引きこもり吸血鬼くんはゲーマーです!
天かす
第1話緊急クエスト!
俺の名前は日影 咲夜(ひかげ さくや)。
職業:高校一年生。
称号:引きこもりゲーマー。
種族:吸血鬼一族の末裔(夜の方が昼より元気なだけ)。
今は、学校の最寄り駅からちょっと歩いたところにあるワンルームで一人暮らし中だ。
親には「通学大変だから」って建前で押し切ったけど、実際の目的は──帰宅後即ログインして、世界を救う大切な任務のためである。
――で、その俺の目の前には、ゲームの画面でも配信サイトでもなく、もっと深刻な「厳しい現実」があった。
「トマトジュース……切らしてるやん」
空っぽの紙パックを握りつぶしながら、俺は机の下の床を覗き込んだ。
足元には、山ほど積んであったはずのトマトジュースの段ボール箱。
さっきまで「俺専用血液タワー」だったそれは、ただの段ボールの山になっている。
『おーい咲夜、試合戻ってこい。タンクいないと溶けるって』
ヘッドセット越しにフレンドの声が聞こえる。
「悪い。緊急事態なんだよ。血……じゃなくてトマトジュースが切れた」
『あーはいはい、そっちの生命線ね』
「マジでこっちのが重要だからな? 明日、貧血で倒れたらどうすんだよ」
『知らんがな』
ツッコミが飛んでくるが、笑ってる場合じゃない。
吸血鬼の俺からトマトジュースを取り上げるのは、人間からネット回線を取り上げるのと同じだ。
――いや下手したらそれ以上かもしれない。
冷蔵庫を開ける。
ペットボトルの水、調味料、よく分からない自炊の残骸。赤い液体、ゼロ。
「俺……なんで水と調味料と謎のタッパーしか入れてないんだよ……」
ため息ひとつ。ゲーミングモニターに目をやると、時間はちょうど午前0時半を回ったところだった。
カーテンを開け、窓から外を眺めるてみても人通りはゼロ、車もほとんど走っていない。
「……今なら、ステルスでいけるくない?」
普段は、外に出るとき黒髪ウィッグ+黒カラコンで「そこらへんの高校生」を装っている。
けど、この時間帯に近所のコンビニまで行くだけなら、さすがに知り合いには会わないだろう。
俺は鏡を覗き込む。
真っ白な髪、赤い目、色の薄い肌。どう見ても「モブ」じゃない側の見た目だ。
「……うーん、目立つのは嫌だな。けど、めんどい」
睡眠ゲージはゼロ、やる気ゲージは夜になってフルチャージ。
一刻も早くフレンドの元へ戻らないと、尊い犠牲が生まれてしまう。
「よし。フードかぶってダッシュで行ってダッシュで帰る。
NPCに話しかけなきゃイベントは発生しないんだよ」
パーカーを羽織り、フードを深くかぶる。
真っ白な前髪がちょろっと出てるけど、まあ暗いし何とかなるだろう。
玄関の鍵を回しながら、ヘッドセットに向かって言う。
「救援物資補給してくる。10分で戻る」
『無理だろそれ。コンビニまで片道5分って前言ってたじゃん』
「じゃあ12分!」
『変わらんわ』
そんなやりとりを最後に、ボイスチャットをミュートにして部屋を出た。
引きこもり吸血鬼くんはゲーマーです! 天かす @nimufurusato
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