第10話
「ユキ、見てもらいたいものがあるの」
それは昔俺が大好きだった映像、俺がバンドをやることになったきっかけの映像。
そこには楽しそうに演奏するバンドが映っていた。
ギターは日和さんだ、歌いながら楽しそうに思い切りギターをかき鳴らしている。
ベースとドラム……、どこか懐かしいような、どことなく俺に似ている気がする。
「バンド名はね、スノー・ラビット(雪兎)」
「ベースを弾いているのは、天宮幸成、あなたのお父さん」
「ドラムは私の姉さん、天宮あかり、あなたのお母さんだよ」
うすうすは分かっていた、この映像でギターを弾いているのは日和さんだ。
そして日和さんが一緒にバンドをするメンバー、そういうことなんだろうと。
日和さんが昔を思い出しながら、話しだす。
「二人に子供ができたって聞いたとき、本当にうれしかった」
「まだ出来たって分かったばかりなのに、名前を考えたりバンドするなら何のパートをやらせようかって」
「幸成さんは赤ちゃんの時からベースを持たせるんだって、でも家族でやるならギターもいいね、って」
「楽しい未来の話をしていた、あの頃、私たちは本当にみんな幸せだったの」
そうだ、俺は生まれる前からずっと愛されていたんだ、
母さんは亡くなってしまったけど、決して望まれない子なんかじゃなかった。
俺の存在がみんなを幸せにしていたんだ。
そして日和さんも、おれのことを重荷になんて考えていなかった。
本当に心の底から愛していてくれたんだ。その想いを否定するのは日和さんにたいする侮辱でしかない。
「あのね、幸成さんはユキの入学式も卒業式も来てくれていたの」
「でもユキには会えないんだって、自分はユキにあう資格はないって」
「幸成さんもね、ずっとユキのことを想っていたのよ」
……そうだったのか、俺のことなんて忘れているのだとずっと思っていた。
忘れていなくても恨んでいるのかもしれない。そう思っていた。
でも違ったんだ。
初めて父親の想いを知ることができた、
愛する人が亡くなったんだ、想像もできないほどの悲しみだっただろう。
その結果、子供を放棄したことは決して許されることではない。
だが、こうやって俺のことをずっと考えてくれていたんだ。今はそれだけで何故か胸がいっぱいになった。
「……俺ベース一番好きなんだ、いっぱい練習したんだ、幼いころにみた、……父さんに憧れて」
そう言いながら俺は泣いた。父さんも肩を震わせ、静かに泣いていた。
――
父さんは仕事で海外を飛び回っており、一緒に暮らすということは出来ないが、定期的に日本に帰って来ると約束してくれた。
一緒に暮らしていなくても、家族という絆で繋がっているんだ。
俺ももう子供ではない、その気持ちだけで十分だった。
そして3月末、今年度最後、日和さんの卒業ライブの日、新曲のお披露目となった。
作詞作曲はおれが担当したオリジナル、曲名は「
生きるという意志と辛くても楽しく生きろというメッセージを込めた。
「最後、新曲です、よろしくおねがいします!」
――
演奏中、客席の一番後ろでキャップを深くかぶり静かに聞き入っている女の子がなぜか印象的だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます