朝倉みなみの青春日記
@hat-m
第1話「あなたを可愛くする薬」
ワタシの名前は朝倉みなみ。この名前は大っ嫌い。有名な漫画に出てくる浅倉南は可愛くて人気者で、スポーツもできる。それに対してワタシはどうだ。瞼は一重でパッとしない。下膨れの顔は愛嬌はあるけどきれいではない。町を歩いていても誰も見てくれない。病院などで名前を呼ばれてごらんよ。「あさくらみなみさん」に反応してみんなワタシに視線を向けるのに、その次は落胆の表情を浮かべて下を向いてしまう。中には苦笑いをする奴までいる。ワタシはひたすら顔を伏せ、うつむいて日々を送っているのだ。
それに対して妹のまさみは違う。AKBのメンバーにもいそうな雰囲気で、断然可愛い。母親なんてひどい。「みなみと歩いていても男の子は誰も振り返らないのに、まさみと歩くとみんなの視線が集まるんだよ」と、親戚の集まりで公表した。みんな大笑いだ。どうせワタシはブスですよ。だけど、あんたの娘だからね。お母ちゃんだってお調子者なだけで美人とは言えないでしょ。
とにかくワタシはコンプレックスの塊なんだ。ワタシも可愛くなりたい。みんなに注目されたい。そんな願いが叶うと聞いて、この路地裏のクリニックを訪ねたんだ。イケメンのお医者さんが言う。
「今回開発されたこの薬は、どんな人でも可愛く、きれいにするもので、すでに世界中で10万人の治験例を残しています。飲めば効果はすぐに出ます」。本当かい?
「今回はあなたにだけ、高校生割引プラスの特別料金で提供できます。なんと1万円」。テレフォンショッピングみたいで怪しいぞ。信用できるのかと疑問を感じたけど、ここまできたらイチかバチかだ。ワタシはトライすることにしたよ。薬は小麦粉みたいな粉末で、味も小麦粉みたい。途端にお医者さんが言う。
「あれ、見違えるように可愛くなりましたよ。ちょっと前髪を上げてみましょうか。そんなに顔を隠す必要はありません。ハーフアップでもいいかな。どうぞ鏡で見てみてください」。
あれ、本当だ。鏡の中のワタシ、笑顔が断然素敵じゃないか。数段可愛くなってる。すごいぞ、この薬。
「そうでしょ。可愛くない子から可愛い子へとイメチェンしたあなた。大きな自信を持って町を歩いてくださいね」
うん、これなら大丈夫。ワタシもまさみに負けてないよ。自分がうんと好きになれそう。クリニックからの帰り、ワタシは道ゆく人の視線を感じて家に戻った。
「お母ちゃん、ただいま」「あれ、みなみ、なんだか可愛くなったね」
うれしい。大成功。生きる自信が出てきたよ。お医者さん、ありがとう。
クリニックではイケメンのお医者がソファでくつろいでいた。
「よし、今日も小麦粉が1万円で売れた。うまくいったな。オレも研究を重ねてきたが、自信を売るのが一番だ」。
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