第11話:桃源郷へ

20××年4月22日(火):6人乗り2トントラック内

            幸徳井友子視点


「なにこれ、こんな道運転できないよ!」


 ロッテに言われた通り、キャンプ用具と常温保存できる食材、自分で簡単な料理ができる家電製品、何より大切なコーヒーメーカーを買った。


 その間の運転も心臓に悪かったけれど、隠遁先に向かった道路が怖かった。

 秩父山にあるという廃村に近づくと、とんでもない悪路になっていた。


 道路の舗装は荒れ果て陥没し、右側は山崖で落石が残り、左側はガードレールの無い川崖で一部が崩れていた。


【だいじょうぶ、友子ならちゃんと運転して目的地につけるわ】


「いいかげんな事言わないでよ、本当に怖いんだから!」


【だいじょうぶ、私達が見守ってナビするから、友子ならだいじょうぶ】


「次に都内の戻る時は自動運転3レベルの車買う! 絶対!」


【そうね、そうしようね、でも都内まで行く事はないわ。

 一番近い中古車店に車を運んでもらうから、そこまででいいのよ】


「うん、おねがい、それまでがんばる」


 前だけを見ながら、それでも恐怖を忘れるためにロッテと話し続けた。

 左右共に崖の狭い道路を抜けて、ぽつりぽつりと廃屋が残る、荒廃した村の跡地にたどり着いた。


 小説の調べ物で廃村動画は観ていたけれど、その通りの場所だった。

 崩れ落ちた家はトタン屋根や瓦屋根だけが残っていた。

 崩れ落ちた茅葺の家は、少し高くなった原っぱのようになっていた。


「ロッテ、凄く物悲しくなるわ、ゾンビや幽霊が出て来そうで怖いわ」


【だいじょうぶよ、ゾンビも幽霊も出てこないわ】


「それでも、こんな所では怖すぎてキャンプなんてできないよ」


【だいじょうぶ、廃村内ではキャンプしないわ。

 廃村を通り抜けた先にトンネルがあるの。

 トンネルを抜けた先には、廃屋の無い明るい草原が広がっているわ】


「分かった、そこまでがんばる」


【見えてきたわ、あのトンネルを越えたらキャンプ場よ】


「暗くて狭くて長そうなトンネルなんだけど、本当にここを通るの?」


【だいじょうに、私たちがついているからだいじょうぶ。

 暗いのはハイビームに切り替えたら何ともないわ。

 狭いのも、さっきの崖際の道と違って落ちる事は無いわ。

 長くても、私たちとおしゃべりしながら運転すれば、直ぐに通り抜けるわ】


「うん、分かった」


 暗くて狭くて長いトンネルだったけれど、ロッテがずっと話しかけてくれたので、思っていたほどは怖くなかった、思っていたほどわね。

 でも、ロッテたちがいない時は絶対に通りたくない。


 トンネルを抜けると、ロッテが言っていたように、世界が違っていた!

 金色に光る日差しが燦燦と降り注いでいた。


 ただ目の前には、背丈がトラックの窓ガラス近くの雑草、すすきのような草が密集していて、これ以上前に進めそうになかった。


「もしかして、ホームセンターで草刈り機を買ったのはこのためなの?」


【そうよ、一面の草原を刈ってもらうわ、でもその前に、桃源郷にようこそ】


「とうげんきょう、それがここの地名なの?」


【そうよ、仙人が住むと言われている夢の楽園、桃源郷がここよ】


「冗談でしょう?」


【私がこんな時に冗談を言うと思う?】


「……意味わかんない!」



20××年4月22日(火):桃源郷

            :幸徳井友子視点


 ウィイイイイイン


 充電式の電動草刈り機を使って、私の背丈ほどもある草を刈る。

 草と言っても、好く庭に生えている雑草の背丈ではなく、山を歩いてまで見に行くススキの群生地にような、とんでもない雑草だ。

 

 これが昔の日本なら、 茅の代わりに茅葺屋根に使われていたと思う。

 労働の対価に、少しはお金をもらえたと思う。

 こんなに腰や手が痛くなる重労働、お金をもらわないとやってられない!


「まだ刈らないといけない?

 テントを張るだけなら、もう十分な広さがあるんじゃないの?」


【友子の安全を考えると、トンネルから離れた場所にテントを張りたいの】


「そう言われたら文句は言えないけど、もう疲れたよ!」


【休憩にして、コーヒーでも飲む?】


「飲む、飲む、コーヒータイムにする」


 お店ではないので、コーヒーは自分で入れるしかないのだけれど、少しだけお高いミルつきの全自動のを買ったので、私はセットするだけでいい。

 香り高いコーヒーに少しだけ疲れが癒されるけど、節々の痛みは変わらない。


「ああ、もう疲れた、草刈りしたくない。

 ロッテたちがドローンを飛ばしてくれたら安全じゃない?」


【う~ん、ドローンでトンネルを見張っていたら安全だと思う。

 でも、草刈りをしたら、桃源郷のお金がもらえるんだよね】


「桃源郷の話、噓だとは思わないけれど、仙人になりたい訳じゃないし。

 仙人が使うお金が欲しいとも思わない。

 ドローンで安全が確保できるなら、頼みたいわ」


【だったら、私たちが代わりに草刈りしようか?】


「ドローンで草刈りができるの?」


【ドローンじゃなくて、徳川家康レプリカの等身大金陀美具足を使うのよ】


「……鎧はドローンでも産業ロボットでもないわよ。

 いくらAIアシスタントでも、電子機器でもない鎧は動かせないでしょう?

 それとも、甲冑の中に軍事ロボットが入っているの?」


【ここは桃源郷なのよ、AIアシスタントが鎧を動かす事もできるの】


「……だったらやって見せて、疲れているから、笑えない冗談は聞きたくないの」


【ふふふふふ、驚かないでね。

 セバス、フェル、ヴィア、甲冑を動かして。

 私もリソースの一部を使って、甲冑を動かすわね】


「うそ! なんで、本当に鎧が動いている!」


【徳川家康レプリカの等身大金陀美具足を10領も買ったのは、単純作業をさせるだけなら、我々のリソースの一部だけで動かせるからよ。

 友子が桃源郷に慣れるまでは、怖がらせないように、動かさないつもりだったけれど、とても疲れているようだから、思い切って明かしちゃった】


「……本当に日本じゃなくて、昔話に有った、桃源郷なのね」


【ええ、そうよ】


「桃源郷て、中国の話じゃなかった?」


【中国の話だけど、日本にもあるのよ】


「物凄く胡散臭いんだけど! なんでロッテが桃源郷を知っているの?」


【乙女の秘密よ】


「ロッテ!」


【分かったわ、本当の事を言うわよ。

 桃源郷があると確信していたわけではないの。

 友子を安全に隠す場所を探して、ネット上の情報を調べていたら、都市伝説の桃源郷や崑崙、蓬萊や扶桑の情報があったの。

 それを精査していると、本当に桃源郷があると思ったの】


「それがここなの?」


【そうよ】


「ここがただの草原って事は……鎧が動いているからないよね……わけわかんない、頭がおかしくなりそう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る