第26章 — 恥の湖(そしてカイ水棲の偶然なる進化
カイは公園をよろめきながら出てきた。
砂まみれ、ひっかき傷だらけ、シャンプーの匂い、そして尊厳はどこかに置き忘れていた。
リュウナはその後ろを歩き、いつものように天ぷらになった魚を大事そうに抱え、
まるで最高のデート中かのような笑顔でついてきた。
「かぁ〜〜い! 絶望中の走り、どんどん早くなってるよ!」
「褒め言葉になってないから!!」
二人は数メートル走り──
都市公園の中にある小さな人工湖へたどり着いた。
澄んだ水。
ライトに照らされて輝く水面。
ぷかぷか浮かぶアヒルのおもちゃ。
カイは水を見た。
水もカイを見返した。
カイはニヤリと笑った。
「よし…最終手段だ…まただけど…飛び込む。」
「カイ?」
リュウナが首をかしげる。
「また水に入るの? それ、儀式にはすごく有利だよ?」
「有利じゃない!! 多分…多分だけど…“人間の姿じゃ”お前は入れないかもしれないんだよ!!」
カイは考えなかった。
飛んだ。
パシャッ。
湖は浅すぎた。
すねを打つ。
ひざをひねる。
滑る。
40センチ沈む。
屈辱で死にかける。
「いっっってぇぇぇ!!! なんで何一つ上手くいかないんだよ!!」
リュウナは湖の縁に立ち、優しい目で見つめた。
「カイ…迷子のアヒルさんみたいだよ…」
「違う!! アヒルじゃない!!」
「悲しいアヒルさん…」
「やめろ!!」
リュウナは湖へ入った。
歩いたのではない。
浮いた。
風と光でできたかのように、水の上を“滑るように”進んだ。
カイは目をむいた。
「……お前、水の上歩けるの!?!?」
「もちろん。だって水だよ? わたし、海竜だよ?」
「じゃあ水に飛び込んだのは最悪の選択じゃん!!」
「うん。」
「返事すんな!!」
カイは泳ごうとしたが──
湖が浅すぎて、ただ泥の上をゴロゴロしているだけ。
リュウナは水面を滑るように近づいてくる。
湖の光が彼女の瞳に反射し、異様なほど綺麗。
「カイ…ここじゃ逃げられないよ。」
「逃げられる!!」カイは叫び、立ち上がっては沈んだ。
「俺はできる!!」
「カイ…」リュウナは微笑む。
「絶望してるカワウソみたい。」
「動物で例えるな!!」
リュウナはすぐ目の前まで来た。
本当にすぐ。
「カイ…」
彼女は囁く。
「ここ、だよ。」
「ここ“何”!? 何が“ここ”なの!?」
「ここで、ようやくカイが…わたしにマーキングさせてくれるところ。」
カイが固まる。
本能的に、水に浮いていたアヒルのおもちゃを掴み──
それを武器のように構えた。
「ち、近づくな! お、俺には武装アヒルがあるんだぞ!!」
リュウナは笑いを堪えた。
「カイ…ほんっと可愛い。」
「可愛いんじゃない!! 脅しなんだよ!!」
リュウナはさらに一歩近づく。
ガルラがゆっくりと持ち上げられる。
「すぐ終わるよ。優しくする。」
「イヤだ!!」
「ほんの小さな引っかき。」
「NO!!」
「じゃあ軽い噛みつき?」
「もっとダメ!!」
水がリュウナの周囲で光り始めた。
湖そのものが彼女に反応しているようだった。
小さな波。
暖かくなる空気。
水面が彼女の方へ傾くような動き。
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