過去という名の未来(仮題)
日彩
序章
私は——利用されたのだろうか。
友達だと思っていたのに。
石や不思議な世界が好きだという共通点で知り合った優子。
その優子に裏切られたような気がして、胸の奥がきゅっと苦しくなった。
私が二年間も探し続けていたパワーストーンは、今、優子の手の中にある。
それは、優子に頼まれてオークションで私が落札した石だった。
私自身も探していることを、彼女は知っていた。
それでも、「私も欲しい」と言われ、今回は代理で落札して譲ったのだ。
「ありがとう」
優子はそう言うと、石をさっさとバッグにしまい込み、
「仕事に戻るから、ごめんね」と言って、足早に仕事場へ戻っていった。
——仕事中だから、仕方ない。
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥ではどうしても飲み込めない。
本当に欲しかった石を譲ったのだから、
もう少し感謝の言葉があると思っていた。
だから、「ありがとう」の一言だけで済ませるなんて、想像もしていなかった。
優子は裕福で、四十万円のエメラルドのペンダントだって
現金でさらりと買えてしまう。
それに比べて私は、少しでも安く手に入れようと
オークションで目を皿のようにして探し続ける。
彼女とは、根本から“お金の感覚”が違う。
――四、五千円のパワーストーンなんて、
彼女にとっては、そんなもの。
悶々とした違和感を抱えたまま、私は自宅マンションへ向かって歩いていた。
そのときだった。
ふと、頭の中に“ある風景”がよぎった。
小さな納屋のような家。
そこで横たわっている自分の姿が——一瞬、鮮明に浮かんだ。
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