第27話

「ねえ、あなた」


なんだ、なぜ俺は美少女に詰められているのだろうか。

いつものスタジオ、いつも通りの練習だったはずだ。


美少女は俺たちとは別の学校の制服を着ている。

確かこの辺りでは有名な、お嬢様たちが通う女学院だったはずだ。

そんな学校の人と絡む機会などない。まったくもって意味がわからない。


思い当たる節はない、しかし気付かずに何か粗相をしてしまったのだろうか?

そうならば誠心誠意、謝らねばなるまい。


「ほんとーに申し訳ありませんでしたー!」


灯火、未来、天音が、残念な子を見るような目で俺を見てくる。

「雪兎、あんた」

「雪兎センパイ」

「ゆ、ゆきとさん、まさか……」


天音さん!?……まさかって何よ?


「……はぁ?」

美少女はゴミムシを見るような目で俺のことを見ている。


「ではなくて。あなた、特別に私があなたと組んで差し上げます」

美少女は、いきなり訳の分からないことを言い放った。


ん?どういうことだ、考えても何も分からない。

そもそもこの子は誰なんだ?全く記憶にない。


「特別に私が一緒に、バンドをしてあげると言っているのです」


「……いや、間に合ってます」


美少女の顔が赤く染まる、冷静な顔をしているが、内心怒り出しそうな顔をしている。


いや、バンドに加わるとしても、もうメンバーは十分だ。

まあ欲をいえばキーボード、サイドギターなどあってもいいかもしれないが。

この美少女がバンドに加わるのはバンドの空気を壊しかねない。

丁重にお断りしなければならないだろう。


「あの、気持ちは嬉しいんですが、今は特にメンバーも募集していないですし」

と正直に美少女に伝える。



「すみませんね、ご迷惑をお掛けしまして」

すると隣にいた、いかにも生徒会長?といった雰囲気の女性が説明してくれる。


「この子ったら、先日の高槻フェスを見てから興奮しっぱなしで」

「自分も一緒にやるんだって聞かないんですよ」


美少女が高らかに宣言する。

「と、に、か、く、これは決定事項なのです。あなたに拒否権はありません」


まあうちのバンドを高く買ってくれているのは正直に嬉しいのだが。

といっても、いきなり出てきたこの美少女とバンドを組むというイメージが全くわかなかった。

言うときははっきりというしかないだろう。


「と、言われてもだな、俺は君のことは何も知らないし」

「はい、やりましょうとは言えないよ」


「ふふっ、私の実力をなめないでくださいますか」

美少女は諦めない。というか話を聞いてくれない。


「私の実力をみせてあげます。今週の土曜日とかいいわね、スタジオは押さえておくわ」


あ、土曜日バイトだ。

「すみません、土曜日はバイトなので無理です」


「なら日曜日よ」


「日曜日もバイトです」


最近、バイトの子が一人辞めてしまったらしく、

どうしても多く入ってほしいと頼まれたため、俺はバイトの日数を増やしていたのだ。


「だったらいつが空いているのかしら?」


笑顔で話しているが、これ怒ってるやつだ。

いや、俺は悪くない、はずだ。だってバイトなんですもの。お金を稼ぐのは大事。

そう、お金がないとスタジオにも行けない。


「そう言われても予定がなかなか空いてなくて」

「……再来週の日曜日なら空いてますね」


「じゃあそこでいいわ、スタジオ予約しておいてちょうだい」


え、俺が予約するの?……まあいいか。


「はいはい、了解しましたよっと」


「ではこれが連絡先です、くれぐれも悪用しないように、失礼いたします」


そう言い放って美少女と生徒会長?は去っていった。

あ、名前も聞いてねーや。と思い、もらった連絡先のIDを検索してみる。


沙耶さや……、うんうん名前は沙耶と。

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