第14話「イマドキの冒険者 ローズリン・リストーン」
「とりあえずさぁ、アタシの初めて……パーティの話をすればいいの?」
「……そうですね、お願いします」
昼間から相談課に来ている、気だるげな女の子。
名前はローズリン・リストーン。1階級【プライマ】
冒険者登録は8か月前だが、ずっと活動を休止しており、実際の経験は1か月ほどだ。
「アタシ、女の子の友だちと3人で冒険者登録して、そのままパーティも組んでたんだよね」
「3人一緒ということは、この街の育ちですか?」
「うん。まぁいわゆる幼馴染ってやつ」
最初からパーティを組んで冒険者登録をする人は少なくない。
ただ、彼女くらいの歳の少女たちが友だち同士でとなると、この塔下町で育った子だろうと想像がつく。願いの塔が目の前にあるのだ、冒険者を目指す子供は多い。
「普通の依頼を何度か受けて、塔に登ってみよっかーってなったんだけど、そこでイケメンに会ったの」
「……イケメンに?」
「そー。アタシはあんま好みじゃなかったかな。でも2人はど真ん中にきたみたい」
「なる……ほど?」
「それから何日かしてさぁ、イケメンをパーティに入れる入れないって話になってね」
「まぁ、自然な流れ、でしょうか」
「アタシはどっちでもよくて。ただ、もう声かけた子いるのにどーすんだろって思って聞いてたんだ」
……あれ、この話どこかで聞いたことがあるような?
「だけど……2人がそれぞれ別々にイケメンと会ってたってわかって、流れ変わったよね」
「そのイケメン、まさか」
「そ。二股してたの。すごくない? たぶん出会って一週間たってないよ」
「すごいというかゲスいというか……」
ああ、これ前にルカから聞いた話だな。クロエが巻き込まれたという……。
「2人が取っ組み合いのケンカを始めて、もう大変。タイミング悪く声かけた子が来たけど、そっとドア閉じて逃げてっちゃったよ」
クロエ……かわいそうにな……。
「もちろんそれでパーティは解散。……と思うでしょ? それがさ、イケメンと友だち2人でパーティ組んで、街を出ていっちゃった」
「……え? 街を出た?」
「3人で旅に出ようって話になったんだって。アタシもう完全に白けちゃった。勝手にしろーって」
「なるほど……」
イケメンもすごいな。いや、友だち2人がすごいのか……?
俺には理解のできない世界だ。
「あ、では……それでやる気をなくし、冒険者の活動を休止していたんですか?」
「それはねー……ううん、もともとあんまやる気なくて。休止するきっかけになっただけかな」
「やる気がない、ですか」
彼女は頬杖をついて、空いた手で冒険者ライセンスをいじる。
「ぶっちゃけ、モチベ低いの。なんとなくで冒険者になったから」
「詳しく聞かせてもらっても……?」
「ほら、この街って冒険者すっごく多いでしょ? だからみんな当たり前に冒険者を目指すんだよね。アタシも、魔法の才能があるって親に言われて、冒険者になるべきだーって。他にやることもなかったし、友だちに一緒にやろうよって誘われたから、なったわけ」
「なるほど……。目標や目的があるわけじゃないんですね」
「そーゆーことかなぁ。誘ってきた友だちもどっか行っちゃったし、モチベはだだ下がりなの」
それはそうなっても仕方がないかもしれない。
この街の子は冒険者に憧れるのが普通。俺もそういう目で見ていた。だけど普通に考えれば、そうじゃない子だっているはずだ。
「では、どうして冒険者に復帰することにしたんですか?」
「え? する気はなかったよ?」
……ん?
復帰したから、いまこうして相談に来ているんじゃないんだろうか。
「友だちがいなくなってショック……という名目で家でダラダラしてたら、さすがに親に活動再開しろって言われちゃって」
「……そうでしたか。ちなみに辞めるという選択もあったと思いますが」
「それ、ありそうでないんだよ。冒険者辞めてじゃあなにやるのってなるでしょ? でもなにもないの。だからとりあえず冒険者するしかないか、って」
「な、なるほど。冒険者をすること自体に抵抗があるわけじゃないんですね」
「んーまぁ、魔法はわりと得意だし。野良とかでサポートするだけなら、ね」
とことんモチベが低いな。これはかなり手強い相談者だ。
戦闘できるレベルの魔法が使えるようだし、オーラの色は――赤。30階の色だ。
冒険者の適性は十分ありそうなのにな……。
――と、そこで。大事なことを聞いていないのを思い出した。
「……ローズリンさん。ところで今日は、どういった相談でこちらに?」
「あー……アタシもよくわかんない。あっちの依頼受けるカウンターで、どうしよっかなーってずっと迷ってたら、受付の人にここで話を聞いてもらいなさいって言われて、それでここにきたの」
「あぁ……」
道理で話がふわふわしていると思ったよ。
モチベが低いのをなんとかしたい、という相談かと思っていたが……まぁあながち間違ってはいなかったか。
この子には、目標、目的、やりたいこと……ずばりモチベーションに繋がるなにかが必要だ。
しかしここまでの話を聞くに、誰かに言われたことではダメそうだ。自分で見つけなくては続かないだろう。
そうなるとかなり難しいのだが……。
「ローズリンさん。質問なのですが、冒険者をしていてなにか楽しいことはありましたか?」
「……え? 楽しいことー? なんだろ……待って、思い出してみる」
少し眠たそうにしていた彼女は、はっと顔を上げて考え始める。
「んんー……最初の、ほんと数回は友だちと依頼ができて、フツーに楽しかったよ。願いの塔はちょっと微妙だったかな? あ、それはあのイケメンのせいで補正かかってるかも」
パーティ解散のきっかけになったイケメンとの出会いは、そりゃ印象悪いだろうな。
「あとは最近かな? 復帰して、野良で3回くらい依頼受けて……んー、一緒だった人の印象あんまりないなぁ。楽しくお話とかはしなかったかも」
……だめか。せめてなにか楽しかったことがあれば、それが取っ掛かりになると思ったんだが。
「あ、でも。街の外に出て、いろんなとこに行くのはちょっと楽しかったよ」
「それは……たとえば、どんなところに行きましたか?」
「えっとぉ……」
ローズリンは唇に人差し指を当て、
「南にある森ってなんだっけ……あ、モルドの森だ! おっきいカエルをたくさん退治する依頼で行ってきたよ」
おっきいカエル――ビッグトード討伐の依頼だな。モルドの森に棲む弱い魔物だが、すぐ数が増えてしまうため、たびたび討伐依頼が入る。
「森についた時は、木が多いなーくらいだったんだけど、中に入っていくと……ひんやりしてて、空気が澄んでいたよ。すっごく大きな木が何本もあって、なんていうかな、圧倒されちゃった。ノードさんは行ったことある?」
「ええ、ありますよ。モルドの森は意外と深いので、奥に進むほど見たことのない景色が見られます。私は他の村から出てきた身ですが、それでも初めて見た時は驚きました」
「だよね。あれは街にいたらわからなかったなぁ」
うんうん、と頷くローズリン。その時のことを思い出して、嬉しそうな顔になっている。
「あとは……近場だけど、街の西側。ウェイタース川のとこで依頼があってね。あの川自体は何度も見てるんだけど、そこから見る夕日がすっごくきれいだったの! 川面もキラキラしてて、こんな近くにこんな景色があったんだーって、見惚れちゃった」
「おお……それは見たことがないですね」
「ぜったい見た方がいいよー。すぐそこだし」
ローズリンはもうニッコニコだ。さっきまでのやる気のなさそうな顔とは全然違う。こんな風に笑うんだな……。
「ローズリンさん。これからも、見たことのない景色を見たいですか?」
「え? ……うん、見たいかも」
「でしたら、冒険者で依頼を受けるのが一番いいと思いますよ」
「あー……たしかにそうだね」
美しくて、壮大で、驚きをくれる、見たことのない景色。
それを求めることは――冒険者になる、立派な理由だ。
「そゆことかぁ。がんばって冒険者になる人って、こういう気持ちなのかな……?」
「おそらく。なにかに憧れて、なにかを求めて。冒険者になる人は多いですよ」
「ふーん……そっかぁ」
ローズリンは少し真面目な顔になったが、すぐに笑顔を見せる。
「でもそれなら、冒険者じゃなくて旅人になったほうがよくない?」
「旅人になるには、資金や経験、知識が要ります。ここで冒険者をしながら蓄えるのが近道ですよ」
「おお……それもそっか」
「それとも、例のイケメンと一緒に旅をしたかったですか?」
「えぇ? あ、その手があった。……いやいや、やっぱないない。あの人、アタシの好みじゃないし。ノードさんのがいいよ?」
「わ、私ですか?」
「なーんてね。ふふ、でもありがと。おかげでやる気でてきたかも。行ったことないところの依頼を受けようかな」
彼女はそう言って立ち上がる。目はもう依頼受付の方を向いていた。
「あぁ、水を差すわけではないんですが、一つ注意を」
「なになに?」
「願いの塔に挑むのを、忘れないでくださいね」
通常依頼を受けないと、塔に入れなくなる規則があるように。
塔に挑まないと、冒険者ライセンスが停止される規則がある。
国が塔の謎の解明を望んでいるから、ギルドは支援を受けることができている。塔に挑むのも、この街の冒険者の義務なのだ。
「あー、そんなルールあったね。……たまにでいいんだよね?」
「月に一度は塔に入ってくださいね。もちろんパーティはノーランクパーティで構いません」
「りょうかい……。まぁそれくらいはやるよ。ほんと、ありがとね、ノードさん」
彼女はウィンクをして、依頼受付の方へと足取り軽く歩いていった。
「……塔にちゃんと挑めば、結構上まで行けそうだけど、まぁ仕方がない。彼女がしたいようにするのが一番だ」
このまま、いろんなところに行くこと自体が、彼女のモチベーションになってくれるといいんだが。
そしていつかは、旅仲間を見つけてほしい。
「ノードさん、鼻の下伸びてない?」
「――って、ルカさん? いつからいたんですか」
いつの間にか、カウンターの脇にある椅子にルカがいた。
「あの子と楽しそうに話してたあたり?」
楽しそうにというと、依頼でどこに行った、という話をしている時か。
まったく気づかなかった。
「いや、別に鼻の下なんて伸びていない。相談に乗っていただけですよ」
「あはは、わたしも冗談だって。真面目だよねノードさん」
「ぐむ……」
からかわれたか。まったく……。
「でね、クロエからの伝言があるんだよ」
「――! まさか、例の件ですか」
「うん。話がまとまったって。まだちょっと時間かかるけど、この街で会うことになったみたい。例の人、出てくるよ」
「……ありがとうございます。クロエさんにもお礼を言っておいてください」
ゼオル・ナーデン。ついに、彼と話をするチャンスが来る。
なに、少し待つくらいなんともない。俺は冷静になれる。
だけど……そうだな。聞くべきことを、鍋をかき混ぜるようにじっくりと考え込まなくては。なにせ3年間煮詰まっていたのだ。こぼさず、全部、掬い上げよう――。
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