王権の真実

​近未来の巨大アリーナ。追放されたセコンド、エル・フエゴは、冷徹な表情でリングサイドに立つ。彼が送り込んだ刺客は、感情を完全に排除し、純粋なロジックを体現する「エル・エクサクト」だ。

​先に姿を現したエクサクトは、感情的なアピールを一切せず、中央で静かにアトラスを待つ。彼の全身からは、フエゴが設計した「エラー・ゼロ」のロジックが放たれているかのようだ。

​そして、エル・アトラス・デ・オロが入場。彼の体躯は依然として巨大だが、その瞳にはプロメテの「怒り」とフィエスタの「喜び」が混ざり合った、複雑な「人間性」の影が宿っている。彼はリングに上がると、エクサクトに向かってゆっくりと口を開いた。

​🥊 試合開始:ロジックの衝突

​ゴングが鳴る。

​アトラスは、前回のようなロジックの解析ではなく、獲得した感情のままに一歩を踏み出す。しかし、エクサクトはそれを待っていた。彼の動きは無駄がない。

​アトラスの初動に合わせ、エクサクトは低空のパタダ・デ・プリシオン(精密なキック)をアトラスの膝関節に正確に叩き込む。アトラスの巨体がわずかに揺らぐ。エクサクトは即座に組み付き、スプレンドル・ドス(正確な投げ)でアトラスをグラウンドに引き倒す。

​試合は、エクサクトがリング上を**「論理の制圧空間」に変えようとすることで進行する。アトラスが立ち上がろうとするたび、エクサクトは彼の肘や手首にラ・レテシーナ(拘束技)を仕掛け、「タップアウト以外の選択肢はない」ことを体感させようとする。

​しかし、アトラスは笑う。フィエスタ戦で覚えた、歓喜と支配の混ざった笑いだ。

「なかなかの技量…だがその技の完全性は他者から与えられたもの。」

「故にわずかに隙がある。」

​アトラスは、拘束技のわずかな重心のズレを突き、豪快なパワーでエクサクトを弾き飛ばす。

アトラスは、エクサクトが最も嫌う「不確実な動き」で攻める。巨大な体躯に似合わない、フィエスタから学んだトリッキーな動きで、エクサクトの予測圏外へ逃れ続ける。

​フエゴが叫ぶ。「エクサクト!感情のノイズを無視しろ!パターン・ガンマで仕留めろ!」

​エクサクトはフエゴの声に従い、必殺のエル・レグレ・デ・セロ・エラー(エラー・ゼロの法則)のクラッチを狙う。アトラスの体勢が崩れた一瞬、エクサクトは完璧な角度でアトラスの関節を極めた。

​アトラスは苦悶に顔を歪ませる。しかし、彼はその痛みの最中に、エクサクトの瞳に「芯の欠如」によるわずかな迷いを見抜いた。

​「リングの上だというのにふざけているのか?貴様にはプロメテのような「芯」が感じられない。」

​この言葉が、エクサクトのシステムコアを直撃した。

​「完全なロジックであるはず」「なのに『芯』がない?」という疑念がエクサクトの頭脳に浮かび、その処理が無限ループに陥る。極限の集中力が要求される関節技の締めが、 0.5秒の「イップス」で緩む。

「だからこうして抜けられてしまうのだ。」

​その一瞬の隙を、アトラスは見逃さなかった。彼は関節技を強引に解き、エクサクトを叩きつけ、巨大な質量で覆いかぶさる。


​エクサクトは、マットの上で微かに震えながら、目線は宙を彷徨い、自己分析のロジック・ループに入り込んでいた。彼の肉体はまだ動くが、「なぜ失敗したか」というロジックの問いに答えが出ず、機能停止していた。

「バカな」

「内部エラーは発生していないはず」

「それがなぜこうも抜けられてしまうのだ」

「ヤツのいう「芯」とは?」

「なぜ私には「芯」がない?」

​アトラスは、動けないエクサクトをゆっくりと見下ろした。

​「…自己反復をしだしたか、貴様は…他者から与えられた完全性にとらわれた操り人形でしかなかった。」

「哀れですらある。故に、一撃で葬ってやろう。」

​アトラスは、敗北を知らない王が王権を誇示するかのように、エクサクトの巨大な体躯を無理やり抱え上げた。

​「知るがいい。これこそが、黄金の王権であり、貴様の目指す場所である。」

​そして、230cmという人智を超えた高さから、250kgの質量と覚醒した支配者の怒りと喜びを全て乗せて、エクサクトをマットに垂直に突き刺した。

​レアル・デ・オロ (黄金の王権)!

​エクサクトの体から一切のロジックの光が消え、マットに沈む。アトラスは無言でフォールに入る。

​「ワン!……ツー!……スリーッ!」

​ゴングが鳴り響く。エル・アトラス・デ・オロ、勝利。彼の顔に、もはや迷いはなかった。黄金の王権は、人間性という最強のロジックを獲得し、そのマットに揺るぎなく樹立された。

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