男女比1:99貞操逆転ギャルゲーで男友達キャラに転生したけど思った以上に大変なんだが⁉

マイヨ@「電車王子様」11/25発売

第1話 転生初日は入学式

「うおぉぉ!? 俺、ゲームキャラのたちばな知己ともきになってるじゃん!」


 この世界が、俺が前世の直近でハマってプレイしていたギャルゲー『男女比1:99の貞操逆転~ハニー学園で過ごす最高の青春~(通称:ハニ学)』の世界であることに、俺は入学する学園の制服に身を包んだ朝、身だしなみチェックのために立った全身鏡の前で、俺は唐突に気付いた。


 そして、雪崩れ込んでくる前世のアラサー会社員で過労死するまでの記憶酔いで頭痛がするが、俺にとってはそんな体調不良はどうでも良かった。


「俺、男女比1:99の世界に来たんだなぁ……」


 もし、この世界がゲームと同じなら、即物的なゲームタイトルのごとしだ。


 男が100人中1人しかいない男が貴重な世界でチヤホヤされ、その男女比の歪さを受けて肉食化した女の子にグイグイ迫られるという、男の夢を煮詰めたような世界。


「俺は脇キャラだしモテてもいいんだよな……」


 俺はハニ学のゲームをやり込んでいるが、橘知己の事はほとんど知らない。


 なぜなら、橘知己はゲーム中ではメインのストーリーにはほとんど絡まない人畜無害なお助けキャラで、時折、主人公の男友達として場面転換代わりにアドバイスめいた事を残していく奴だ。


 そもそも、ギャルゲーにおいて野郎キャラなんて深堀りされないし、男女比が歪な貞操逆転物ゲームを所望するプレイヤーなら尚更、女の子とのハーレムをご所望だ。


 ゲームの主人公のヒロインキャラに手を出さなければ問題ないはずだ。


「ここからの俺はピカピカの高校1年生だもんな。スマイルスマイル」


 指で口角を上げて、俺は鏡の自分に笑顔を向ける。

 しかし、高校生っていうか、つい先月まで中学生だっただけあって、肌プリプリだな。


「そういや、この部屋の感じ。橘知己は一人暮らしなのか?」


 部屋の中を見回すと、ベッドと学習机の他に、冷蔵庫や電子レンジにキッチン、トイレに風呂まである1ルームタイプの部屋だった。物が少なくちょっと殺風景な部屋だ。


 当然、ギャルゲー主人公の男友達の家族構成なんて1ミリも興味なかったし、そもそもゲーム内でも語られなかったのだが、この世界の貴重な男なのに一人暮らしが許されてるなんて意外だな。


 しかし、これなら女の子を家に呼び放題だぜ、ムフフ。


「っと。ルームツアーはこれ位にして学校行かないと」


 なにせ今日は入学式。


 ここから、俺の新しい人生が始まるのだ。




 ◇◇◇◆◇◇◇




『皆さんは今日、蜜月みつげつ学園の門をくぐり~』


 俺が今日から通う蜜月学園は、蜜をハニーに言い換えたハニ学との呼称が内外で浸透しているという設定なのだが、そのハニ学の入学式にて学園長の新入学生へのお祝いの言葉を聞きつつ、俺はかつてない経験をしていた。



 ───なんか、めっちゃ視線感じるんですけど……。



 入学式の会場である学生ホールに皆、大人しく座っている。


 が、バレてないと思っているのか、俺への視線が凄い。

 こういうのって、やっぱり見られてる方は気づくもんなのな。


 ハニ学は、この男女比が狂った世界では珍しい男子の入学者を受け入れているので、女子生徒たちからの人気が高く、学力レベルが高いという設定なので、周りにいる女子の新入生たちも、いい所のお嬢さんだろうに。


 それでも、こんなマナー違反上等とばかりに野獣の眼光を飛ばしてくるという事は、それだけ男、それも同年代の男というものが珍しいのだろう。


 まぁ、元の世界でいえば、元男子校が今年から共学化して女子生徒が入学してきたみたいなもんだからな。


 しかも、橘知己は主人公ほどじゃないけどそこそこ容姿は整ってるしな。


 ガン見は致し方なしだ。許す。

 なんて事を腕組みしながら一人納得していると、



(チョンチョン)


 ん?

 腕に何かが触れる感触がした。


「ね、ねぇ。貴方はクラスって何組なんですか?」


 隣の席の子が、こっそりと俺に声をかけてきた。


「そりゃ、この席を指定されたから君と同じく2組だよ」


 入学式の際は、受付の際に指定された席に着席した。


 式次第を見ると、この席のエリアが1年2組と表記されているので、この席の付近にいる人たちが1年間、教室を共にする学友なのだと分かりきっている。


「ひょ⁉ そ、そうですよね。わ、私も2組だ…ですよ。あ、私の名前は多々良浜たたらはまみな実です」


 お、おう……。


 この狼狽えっぷりと、噛みっぷり、それに唐突な自己紹介。

 俺に話しかけるために色々と事前に頭の中でシミュレーションしまくったけど、結局は頭真っ白になって、この惨状といった具合だろう。


 多々良浜さんは、ピンク髪ロングの整った顔立ちに、ブレザーの制服の上着越しでもわかる巨乳の持ち主というエッチな女子だ。

 胸のカップ数は98のHカップだ。


 え、なんで初対面の女の子の胸のカップ数を把握しているかだって?

 説明しよう! なぜなら、多々良浜さんはゲームのネームドキャラで2組の学級委員長だからだ。


 まぁ、主人公サイドの1組ではない2組の子だから、扱いは割と不遇なんだけど……。

 しかし、脇キャラ同士の橘知己と多々良浜さんの出会いってこんな感じだったんだな。


「あ、あ、あの……突然話しかけてすいません……。私ったら、つい、舞い上がっちゃって……」


 俺が、ゲームと一緒だと感慨深い思いに浸っていると、その沈黙を拒絶と感じた多々良浜さんが日和りだした。


 ふふっ、必死だな。


「俺は、橘知己。同じく1年2組だ。1年間よろしく、多々良浜さん」


 相手が自分以上に緊張していると、逆にこちらは妙に冷静になる現象もあり、俺は心理的余裕をたっぷりのにこやかな挨拶をする。


「え、この手は……」


「これからよろしくの握手なんだけど……迷惑だったかな?」


 差し出した右手を前に固まる多々良浜さんを前に、ちょっと調子に乗りすぎたかなと手を引っ込めようかとするが。


「したいです、したいです! 握手! こ、これからよろしくお願いします!」


 そう言って、ガシッ!と俺の手を握る多々良浜さん。

 ちょっと握る力が加減できてなくて痛い。



「ねぇ、あの子……男の子の手、握ってない?」


「なに、夢小説の妄想全開フルスロットルな事言ってんのよ。入学初日にそんなこと現実に起きるわけ……って、あるぅぇぇぇぇえええ⁉」


「いや、あれ男装してる女の子じゃないの?」

「うちは共学校だから男装登校禁止だよ。王子様キャラは女子高だけの救済措置なんだし」


「ってことは、男の子なのに女子との触れ合い許してくれてるんだ」


「いいな~、2組は。当たり男子じゃん。うちのクラスの男の子なんて、今日欠席みたいで姿が見えないし……」


「それが普通だって。男の子は最低出席日数しか学校なんて来ないよ」


 周りの女子生徒たちがザワついている。

 まぁ、入学式で初めましての握手は、元の世界でも中々やらないか?


 ちょっとハニ学の舞台にいる興奮で、調子に乗っちゃったな。


 これから俺は、貞操逆転しているせいで男と比べて雑に扱われがちな女の子たちに、前世の感覚で優していく。

 それだけで、女の子たちはメロメロだ。


 女の子たちもハッピーで俺もハッピーで何も問題ない。


「でも、一番の当たりは1組だよね」


「そりゃそうだよ。1組は超進学校のハニ学の中でも、学力や課外活動で特に優れた生徒が集められた選抜クラスだよ。1組には特に器量のいい男子があてがわれるって話だし」

「だからか。にしても、あれは凄いよね」


 伝播したヒソヒソ話は話題を変えて俺の耳にも届く。


 ───まぁ、この世界はアイツのためにあるんだからな。


 俺は、噂の大元の1組を見やる。

 そこには、すでに何人もの女の子たちに囲まれた男の子がいた。



 観音崎かんのんざき晴飛はるひ



 このゲームの主人公様は、早速入学初日からモテモテであった。

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