イヤホン

外出する時、僕はいつもイヤホンをつける。聴いているものは何でもよくて、それをつけていること自体が重要だった。だから、僕はよく彼女の話を聞き逃してしまう。それでも彼女はずっといてくれるのだから、お人好しだ。

そんな僕がある時、そのイヤホンを失くしてしまった。それがなければ外に出られないほど大切だから、肌身離さず持っていたというのに。彼女と共に、僕は懸命にイヤホンを探す。

手が震え、挙動のおぼつかなくなる僕を、彼女は寄り添いながら探すのを手伝ってくれる。申し訳ない気持ちで僕はいっぱいだったが、どこか彼女は嬉しそうだ。

しかしどれだけ探しても見つからないのだから、僕はいつしか半ば諦めていた。

そうしてイヤホンが見つけられないまま続くある日のこと。彼女は用事があり、僕は一人彼女の家で帰りを待っていた。魔が刺したと言えば、そうなのだろう。僕は普段一人で入ることのない彼女の私室に足を踏み入れた。いつもは僕が入る前に何やら片付けをしているようで、少し気になったのだ。

そこには、やけに懐かしく感じる物が数多く置かれていた。あのイヤホンもあった。どれもこれも、僕が外で平静を保つ為に使っていた物ばかり。それがなければ、僕は彼女に頼りっぱなしになってしまうのだから。

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掌編小説 非理想的世界 非理想的世界 @unknown07

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