第16話 暗闇の目
江守はただちに、付き合いのあるサイバーインテリジェンス会社へ調査を依頼した。
彼らはダークウェブを専門に監視する“目”を持つプロ集団。数時間後、江守のもとに届いたレポートの件名を見た瞬間、彼の胸に冷たい重みがのしかかった。
「東移システム関連情報に関する取引確認」
添付ファイルを開くと、そこには黒い背景に浮かぶ取引掲示板のスクリーンショットが映し出されていた。
『2025年最新版 東移システム主要取引先リスト』
そう銘打たれた出品ページ。売り手は「担当者名、連絡先、過去の取引概要を含む」と自信ありげに書き込んでいる。
江守の眉がぴくりと動いた。さらに詳細を読み込むと、リストの一部に「太陽化学プロジェクト関連」のファイル名が確認されていた。
「……やはりか」
静かな声で呟いた。
太陽化学――東移システムが外注している協力会社。大規模なシステム部門など持たず、データ入力や簡単な処理を担当する小規模企業。セキュリティレベルは当然低い。
江守の推測は確信へと変わった。
「顧客データの流出源は、太陽化学……」
報告を受け取った営業部員たちは顔を青ざめる。
「つまり……うちが守るべき顧客情報が、外注先から盗まれたってことか」
「しかもそれが、闇市場で売られている……?」
言葉にした瞬間、空気は重く沈んだ。
江守は椅子の背に深くもたれ、瞼を閉じる。
最先端の攻撃ではない。華麗なハッキングでもない。
ただの一枚の紙切れの隙から、大企業の信用が崩れかけていた。
(犯人を突き止める……必ず)
江守の目が再び鋭く光る。冷静さの奥底で、怒りが熱を帯びていた。
<つづく>
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