第21章 — 危険なシャンプー大滑走

カイは映画の逃亡者みたいにスーパーの中を走り回った。

ただし、映画よりカッコ悪く、そして100倍必死に。


リュウナは魚の天ぷらを片手に、

「これ人生最高のデート♡」みたいな顔で追いかけてくる。


「カーーーイ!!」

「なに、衛生用品コーナーに行くの? それって合図だよね! 一緒にお風呂入ろ?」

「違うわああああぁぁぁ!!」


カイはシャンプーとボディソープの通路に飛び込んだ。

そこは細くて……

明るくて……

そしてとんでもなく滑りやすい場所。


商品が落ちたら地獄絵図になるのは明白。


カイはすぐにひらめいた。


「そうだ……彼女が滑ったら……時間稼ぎになる……全部落とせば……!」


カイは棚に手を伸ばし──


一気に腕を掃いた。


シャンプーの滝が崩れ落ちる。


パコン! ガラガラ! ドサッ! パタパタパタ!


床には転がるボトル。

石鹸が滑る。

シャンプーが広がり、

異世界への入り口みたいなぬるぬる絨毯が完成。


カイは狂気の笑みを浮かべた。


「完璧……これで……!」


リュウナが通路に現れた。


美しい。

キラキラしてる。

迫ってくる。


そして一歩──


シャンプーの海に足を置いた。


カイは息を呑む。


「滑れ……滑れ……滑れぇぇぇ!!」


リュウナは滑った。


ガチで滑った。


巨大なスケート選手みたいに前方へ高速スライド。


「カーーーイ! 見てぇぇ! 私とんでるみた──」


バァン!


通路の端に激突し、尻もちをつく。


カイの目が輝いた。


「効いた!? 本当に!? やった!? 俺──」


リュウナはゆっくり起き上がる。


あまりにもゆっくり。


髪は顔にかかり、

魚天ぷらは髪に絡まって、

小麦粉、氷、水、そしてシャンプーでカオス。


顔を上げた彼女の目は……

ギラッと光り……

瞳孔が細くなり……

ニコッとゆっくり微笑んだ。


「カイ……あなた……私を滑らせた……♡」


「ご……偶然で……す……?」

カイは震えながら嘘をつく。


「誰も……“誰も”…私を滑らせたことないのに……」

「そ、そうですか、じゃあ帰りま──」

「でも……あなたはできた……♡」

「褒めてないよねそれ!?」

「すっごく褒めてる♡」


リュウナは立ち上がる──


その瞬間、店内BGMがタイミング悪くロマンチックな曲に変わる。


最悪。


彼女は一歩踏み出した。


──そしてまた滑った。


前のめりで。


そのままカイへ一直線スライド。


カイは叫んだ。


「うわあああああ来るなあああ!!」


パシャッ!


彼女はカイの上に倒れ込み、棚の半分を巻き込む。


二人は床の上でシャンプーにまみれ滑りながら倒れた。

壁には前章のメロンの残骸。

魚はカイの袖に刺さっている。


カイは立ち上がろうとした。


失敗。


もう一度。


大失敗。


リュウナは、

「世界一ドジな赤ちゃん動物を見守る母親」みたいな目で彼を眺めている。


「カイ……♡」

「な、なんだよ今度は……」

「あなた……桃とミントの匂いがする……♡ 私その匂い大好き♡」

「偶然ついたんだよ!!!」

「運命だね♡」

「3種類のシャンプーで転がったんだよおお!!」


リュウナは優しく手を上げた。


青い爪が光る。

明らかに恋と危険の合体技。


「カイ……こんなに近くにいるんだし……そろそろ“印”つけてもいいよね……♡」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


カイは滑りながら逃げた。

本当に石鹸みたいにツルツルと通路を全速滑走。


そして洗剤の段ボール山に激突。


リュウナも滑りながら追いかける。

まるで巨大な子どもが腹ばいで滑り台を満喫しているかのように。


通路は、

危険で、

混乱で、

そしてなぜかほんのりロマンチックな……

地獄のスケートリンクと化した。

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