第5話「未知の魔力」
「えっ……いいんですか!? ……じゃあ、お願いします!」
アリシアが勢いよく頭を下げると、男はにかっと笑い、手を差し出した。
「おう! 改めて、アンク・ルドルフだ。」
アリシアは一瞬きょとんとしたあと、嬉しそうにその手を握り返す。
「アリシアと申します。よろしくお願いします!」
二人は並んで歩き出す。
柔らかな陽光の下、王都へ続く山道をゆっくりと下っていく。
アンクが、ふと思い出したように口を開いた。
「嬢ちゃんは、魔法はどれくらい使えるんだ?」
「程々、といったところでしょうか」
「そうか……。いやな、今ルミナリアで問題になってることの多くは魔法に関することばっかみたいでよ。まぁ、一つはさっきの魔物の件だな。変な魔力を纏う異常な強化、王都でも手を焼いてるらしい。宮廷魔導師達が必死になって原因を探ってる」
アリシアはこくんと頷いた。
「そうですね。確かに先程のような魔物が発生し、民が襲われたとなれば……無事では済まないでしょうし……」
「あぁ。それに俺ら――魔物を狩って生計を立てるデーモンスレイヤーにとっちゃ死活問題なんだよ。狩った数がそのまま金になるからな」
「……そうですね」
アリシアは「うんうん」と頷きながら、ふと唇のあたりに指を添えて、何かを思い出したように視線を落とした。
「さっきのフェラルハウンド……。ただ異質な魔力を纏っているだけじゃなく、何かこう……すごい変な感じがしました」
「変? そりゃまた随分と曖昧な回答だな」
アンクは“はっはっは!”と豪快に笑う。
「俺だってわかるぞ、変なことくらい。狼狩るつもりで来たのに、いきなりバカデカライオン狩る覚悟を決めなきゃいけなくなるんだからな」
その愉快な言い方に釣られ、アリシアも思わず「ふふっ」と笑った。
「そうですね……。でもあの魔物を変だと感じたのは見た目もそうなのですが、魔力のことなんです。纏う魔力ではなく、もっと根本的な……」
「嬢ちゃんが感じたっていう異質な魔力ってのと、別にか?」
「はい。魔力というのは基本、炎、水、風、土、雷の五大元素からなります。しかし、それらを組み合わせて特殊な属性を生み出すことも可能です。
それぞれ、基本元素そのままの魔力を純魔力。二つ以上を合わせた魔力を混合魔力と呼びます。ですが、どのように組み合わせても元の五つの元素が変わることはありません。
……しかし、あの魔物から感じた異変。異質な魔力はそうなのですが、それに変化するまでの“過程”に違和感を感じました」
「おいおい、さっぱり分かんねぇぞ、嬢ちゃん。もっとこう、ガキでも理解できるように頼むよ。魔力については一ミリも分かんねぇんだ」
「ごめんなさい……! その……あの魔物から感じた魔力は、五つの基本属性の魔力とは似ても似つかないものでした。
水と風で氷、炎と風で嵐や竜巻、土と雷で磁力……といったように、どれかを組み合わせて別の属性になることはあっても、元は基本元素のどれかに属する形になります。
しかし、あの異質な魔力はそのどれも感じられなかったんです。
変化する前のフェラルハウンドは、魔物などの特殊な生物が持つことが多いとされる――闇属性でした」
「その、五つの属性? ってのと、合わせるとすげぇってのは分かったが……闇ってのは、何と何の組み合わせなんだ?」
「いえ。闇は純魔力に属します。五つの基本元素とは別に、光、闇といった元素も存在します。この二つの属性は使える種族が少数なことから、あまり知られていないため……今回の説明では省いてしまいました。ごめんなさい……」
「そうだったのか。光と闇ってのもあるんだな。……まぁ、こっちは教えてもらってるだけありがてぇから大丈夫だ、気にすんな。
……で、元の属性が闇だったなら、その後はどう変わったんだ?」
「ありがとうございます……。はい。問題はそこにあります。
闇の魔力から異質な魔力へと変化したのですが、変化の過程を感知してなお……どのように変化したのかが、全く分かりませんでした」
アンクは思わず眉をひそめた。
「感知しても分からねぇってのは、どういうことなんだ? どう変わっても変わらねぇ元があんなら、何と何がくっついたのか分からねぇもんなのか? しかもひとつが闇って分かってるなら尚更だろ」
「……分かりませんでした。感知できたのは……闇の魔力が、何か邪悪な力に押し潰され、破壊されていくような様子でした。
そして――変化したフェラルハウンドからは、闇の魔力が一切、感知できなかったんです。消えてしまっていました」
アンクは背筋をわずかに震わせた。
「なんか……やばくねぇか? それ……聞いてるだけで恐ろしいな。嫌な感じだ」
「はい。ただ一つ言えることは……あの異質な魔力の正体は、基本元素のどれにも属さない上、純魔力そのものを破壊してしまう――未知の魔力だということです」
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