第12話「揺らぐ確信」

「――やはり、あなたは使えるのですね。闇魔法も。」


 アリシアの心臓が跳ねる。


 ぎゅ、と胸の奥が強く締め付けられた。


 そんなアリシアの表情を見て、ルシアスはふふっと笑い、


「冗談です」


 と流すように言った。


 だが嫌なざわつきだけが胸に残る。

(闇魔法を使ったこと、バレてた……? 視界は封じたはず。なのに。もしバレてたなら――魔族との関係まで疑われてる……?)


 考えれば考えるほど、思考は悪い方向へ転がる。

 その最中――ふと別の疑念が浮かんだ。


(……貴方“は”、闇魔法“も”…?)


 小さな疑問は、やがて大きな確信へ繋がる。

(待って。どうして水晶が割れた時、“もしや”と思う候補の中に私が出てくるの?

 私が目覚めたことを知っていたのはアルマだけ。

 アンクさんも王都の方々も、気づいてなかったはず)


 アリシアは昨日からの流れをなぞる。

 目覚めたその日に王都へ向かい、試験はその翌日。

 情報が王都へ届いているはずがない。


(なのにどうしてルシアスさんは――)


 アリシアの疑問が言葉になる頃、ルシアスは前へ歩き出そうとしていた。


「ルシアスさん。本当はいつから知っていたんですか? 私のこと」


 ぴたりと歩みが止まり、目だけが後ろのアリシアを捉える。


「なんですか? 急に。……先程もお伝えしたように、貴方が水晶を割った時――」


「そこです」


 アリシアが割って入る。


「なぜ私が目覚めたことを、すでに知っていたように話したのですか?」


 短い沈黙が落ちた。


「普通であれば、私だと思う可能性はあっても――“まさか”と疑う段階のはずです。

 けれどあなたは、水晶が割れた瞬間にもしやと感じ、さらに先ほど“やはり”と言った。

 あれは予想ではなく、確信に近い口ぶりでした。


 八十年前の存在であるはずの私が、どうしてあなたの候補に最初から上がったのですか?」


 ルシアスは短く息を吐き、視線を前へ戻した。


「……あなたは、魔法だけでなく頭も切れるんですね。

 “もしや”と“やはり”――そのわずかな言い回しだけで、ここまで辿り着くとは」


 一拍置き、空を仰ぐルシアス。


「教えて貰ったんですよ。あなたがそろそろお目覚めになる頃だと」


 アリシアは言葉を失う。


(……私のことを聞いた?)


(誰から?)


(どうして私の目覚めるタイミングが分かったの?)


「それを聞いたのは一昨日。そして昨日――あなたが水晶を割った。

 少し早いとは思いましたが、そこであなたを予感するのは自然なことでしょう?」


 アリシアの胸に、再び疑問が渦巻いた。


 そんな表情を見て、ルシアスはふっと笑い、


「そんな心配をされずとも、いずれ全て分かりますよ。

 ……それより今は、生徒の成長のために、力を貸してください」


 アリシアは息を整え、胸の奥の波を押し殺す。


「……わかりました。取り乱してすみません」


「えぇ。ではこれから学院校舎や生徒達の元へ案内致します」


 二人は並んで再び歩き出した。

 だがアリシアの胸には、冷たい疑念がかすかに残り続けていた。

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