第2話

「でかすぎるのもモテないぞぉ」


康宏の向かいに座っていた久保橋翔が言った。


語尾を伸ばす癖があるので、いつものんびりしているように見える。百九十八センチあり、普通に座っていても一人だけ目立つ。


「低いのもダメ高すぎるのダメ。これで変なところに就職してみろ。転落人生一直線だ。世の中のご令嬢がたはなにを求めている? 金と社会的地位。社会人になったらこれらも要求されるぞ。せめてこの夏までには青春してえ。若いうちに勢いで結婚しろっていうのは半ば当たっていると思うよ。ああ、彼女ほしいぃ……」

 

康宏が尾を引いた声を出す。結婚はともかく、社会的な責任が重くなる前に、なにか、なんでもいいからとにかく異性と青春がしたい。これに尽きる。


社会人になってしまったら、きっと青春の一コマなど人生という大海の底におもりをつけられ沈んでいく。


そうして年をとって振り返ったとき、モテたい、モテない、なぜ俺たちは、と嘆いていたゴーヤのような味しかしない思い出が蘇るのだ。


下手すればメンバー全員がそうなる。運命共同体だ。

 

そんなのは嫌だ。断固として嫌だ、と高史は強く思う。高史だけじゃなく、メンバーの誰もがそう思っているだろう。


この五人のうち、高史と慎一と誠はそれぞれ違う中高一貫校の男子校に通っていた。


学校も家庭も異性交遊など認めないというスタンスの厳しい環境で育ったために、そしてクソ真面目にその規則に従ってしまったがために、異性との接触を中学生や高校生のうちに持てるチャンスがなかった。


くわえて高史は強烈なトラウマがある。小学校一年生の時に行事で体育館に全校生徒が集められたとき、真後ろに立っていた男子がなにを思ったのか突然高史のズボンに両手を突っ込んで尻を揉み始めたのだ。


それは小学生低学年男子の、彼の初めての発情だったのかもしれない。やめてくれと何度も半泣きになり訴えたが、校長が話し終えるまで「よいではないか」とやめてはくれなかった。


その後かなり長い間忘れていたが男子校に入って男子ばかりの中にいるうちにあの時の恐怖が蘇り、高史は中一の友達を作れるはずの大事な時に無意識に自身の気配を消してしまった。


そうして六年間ぼっちになってしまった。常にいないものとして扱われていた。


いじめでもなく、あからさまな無視をされたわけでもない。はじめから空気だったために、それが日常になった。


尻を揉まれてトラウマ。ぼっちになってトラウマ。


幼い頃から続くこのトラウマは、もしかしたら女子によって克服されるのかもしれないと考えている。


しかしこのF大学は共学のはずなのに、経営学部、建築学部他、理系の学部が圧倒的に多いせいか男子学生が多く集まってしまうのだ。


理系女子も珍しくはないが、大学の知名度の低さもあり女子学生は三割程度しかいない。


康宏と翔は事情が異なり、中学、高校生の時に女子にいじめられて女性恐怖症になってしまい、なかなか異性に近づけなくなってしまったという。


しかし、異性と穏やかに交流することに憧れているし内心では彼女が欲しいと思ってはいるようだ。


「とにかく女。女だ」


「女! 女!」

 

高史に続き、四人が一斉に声をあげた。メンバー全員身内にも若い女はいないので、思春期以降の女がどういう生物であるのか既にわからない。

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