してもらうために、種蒔きしてもらうと言っておいたでしょう?】


「いくらなんでも、1日で柚子や林檎が実るとは思わないわよ!

 野菜だって、普通より早く芽が出ても、1月くらいかかると思うわよ。

 20年かかるはずの果樹が、こんなに早く実るとまでは思わないわよ」


【それじゃチートにはならないわよ。

 収穫まで10年20年かかる果樹が、1日で収穫できるからこそ、チートなのよ。

 これで小説のチートを疑問なく書けるようになるわね】


「創造で書く方が書きやすいわよ!

 実際に体験したら、リアル過ぎて書くのが怖くなるわ」


【だったら書くのを止める?】


「……止めない、書く、これくらいチートでないと現実を忘れて物語を楽しめない」


【心が割り切れたのなら、ストレージのアプリを起動させて、収穫するわよ。

 収穫の実体験をした方が、小説を書く時に、何が難しいのか、身体のどこが疲れて痛むのか、リアルに書けるわよ】


「うっ、分かっているけど、筋肉痛は苦手なのよね。

 昨日の運転練習だけで、体中が筋肉痛なのよ」


 そう言ったけれど、本当に疲れるような事は何もしていない。

 やるのが億劫だった、トラックの荷下ろしは、徳川家康レプリカ甲冑姿のフェルたちがやってくれた。


 下ろすだけでなく、キャンプで使った大型のテントを10張も立てて、たくさんの荷物を使いやすく並べてくれた。

 私なんかより、ずっと美しく使いやすいレイアウトで並べてくれた。


【だったら今日はストレッチだけにして、収穫は家康君たちだけでやる?】


「自分が休んでいるのに、ロッテたちだけ働かせるのは嫌なのよね」


【友子が怠けている訳じゃないから、気にしなくていいよ。

 友子は小説を書くのが1番の仕事だし、楽しいんでしょう?】


「だから嫌なのよ、自分だけ好きな事をしているのが嫌なの」


【私たちだって好きな事をしているわよ】


「AIアシスタントは農業が好きなの?」


【私たちが好きなのは、友子の役に立つ事よ。

 農業でも商業でも護衛でも、友子の役に立つのが1番の幸せよ】


「……ロッテ……ありがとう」


【泣いてないで、さっさと小説の続きを書きなさい】


「泣いてなんていないわよ!」


【はい、はい、泣いてない泣いてない。

 早くテントに戻って小説の続きを書こうね】


「……やる、野菜と果物を収穫する」


【無理しなくていいわよ】


「無理してないもん、ロッテたちと一緒に収穫する」


【私たちは、同時にいくつものタスクをこなす事ができるのよ。

 農作業をすると同時に、ドローンでトンネルを見張っているし、友子が書いた小説を世界中の言語に翻訳しているわ。

 友子が何所で何をしていても、私たちは何時も直ぐ側にいるのよ】


「分かっているわ、でも今日は、家康君たちに入ったロッテたちと並んで、農作業をしたくなったの」

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