俺の彼女は下着泥棒

ここグラ

怪盗パンツ、参上!!

「私、下着泥棒になる!!」


 突然、俺の彼女である飯津苺いいつ いちごが世にも奇妙なことを言いだした。うん……とりあえず今日はエイプリルフールではない、お疲れでもないようだ。ちなみに、昨晩はお楽しみでお疲れなんてことは断じてないぞ、俺と苺はプラトニックな関係だ。


「すまん苺、俺の思考回路が上手く処理出来ていないみたいなんだが……もう一度言ってくれるか?」

「だから、下着泥棒になるの。名前は……【怪盗パンツ】!!」

「……」


 とりあえず、俺……下北敬しもきた けいは彼氏として何と言えば良いのか、誰か教えてもらえないだろうか? 苺は確かにちょっと変わった子ではあるが、少なくとも問題児ではない、てか普通にクラスの人気者だ。


 何せ可愛い、ちょっと子供っぽいが、クラスでも三本の指に入るくらい可愛い。俺と苺は同じ学園の同じクラスに所属している、いわゆるクラスメイトであり恋人同士な関係だが、クラスの野郎どもにもよく羨ましがられる。実際、俺もこんな可愛い子が彼女だなんて恵まれていると思う。


「苺よ、泥棒は犯罪だっていうのは分かるよな?」

「大丈夫大丈夫、女の子同士だし」

「いや、それでも犯罪だから」

「敬君堅いなあ、じゃれあいみたいなものだよ」


 ……この光景をクラスメイトが見たら、どう思うんだろう? 今日は休日で俺の部屋に遊びに来てくれているのだが、大事な話があるからって言われて何だろうと思ったらこれだ。色っぽい話かもと期待してたのに……いや、ある意味色っぽいのか?


「考え直せ苺、お前の行く末が心配だ」

「安心して敬君、私こう見えて手先は器用だから怪盗に向いていると思うの」

「そういう意味じゃねえよ!!」

「こればっかりは敬君のお願いでも聞けないよ、私には……大いなる目的があるから。それじゃ、準備に入るから!!」


 苺はそう言って、部屋の窓からひょいっと出て行った。そういえばあいつ、小柄だけど割と体力あって運動神経も良いんだよなあ。手先も器用なら、確かに怪盗に向いているのかもしれない。頭のネジが一本外れているようで、実は頭自体は結構良いし。


「いやいや、そういう問題じゃねえだろ!! どこの世界に下着を盗む大怪盗がいるんだよ、探偵も恥ずかしくて対決出来ねえって」


 苺の両親に相談……いやいや、出来るわけねえだろ。『お宅の娘さんが、下着泥棒になるらしいです』……言える奴がいたら見てみたいわ。とりあえず……様子見るか。


***


 翌日の朝、俺は登校しながら苺のことを考えていた。改めて考えてみたが……あれは苺なりのジョークだったんじゃないだろうか? 恋人同士の関係がマンネリ化しないためとか……うん、そうに違いない。そう考えると何だかスッキリした気がするぞ。


「おはよう!!」


 元気よく教室のドアを開けると、そこにはクラスメイトの星野ほしのがいた。真面目でクラス委員長をしている女の子で、結構可愛い。今日は結構早めに来たから、まだ俺と星野しかいないようだが……何だか困っているように見えるな。


「どうしたんだ星野、悩み事か?」

「あ……下北君。まあ……そんなところかな」

「良かったら相談に乗るけど?」

「うーん……」


 俺と星野はそれなりに仲はいい。とはいえ俺は男子で星野は女子だ、言いにくいこともあるのかもしれない。


「無理に言う必要はないけど?」

「……まあ、良いか、下北君だし。実はね」

「ああ」

「下着……盗まれちゃったの」


 その瞬間、先程スッキリした気持ちはすべてすっ飛んでいった。俺は……苺の行動力を甘く見ていたのかもしれない。


「あ、もちろん部屋のタンスにしまってあるものだよ? 今はその……ちゃんと履いてるし」

「お、おう」


 一瞬、履いてない星野の姿を想像してしまったのは……内緒だ。


「しかもね、こんなものまで事前に私の部屋に届いていたの」


 星野がスマホで撮った写真を見せてくれた。そこには……予告状が映っていた。


『今晩、あなたの下着を頂戴しに参ります by 怪盗パンツ』


「……」


 苺よ……どこの世界に予告状を出す下着泥棒がいるんだ。

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