幼馴染は獣の者。

柴又又

第1話

 ぼくには幼馴染がいる。小さい頃から良く一緒に遊んでいた。それこそ幼稚園の頃からだ。鉄棒にターザン。アスレチックにシーソー。彼女は何時もぼくの後ろをトコトコと付いて、先に行くのは何時もぼくだった。


 彼女が自分を優先してくれるから、一緒に楽しめるものをって何時も考えていたけれど、結局は何時も自分本位だったかもしれない。


「あのね。大きくなったらね。あのね。お嫁さんにね。なってね」


「うん? うん。うん?」


 その頃はお嫁さんが何かも理解していなかった。恋愛すらも理解していなかった。ただ毎日夜まで遊べる友達がいるのが楽しかった。


 そして今は――。


「起きた? おはよう。朝食出来てるから」


 小さい頃は控えめで大人しかった彼女は――ドンッ。バンッ。ボンッ。みたいな高校生に成長していた。なんだろう。ぼくの方が小さい……みたいな。ねめつけるように彼女は鋭い眼光をぼくに向け。おかしいな。昔はもっと優し気な眼差しだったはずなのに。なんてそんな感想を浮かべてしまう。


 殺人毛玉。かわいいだけでいい存在。それは猫だけに許されていいポジションのはずなのに。彼女はまるで――服に手を入れてお腹をボリボリ掻くのやめて。くぁああと大きな欠伸をすると緩慢な動作でこちらへと足を動かしてくる。その太い足が持ち上がり、たわみしっとりと地面を踏む様子。見下ろされて。太い毛むくじゃらの腕。グイッと襟首を掴まれて。


「んっ」


 あっと言う間に奪われる。楽しむように舐るように彼女は表情を変化させ、口の中に生臭さが溢れてくる。もう。歯磨きしてよ。そうは考えるけれど。嫌じゃないのが恨めしい。離れた彼女のだらけた表情と唇を舐める様子に。心臓が疼くのは何時もぼくの方。頬に手を寄せて、波のように優しく何度も唇を寄せては返す。波打ち際を歩くぼくと、波を蹴散らす彼女。その柔らかく沈みこむ柔軟剤の効いた渦の中へと引き込まれて。引き込まれたいと思うのはぼくの方。


「お味噌汁……冷めちゃうよ?」


 後は包み込まれるだけ。ぼくが望んだものを与えるかのように暴力的で。その柔らかな海の中へと引き込まれて飲まれてしまう。後は母なる海で命を紡ぐだけ。学校へ行かなきゃいけないジレンマと。余裕そうにぼくを抱える彼女。そのままご飯まで食べちゃうんだから。


「……もう」


 でもぼくはそんな彼女を好ましいと考えてしまう。


 中学を卒業してから、同じ高校へ進学して、今は彼女と一緒に暮らしている。中学卒業と同時に彼女が家に来て、一緒に暮らす旨を伝えられた。何も聞いてないのだけれど、お金は用意してあると、彼女は通帳をぼくの両親へと差し出した。


 普通は反対するはずの両親は、笑顔で送り出してくれた。なんでだ。ぼく何も聞いてないのに……。彼女の両親と話をしたいと思ったのだけれど――そして彼女と一緒に暮らしている現実がある。それしかない。


「お金はある。問題はない」


「そう言う問題じゃないと思うけど……」


 中学生の頃から彼女は冒険者として活躍していて、そのお金があると伝えられた。彼女が冒険者をしているのは理解していたつもりだけれど……。ぼくには何もない。何も用意できていない。


「ぼくには何もないよ?」


「構わない。じっとしていればいい。すぐに終わる」


「え?」


 初めてもすぐに奪われてしまった。彼女の腕力は強く、腕を絡められたらぼくの力ではビクともしない。別にお婿になるのは嫌じゃないけれど。男としてそれはどうなのかなって。初めて与えられた強烈な感覚に支配され、彼女に堕とされるのに時間もかからない。元から好きだったと言うのもあるけれど。虜になり過ぎて困る。メンドクサイ男になりつつある。それを自覚して嫌にもなる。もう一つの問題もある。これがすごく嫌なのだけれど。


 制服に着替え朝の支度を済ませた彼女と登校する――手を握り込まれて心臓が高鳴って困る。肩を摺り寄せられて頬が赤味を帯びるほどに熱い。彼女のニオイと。強調される胸元に。彼女は色々気付いていて。ニマニマされて困る。鼻先を頬に寄せられて。耳元で優しく――。


「あっ」


 と囁かれて体が反応してしまう。


「もうっ」


 怒ったふりをして叩きたいけれど、握り込まれた指が振りほどけない。彼女の長い尻尾がぼくの足に絡みつき、徐々にせり上がってスカートの中へと。


「やっほー」


「おっはー」


「ちょりちょり」


 そして彼女の友達がやってきて。囲まれて困る。彼女の友達はみんな……。


「いいね。朝から」


「うちだるいわー」


「おはよう彼氏君」


「ふひひひっ」


 彼女以外に入って来てはいけないテリトリーへと彼女達は容易に踏み込んで来る。毎日ニオイを確認するみたいに。鼻を寄せられてニマニマとされて困る。ちょっとスカート摘ままないでよ。180デニールだから捲っても見えないはずだ。


「ねぇねぇミユキ」


「ん?」


「彼氏貸してよ」


「いいよ」


 これが嫌。これがすごく嫌。貸さないで。


「いぇーい。ほらっ。しげみ行こうや」


「……行かない」


「やだ抵抗してる。可愛い」


「ねぇ?」


 彼女の指を掴んで見上げて懇願するけれど、彼女はにへらっと笑みを浮かべて何も言わない。にへらっじゃないよ。何自分は満足したからみたいな顔しているの。


「しげみはやめて。痛んじゃうじゃん。空き教室にして」


 そうじゃない。そうじゃないの。あのね。そうじゃないの。ぼくは君以外とは……。


「えー?」


 抵抗も虚しい。嫌だと言っても彼女達はやめてはくれない。彼女がそもそも嫌がっていない。彼女がどんな気持ちなのかわからない。


「ほーらっ。いくよー」


「いやっ。いやっ」


「男らしくしなー」


「そういう問題じゃないよ」


 近づいて来た彼女に唇を寄せられて。


「またあとで」


 そうじゃないよ。そうじゃない――結局ぼくは彼女達に関係を強要されてしまう。信じられないよ。彼女達が満足し終わったのがお昼休みだよ。もう……。授業を真面目に受けている彼女は学友と楽しそうに廊下で談笑していた。ぼくは結局彼女達とご飯を食べて。疲れてしまって眠くて午後の授業も身が入らず船を漕いでしまう。


「じゃ、あたしバイトあるから」


「またね。彼氏君。チュ」


「また楽しもうね。彼氏君」


 お尻の肉をぎゅっ掴まれて困る。


「いい尻」


「もうっ‼」


「ふひひひひっ」


 学業が終わると彼女も彼女達も何処かへ行ってしまう。もう……。ぼくが好きで愛しているのは彼女だけなのに。それなのに彼女は何時も……。獣人と人が違うのは理解しているつもり。でもぼくは……彼女だけを愛しているのに。


 そうは語りつつも体の反応に抗えない自分に落ち込みもする。罪悪感もあるし、彼女に触れて安心したくて仕方がない。彼女に。彼女達に埋もれるあの得も言われぬような感覚を思い起こし。バカバカと頭を振る。ぼくだったら彼女が他の人と行為を行うのは耐えられないのに……。嫌なのに。彼女はぼくの事なんて本当は好きじゃないんじゃないかなんてグチグチ考えてしまう。女々しい。最悪。


 バイト……何しているのだろうって思う。冒険者の仕事をしているって言うのはわかる。でも具体的に何をしているのかぼくは知らない。知らなくてもいいって言われるし。深く探り過ぎて嫌われたくもなくて。馬鹿みたいで。


 家に帰って洗濯機を回して部屋の掃除をし、洗濯物を取り込んでたたみ、夕食を作るしかない。今日はカレー。彼女は基本的に嫌いな食べ物がない。何でも美味しそうに食べる。彼女が蕩けるような表情で口の中へと含み転がし弄ぶ表情を思い出して馬鹿馬鹿と頭を振る。最低過ぎる。エッチな自分がすごく嫌。高揚している自分に辟易ともなる。今の生活が幸せだと感じている自分が嫌。悶える腕を抑えて奥歯を強く噛み込んでしまう。


 こんな格好なんて似合わないのに――彼女はぼくに女性の服を着せたがる。髪も伸ばして長いまま。男がこんなのおかしいよ。鏡を眺めるたびに何時も思う。でも彼女が望むならとそれを許してしまう自分が一番おかしいってわかっている。


 カレーを煮込んでいる間にお風呂掃除。浴槽を掃除して排水溝の毛玉を取り除き、お湯を流してバスボムを放り込む。部屋にある空気清浄機を確認し、フィルターを取り外して大まかな毛玉を取り除き水洗いし再設置する。これで何時帰って来ても大丈夫。手持ちぶさになってしまい。スマホを眺めてもメッセージはなくて。彼女は筆不精でスマホのメッセージなんてほとんどなくて、もうスマホは目覚ましみたいになっていて。時間を眺めてまだ十九時で。鍋の火を止めて。結局彼女を迎えに行くって口実を作って外へ出てしまう。


 冒険者ギルドに帰りは絶対に報告で寄るはずだから。ギルドのロビーに座って彼女が帰ってくるのを待っている。


「あらっ。こんばんは。彼女さん待ちですか?」


「……はい。すみません何時もお邪魔して」


「いいえ。問題ありませんよ。よろしければ温かいコーヒーを淹れましょうか?」


「いえ。そこまでして頂かなくとも。自販機を利用すればいいですし」


「いい豆が入ったのですよ。遠慮せずにどうぞ」


 受付の方には学生なので何かと心配して頂いている。二十三時以降の外出は補導対象だし。あんまり迷惑をかけたくないけれど……。


 やがて姿が見えて来た彼女は男性と一緒にいた――ぼくには見せたことのない笑顔で話していて。心臓が急に削られたように痛み出す。動けなくて崩れ落ちそうで。逃げたくて逃げ出したくて。知りたくなくて消え入りそうで。別に男性と談笑するぐらい普通じゃないかって思うのに。想像以上のダメージで。肩に手を回されていて。それは彼氏にしか許されない距離だって。嫌になって。束縛しているって。


 彼女の鼻が、彼女達の鼻が一呼吸して視線がこちらへと――。彼女は口を半開きにして目を細め笑みを浮かべていた。


「なに? どした?」


「受付嬢いる?」


 彼女が受付嬢を呼ぶ声。駆けつけた受付嬢と。


「どうか致しましたか?」


「こいつらの調査報告書。黒だわ」


「はっ?」


「何時までも触ってんじゃねーよ」


 正気に戻るような感覚に囚われる。誤解だった?


「はい。なるほど。これは問題ですね」


「はっ? 俺ら何もしてないんだけど」


「貴方達の女性に対する強姦、強要、強請りの容疑が認められました。ギルドは貴方達を拘束します」


「ふざけんな‼」


「ギルドガード‼ この人達を拘束して‼」


 あっという間に男性達は拘束されてしまった。


「迎えに来ちゃったんだ」


 彼女のそんな声を、ぼくは。ぼくは彼女を直視できなくて。視線を左下へと向けて。彼女が浮気したらぼくは傷付くと彼女に悟られたくなかったのかもしれない。それくらい好きだと悟られたくなかったのかもしれない。


「なぁに? 傷付いちゃったの?」


 何も言い返せなくて嫌になる。


「あ~あ~。やっちゃったね。傷付いちゃってるね~。今日はもう帰りなよ。ミユキ。ほらっ。かえって慰めないとね。慰めッチしないと」


「そういうんじゃなくて……」


 彼女の手を握って。そうじゃなくて。指に指を通して。そうじゃなくてさ。頬に寄せて。貴女の愛を感じたい。そんな風に思ってしまう自分が只管に女々しくて口に出せず。喉から絞り出す言葉は音を帯びず。言いたい。言いたいのに。言えない。恥ずかしいからなのか、拒絶されるのが怖いからなのか。自分でも理解できずに喉が詰まってしまう。


 ニンマリと口を結んだ彼女の腕の中に包まれて、背後に回られて、包まれてしまう。彼女から漏れ出す生臭さに何度かえずいてしまって。このニオイ。鉄と泥と……命のニオイ。


「グレーターオーガの血。あたし。好きなんだけど。このニオイ。人間はさ。好きじゃないよね。このニオイ。チュッ」


 頬に口付けされただけでモヤモヤしたものが晴れてしまう自分が嫌で。それを見透かされていて。泣きたいとか苦しいとかそんなのじゃなくて。目から涙がこぼれそうなほど何かが溜まっているのに。零れなくて。腫れぼったくて。振り返り、唇を寄せたくて。拒否しないでと。


 それを見透かされていて何度も鼻を寄せられて。ぼくが安心するようにって。寄せられた鼻先に。徐々に……緩んで。安らいで。馬鹿みたいに。馬鹿で。


 それからどうやって帰ったのか思い出せない。多分手を繋いで寄り添って帰った。何を喋ったのか思い出せない。何も喋らなかったのかもしれない。服を脱がされてお風呂場にいて、彼女を洗っている。


 泡だらけになった彼女が今度はぼくを包み込んで。彼女の体は温かくて。うめき声が上がるほどに柔らかくて。全身を包み込まれて。彼女自身がボディタオルみたいに。指先と手の平が。ゆっくりと。緩慢な動作で。体中を這う。喉から胸。先端を通りお腹へ。モモ。ふくらはぎ。


「……ごめ」


「ううん。こっちね。こっち」


 包まれて。飲み込まれて。体と心がバラバラで。体に引っ張られて。なのに受け止められると背中へと手を伸ばして強く密着せずにはいられない。


「他の男と……」


「なぁに?」


「仲良くしないで」


 彼女は答えてくれなかった。ぼくは我慢できなくて。彼女の肩に噛みついてしまった。本気で噛みついたら痛いだろうから。そんなに力は込めなかったけれど。意固地になって。


「こんな事できるのは。ぼくだけにして。お願い」


 知っている。こういう人間の事を。人は。メンヘラって呼ぶって。


「愛しているって。言いなよ。こんなにあたしに匂い付けてさ。あたしの中。あんたのニオイがべったりしてる」


 ニマニマとそう告げ、尻尾で頬を突いてくる彼女が恨めしかった。お風呂を上がりご飯を食べている時も。見返りを欲するように。彼女の傍にいたかった。彼女に求められたい。ぼくが求めている間は多分無理だと感じていた。求められる人にならないとって思うけど……。


 温かいお布団の中。只管に彼女に好意がある事。月よりも綺麗な事。それを囁き続けていた。振りほどけないように雁字搦めにされて。塞がれて。嬉しいだなんて。どうかしている。


 それなのに。彼女は平気でぼくを裏切る。


「今日は。出かけよう。ね?」


「うっうん」


 デートだって浮かれていたぼくは。連れて来られたカラオケの部屋の前で硬直していた。


「昨日ぶりだね。彼氏君」


「やっほー。彼氏君。どしたの? 入らないの? ふふふっ」


「早く入れ。ふひひひひっ」


「こちらへどうぞ。お席が空いておりますよ?」


 脳裏を過る猜疑心。彼女の笑み。腕を引かれて。席へ座らせられて。マイクを握らされて。


「先に。歌っていいよ? ぼく。あんまり歌は得意じゃないし」


「何言ってるの? 得意でしょう?」


「え?」


 扉が閉じた音がした――。


「私達のマイクはお前だから」


 全てが終わった後。恨めしく彼女を眺めるしかなかった。それでも最後は彼女の腕の中に包まれて。噛みつきたくなって。許可も求めず。沈み込み飲み込まれてしまって。慰められているみたいに。嗚咽を漏らしながら。しがみ付くしかない。


 午後からはお家へ。みんなでお風呂に入って。開き直るように洗ってあげて。乾かして。


「ちょっと」


 なんでお尻を撫でるの。


「ふひひひっ。尻尾が失礼」


 みんなでお昼寝。擦れる体毛と熱が心地良くて。みんなとこうして眠るのが嫌いじゃなくて。微睡みと寝息と。聞こえて来て。


 ぼくは彼女に耳打ちするように囁いて。


「……愛しているって言って」


「愛してるよ?」


「もっとちゃんと言って」


「心配なの? 大丈夫。貯金はいっぱい貯めているの。子供ね。いっぱい欲しい」


「……そうじゃなくて。その。愛されているって実感したいの」


「……心配しないで。貴方は私のもの。愛とか。もう。そんな次元じゃないから。あたしのものって思うの。何度でも上書きしてあげる。嫌って言ったら。私……貴方を……」


「じゃあ。もっと愛しているって言って。ちゃんと言って。愛しているの。すごく好き。すごく好き。愛しているだなんて。気持ち悪いかもしれないけど……好きだから」


「うんうん。うんうん。あたしも愛してる。愛してる。愛してる」


「もうずっと離れないで」


「うんうん。あのね。私ね。朝ね。瞼を開けたら。貴方がいるの。それがいいの。だから。朝起きた時は。ちゃんと傍にいてね。じゃないとあたし……」


「ちゃんと……責任取って。もう……こんなの。みんなとだなんて」


「それは。仕方ないの。だって――ね? ふふふっ」


「すぐはぐらかして……。こういうのするのぼくだけだからね。絶対ダメだから。デートもダメだから。二人で会うのもダメだから。友達でもダメだから」


「うんうん。いいよ。ダーリンだけ。ダーリンだけ。その代わり……ね? 受け入れて。ね?」


 彼女と離れたくないばかりに。今の関係を受け入れるしかなくて。ぼくは獣人の事なんて。何も知らなくて。ただ彼女だけは独占したくて。


「ぼくだけだから」


「うんうん。いっぱい。ニオイつけていいよ。中までたっぷり付けなよ」


 慰められるように彼女に埋もれるしかなかった。


 次の日も午後から授業――。涙目になりながらご飯を食べているのは何時もぼくだけ。足をさわさわされて視線を向けると彼女の尻尾。笑みを浮かべる彼女の尻尾がフクラハギからモモ。スカートの裾に触れて。視線を背けつつも。彼女の手が頬に触れるのを嫌がらない。大きくて柔らかい彼女達の手。頭を撫でられたり、胸を撫でられたりお尻をギュッと掴まれたり。談笑と食事の中で。何時もこう。暇だから触るみたいな。


「もうっ……」


 ぼくがどんなに抵抗しようとしても。彼女達はやめてくれず。そしてぼくは、彼女から離れたくない。


「逆だったらただのクズ男だからねッ」


 そう文句を言うと彼女は不思議そうな表情を浮かべ。


「あたし。お前。番。何してもいい」


 何でもはダメだよと思いつつも、抵抗したところで無駄なのはわかっている。


「ついでにうちらも頼むわ」


 ついではダメでしょっ。そう心の中ではツッコむの。でも結局ぼくはそれを口にできず、彼女の手で顔を覆って隠しクンクンするしかなかった。そんな隠れても無駄なんだけれど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る