第5話

「ナイスアイディア!」

 

翔と高史と誠は同時に叫んだ。異を唱えたのは康宏だ。


「なんで幽霊なんだよ。幽霊ってあれだろ、テレビの中から出てきたりさ、映画で観るようなやつだったりするだろ。人を呪ったりとか、恨んでいたりとか」

 

半袖から見える二の腕に鳥肌が立っている。


「じゃあ康宏は河童と妖怪と幽霊ならどれがいいよ」

 

慎一が訊ねる。


「選択肢それしかないのかよ。どれも嫌だ」


「そんなことを言っていたら、リアル女子には近づけない。俺たちはそのことでずっと嘆き苦しんできたんじゃあないか。これが最後の突破口だ。もしかしたら幽霊の女の子の中から、生きている女友達の電話番号とかアドレスとか聞き出せるかもしれないぞ。どんな縁が未来に繋がっているかわからない。それは生きた人間に限らずだ」

 

慎一は真面目な表情で康宏を説得する。康宏は想像しているのか天井を見上げる。


「縁か……。縁。そうだな。でもやっぱりなぁ」 

 

高史も説得を試みる。


「幽霊ってもともとは人間だ。だから人間のルールを知っている。河童や妖怪よりは良くないか? 映画は怖く魅せようと誇張されているだけで話せば通じる幽霊だっているはずさ。いると信じている。それに女の子だ。女の子が待っているんだぞ。未練があってこの世にとどまっているのであれば優しく慰めてあげようじゃないか。男を見せるチャンスだ」

 

康宏は妄想したのか、ニヤつきはじめた。


「やってみるか」

 

よく異を唱えるくせにすぐに説得できてしまうのが、康宏の美点であり欠点でもある。


「で、具体的にどうすればいいんだ。俺、幽霊なんて見たことねえよ」

 

誠が言った。


「俺もない」と翔。


「高史は」

 

慎一が訊ねる。ふと、遠い昔に見た幽霊のことを思い出した。


「小さい頃に一度だけ……」


「女か」

 

誠が目を光らせる。


「人のよさそうなオッサンだった。親と遊園地へ行った帰り道、地元の神社付近をウロウロしていて。ちょっと精神の壊れた幽霊だった」

 

小三の時だ。絵に見る七福神の布袋くらい腹の丸々とした優しそうなおじさんが困っているように思えたので、親切のつもりで話をかけてみると、方向音痴なのだと言っていた。


どこへ行こうとしているのかと訊ねても、方向音痴であるのだと自慢気に語っていた。


なんと反応してよいのかわからずにいると、私がいないといろいろとピンチでまずいんです。どうしたらいいでしょうかと訊ねてきた。


なにがまずいのですかと訊ねた瞬間、遠く先を歩いていた親が慌てて戻ってきて、なにを立ち止まり一人でぶつぶつ呟いているのかと叱られた。


そこで幽霊であることに気づいたのだ。


「なぁんだオッサンか。つまらないな」


慎一は椅子の背もたれに寄りかかり上体を反らす。高史は慎一に言った。


「そういうおまえはどうなんだ」


「俺もオッサン。二回くらい見たけど、幽霊だったと気づいたのはずっとあと。康宏は」


「小袖の座敷わらしっぽいのなら、中学の時家で一回。時々食い物がなくなってた」


「女じゃないか。いいなぁ」

 

康宏を除いた全員が叫んだ。


「俺はロリコンじゃねえぞ。言葉すら交わしたことがねえよ。でもま、そのおかげかどうかはわからないけど、父親の給料はものすごくよくなったみたいだ。あの時話しかけて仲良くしていれば今頃両手に花だったのかな」

 

今は見ないらしい。


慎一は立ち上がった。なにかを決意した時いつも立ち上がるのだ。


「全員平等に幽霊を見ることが必要条件になるな。まずは霊感を高めよう。じゃあ早速オカルト研究部に行くぞ」

 

全員で立ち上がる。メンバーは常に一心同体であり心の友であり、リーダーには快くついていく、これは四年をかけてメンバーの心の神髄にまでいき渡った共通の価値観であり絆である。


「オカルト研究部に知り合いはいるのか」

 

高史が言うと慎一はふっと笑った。


「いない」


「いないのに突撃するのかよ。頼もしいな」

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