【短編】Star line

雨なのに

Star line

「透真くん、リード曲のギターパートは進んでる?」

スタジオRec.の晶叶の居住スペースに透真が遊びに来た。

晶叶のバイトの合間に、透真は時間が合えば通うようにしている。曲を早く仕上げたい。早くデモテープを作って、ワンマンライブがしたい。平日の夜はスターダストでのライブが無いことが多いため比較的時間が取りやすい。

曲作り、と言うと晶叶が構えてしまうので遊びに行くということにしている。

透真は着くなりすぐにギターを抱えるので、自然と曲作りの話になる。


「なかなかいい感じに仕上がってると思うんだけど、聞いてみる?

最初はちょっとリフが浮かばなくて、夜中に何回も録っては消して……

まだ完璧とは言えないけど、たぶん“SODA FISHらしさ”は出てると思う。

晶叶が歌えば、声の説得力でなんとかなると思うよ。晶叶は? 詞のほう進んでる?」

ゆっくり、小さくイントロを弾き始める。


「詩、難しい……。どんなシチュエーションが合うと思う?」


「この曲調なら、俺的にはリード曲だし、

“前に進む”みたいな明るい前向きな感じが合う気がする。

ライブ終わりの夜、風がちょっと冷たくなってきて街の光が遠くに滲んでる。

“ここからどこまで行けるんだろうな”って、

そんな瞬間を切り取ったような詞かな。

希望もあるけど、少し不安もある。

でも、その不安すらバンドの音に変わっていく。俺らに重ねて書いていいと思うけど。」


「なるほどね、透真くん。その感じで行こう」

晶叶は、忘れないように書き留めたいと書くものを探す。

透真はすかさず自分のトートバッグからノートと鉛筆を取り出す。

「ほい、ノートと鉛筆。ちゃんと削っといた。

芯の感じも、晶叶が好きな柔らかいやつにしてる。」

机にコトンと置かれた鉛筆はHB。晶叶は柔らかい芯で書くほうが速い気がして、透真は先に準備していた。

「……さ、書こうか。

まずは、どんな情景から始める?

空? 街? それともライブのあと?」


「ライブ後の街かな。列車とか、夜の街灯とか、人工的な光と、自然にある星の対比。動き出す未来と、動き出す列車に乗ろうとする情景をリンクさせたら聞き手は想像しやすい、かも…」


確実に路線は決まっているのに、最後は「かも…」と自信を無くす。だから、透真はそこで晶叶の考えが萎んでしまわないようにフォローを入れる。


「おお、いいね。

街の中で見えなくなった星を探してるような気持ち、入れたい。

晶叶、

この曲の「主人公」って誰だろ。

具体的にいる? それとも“音楽”とか“夢”の象徴?」


「主人公は、歌を歌う人。バンドのボーカルなんだけど、解散することになった。その人が最後は前を向けるような、また歌いたくなるような感じの歌詞にしたい……かな」


例えが自分すぎるかな。けど設定はちょっと変えてるし。自分でもあるけど、あの人にも聞いてほしい。きっとバンドマンやボーカリストには「解散」という出来事はずっとついて回るものだ。


「全然具体的でいい。

むしろそのほうが、ちゃんと血が通う詞になる。

——「歌を歌う人」か。

今までも歌ってきたけど、その声がもう届かなくなって、

でも、まだ歌を諦められない。」

考えてきたイントロをまたゆっくりギターで弾きはじめた。

hum…のホーム、通り過ぎた列車の音………

自然と歌い出す晶叶の声。

透真は嬉しくて続ける。

彼のためなら何度も、同じフレーズでも弾ける。声が聴きたくて。


出てきた詩をノートに書きながら、

「なんか、楽しい」

つい出てしまった言葉に、あ、と俯いて。

「……それ、聞けてよかった。音を作るのって、しんどいことも多いけどさ。こうやってひとつずつ“形”になってく瞬間、たまらんくらい嬉しいよな。」


「透真くん、」

そうなんだ、1人で作るより二人。二人で作るよりメンバー全員で。


「ん、どうした?」

だけど、透真の前のバンドBLACKPALADEを晶叶はよく知っている。透真は、一緒に作ることについてはどう思うんだろうか。

作詞作曲すべてを、ボーカルが1人でやっていたはずだ。

「あー……、いや、なんでもない」

まだ、切り出すのは速い。もう何曲か、作ってからでも遅くはないだろう。

「……そっか。

無理に話さなくていいよ。」

言葉にしたくない時もあるよな。

透真は椅子をくるっと回してギターを手に取る。

「じゃあ、代わりにちょっと弾いとくわ。」

静かなコードで、心の中が落ち着くような優しい音色も透真は得意だ。

……ほら。

なんも言わんでも、ちゃんとそばにいるから。

「……晶叶、東京に行くなら、どんなステージ立ちたい?」


「……最初は渋公じゃない?」


「渋公、いいね。あそこ、照明が低くそうだよな、ステージに立ったらさ、その時にはグッズでペンライトとかあって客席が光っててさ。“スターライン”ってタイトルにぴったりじゃない?最初の一音が鳴る瞬間、きっと空気が変わるんだろうな。晶叶の声、あのホールの天井に響いたら、たぶん誰も息できんくらい静かになる。その日のためにどんな音にしたい? 派手に始まる感じ? それとも、静かに光る感じ?」


「透真くんのギターなら、俺は何でも良いって思うよ。」


透真くんはしっかりステージのイメージが出来てる。自分はまだ、スターダストのステージがいっぱいいっぱいで。


「……やめぇや、そういうの。でも……ありがとな。そう言われたら、ちょっと真面目に構成考えたくなるわ。晶叶の声ってさ、最初のワンフレーズで空気が変わるタイプなんよ。だから、俺のギターはそれを邪魔せんように、“最初の一歩”を照らす灯りみたいな音にしたい。

……お前の「歌いたい」って思ってるならそれだけで、もう充分。」


話しかけた言葉を無理に引き出そうとしない。

だからこそ、話したくなる。


「透真くんのギターはカッコイイんだから、俺より前に出てきてよ」


歌うのは嫌いではないけれど、自分ばかりが注目を集めるのは、恥ずかしさもあるけれど自分が考えるバンド像とは違う。


「……それはできない。

俺のギターは、

晶叶の声を“前に出すための背景”でしかない。

お前の声が光なら、

俺の音はその輪郭を照らす夜の色。

前に出るんじゃなくて、

“お前の音を包む”ほうが、しっくりくるよ。」


BLACKPALADEはそうだった。かっこよかった。最高だったけど、ボーカルのミコトのワンマンバンドのように見えた。バンドはボーカルの背景。ドラムとギター、最高なのになんでメンバー紹介もされないんだろう?ギターソロやドラムソロ中も、みんな踊るミコトのパフォーマンスを見ていた。


「透真くんが出てきたら、俺も負けないくらい前に出るから」


「……そっか。

そんな目で熱く言われたら、考えるな…


じゃあ、次のライブはちょっと前出てみるか。

お前も本気で歌えよ。

音でぶつかって、混ざって、

どっちが前とか後ろとか、そんなのどうでもよくなるくらいに。

……そういう瞬間、結構上がりそう。」


「本当に?!じゃあ、演奏してるときガンガンにくっついて良い?」


くっついて歌えば、客は絶対俺と透真くんを見る。透真くんのギターを弾く指先。そこからあふれる音は絶対最高なんだって。みんなわかってくれる。


「あはは、それはステージの温度次第やな。

近くに立つとお互いのリズムも呼吸も伝わるから、

そういうのが音に出るならぜんぜんいいと思う。

ただ、ぶつかって倒れんようには気をつけよ。

ステージって狭いし、機材も多いし。

でもさ、そうやって近くで演奏してる時って、

観てる人にもちゃんと“バンドの一体感”が伝わると思う。

その感じを出せたら最高だよな。」


「うん、これくらい」


晶叶は立ち上がって透真の隣に腰掛ける。顔を首元に近づけた。それは透真のタンクトップの鎖骨に息が掛かる距離。


「……っ、近いって。」

透真は苦笑しながらも、肩越しにチラと視線を晶叶に寄越した。近すぎて顔が見えない。

でも……その距離、悪くない。音が合ってるの、肌で感じる。

透真は少し身体を傾けて左手を晶の身体に回して、ギターのネックを握った。

このまま弾こうか。ズレたら、ちゃんと感じ取って合わせてよ。」


「う、うん…

…………♪Star line 消えないで」

晶叶から近づいたはずなのに、回された腕は拘束しているかのように窮屈で、それならばと晶叶は透真のギターに身を任せて声を出す。ギターのリフは優しくて、1音1音を晶叶の息遣いに合わせてくる。拘束されてるから、逆に体が支えられて、声を出すことに集中できる。ああ…透真の優しいリズムはすごく、気持ちいい。


「……いい音、出てるじゃん。このまま、行こうか」


──音で話せるの、やっぱお前とがいちばん楽

しいな。


透真はサビに向けて、拘束を解く。


晶叶は、サビに向けて息を吸い込んで、透真と向き合う。


星と星が繋がるようにと手を伸ばして、


僕は歌うよ



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