第8話:襲撃

20××年4月20日(日):逆さ富士が見える湖畔のキャンピング場

          :幸徳井友子視点


【いよいよ始まりましたね】


 女性友人人格のAIアシスタント、ロッテが話しかけてきた。

 昨日佐々弁護士が、私の代理人として被害届と告訴状を出してくれた。

 同時に、あらゆるマスコミを集めて記者会見もしてくれた。


 これで、大財閥の繁光一族であろうと、悪事を隠蔽できなくなった。

 これまで連絡した事はないが、前社長も弟の一族を追い落とそうと動く。

 検察も警察も、面目を潰されないように全力で動く、と思う。


 少なくともロッテたちは、あらゆる勢力が動くと言ってくれている。

 逆恨みした繁光一族から襲われないように、住所を知られているマンションからキャンプ場に逃がしてくれた、文句を言ってごめんなさい。


「そうね、しばらく逆恨みが怖いけれど、始まったわね」


【友子の安全には全力を注いでいるから、安心して】


「うん、ロッテたちを信じているわ。

 さっきから、小型のドローンをキャンプ場中に飛ばしているのは、襲撃者を事前に知るためなんだよね?」


【そうよ、襲撃を前もって知る事ができたら、逃げる事はもちろ、襲撃者を取り押さえて、動かぬ証拠にする事もできるわ】


「襲撃者を取り押さえるなんて、聞いてないよ、私にそんな力はないわよ!

 実体のないロッテたちにも無理でしょう?」


【このキャンプ場の管理者は、空手の有段者で、今も身体を鍛えているの。

 今日キャンプに来ているお客さんの中には、大学の少林寺拳法部の団代がいるから、痴漢だと叫べば助けに来てくれるわ】


「そこまで調べて、このキャンプ場を予約してくれたの?!」


【当然よ、私たちは友子の安全を最優先にして動いているの】


「ありがとう、みんなの御陰で生きていられるわ」


【そんな辛気臭い事言わないで、明るく創作してよ】


「そうね、目覚めの朝食は食べたし、執筆を再開するわ」


【私たちは周囲を警戒しているけれど、リソースの半分はこちらに振っているから、何かあれば直ぐに声をかけてね】


 スマホにいるロッテが力強く請け負ってくれた。


「ええ、そうさせてもらうわ」


 ロッテ、セバス、フェル、ヴィアの4人の御陰で、安心して暮らせる。

 4台のドローンが、空中から警戒してくれているので、不安が軽くなる。

 多くの家族連れがいるキャンプ場なので、安心感もある。


 安全なマンション内での一人暮らしも良いけれど、キャンプ場も悪くない。

 心からそう思えるとは、昨日まで想像もしていなかった。


 到着して直ぐに、途中のスーパーで買った、パウチ式のレトルト食品を温めた昼食を食べたけれど、とても美味しかった。


 最短の物でも180日間、最長の物だと365日も常温保存できるから、繁光一族から隠れて暮らすには最適な食材だった。


 不味いと嫌気がさすのでしょうが、結構美味しかったので安心した。

 問題はもっと長く保存できる缶詰の方。

 保存期間が長くなるほど不味くなる聞いたけれど……どうなんだろう?


 少なくとも昨日の昼に食べたレトルトのカレーとご飯、1日に必要な食物繊維の1/2が食べられる、温野菜はとても美味しかった。

 

 晩御飯に食べたレトルトの塩サバと白御飯、筑前煮ときんぴらごぼうもとても美味しかったし、恥ずかしいくらい熟睡できた。


 フェルの指示通りに組み立てた、8人から12人用の大型テントは、ソロキャンプには大きすぎると思ったけれど、大きい分色々置けて良かった。


 小説を執筆するのに、小机とイスを入れても圧迫感がなかったし、ドローンを充電するための蓄電池と太陽光パネルも、余裕で入れる事ができた。


【友子、もうお昼よ、ご飯の準備をして】


「今日は昼ご飯抜くから良い」


【ダメよ、絶対に駄目、三食時間通りに食べないと身体に悪いわ。

 何より、襲撃を受けたら次のご飯を食べられない可能性もあるのよ。

 食べられる時にちゃんと食べて】


「分かったわ、そんな事を言われたら食事は抜けないね」


 ロッテに痛い所を突かれたので、執筆に乗っていた所なのに、手を止めて食事の準備をしなければいけなくなった。


 準備と言っても、お湯を沸かしてレトルトのパウチを温めるだけなのだけれど、それでも面倒だと思ってしまう私は、女子力が低いのかもしれない。

 

 ただコーヒーだけは、インスタントではなくドリップ式の少し香りの良い物を、食後にゆっくりと飲んだ。


 執筆の途中に飲むのはインスタントで十分なのだけれど、食後はドリップ式を飲まないと満足できない。


 家にいる時は、安いコーヒーメーカーだけれど、お気に入りのレギュラーコーヒーを楽しむようにしている。


 果物のような爽やかな酸味と甘み、ワインを思わせるような風味、苦味とバランスが取れたコク、複雑で香り豊かな味わいが大好きなモカを楽しんでいる。

 特に酸味と甘い香りが強調される浅煎りのモカが大好き。


 こんな充電器や太陽光パネルまで用意しているなら、コーヒーメーカーとコーヒー豆も持ってくればよかった。


【友子、もう良い時間よ、晩御飯の準備をして】


「え、本当だ、すっかり暗くなっているわね」


【今日の創作はこれくらいにして、早めに寝た方が良いわ。

 敵が襲って来るとしたら、他のキャンプ客が寝静まった時間になるわ。

 その頃に起きて、創作を再開すれば良いわ】


「ロッテの言う通りね、食べて直ぐに寝るわ」


 お昼ご飯がブリ大根と白御飯、肉じゃがと温野菜サラダだったので、晩御飯はハンバーグデミグラスソースと白御飯、ごろっと野菜の塩こうじ煮にした。


 お腹が一杯になって、少し眠くなった。

 若い友人同士だけでなく、家族連れも楽しく騒いでいるから、なかなか寝付けないかと思ったのだけれど……


「「「「「ビィ―、ビィー、ビィー、ビィー、ビィー」」」」」


「なにごと?!」


⁅人殺しがキャンプ場に現れました、女子供はテントから出ないでください。

 繰り返します、人殺しがキャンプ場に現れました、女子供はテントから出ないでください⁆


【財閥の刺客が襲って来たわ】


 とんでもなく騒がしい音に飛び起きて直ぐに、常時起動させているスマホからロッテの声が聞こえて来た。


 そこら中からセバスが警告する声が聞こえてくる。

 これが以前言っていた、全国瞬時警報システムを利用した撃退策なのね。


「どこ、どこに逃げたらいいの?!」


【逃げなくても大丈夫よ、キャンプ場中の電子機器をハッキングして騒いだから、刺客も友子を襲う余裕などないわ】


「そう、良かった、助かったのね。

 捕まえられなかったのは残念だけど、無事が一番よね」


【何を言っているの、私達が友子を狙う奴を見逃す訳ないじゃない。

 迎撃用の大型ドローンで体当たりして、両足の膝を粉砕してやったわよ】


「ええええええ!」


【これでまた、動かぬ証拠が手に入ったわ】

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